訴訟係属中での当事者の死亡

AはBに対して勝訴の判決を得ましたが、弁論終結前にBが死亡していたことが判明しました。AがBの相続人Cに対して強制執行をするには、どのような方法があるでしょうか。AはBの承継人Cに対する承継執行文の付与を求めて強制執行をなすべきです。訴訟係属中に当事者が死亡した場合に、原則として訴訟手続は中断しその訴訟の訴訟物を承継取得した相続人らがその訴訟を受継がなければならず、その受継の手続としては、相続人またはその訴訟の相手方から訴訟手続の受継の申立てをし、また当事者から受継の申立てがなされない場合には裁判所が職権によって訴訟手続の続行を命じ、訴訟手続きを進行することができます。ところが、死亡した当事者に訴訟代理人がある場合、訴訟手続は中断しません。訴訟代理人はその訴訟関係を熟知しており、また当事者の死亡によって訴訟代理権は消滅しないため、その訴訟について訴訟行為を続行する義務と権限を有するため、そのままその訴訟を追行しても支障はなく、当事者に不利益を被らせるおそれがないからです。そして、訴訟代理人によって追行される訴訟手続は、判決が言い渡されて訴訟代理人に対し判決正本が送達された時、訴訟代理人に上訴に関する特別委任がなされていない場合には中断することとなりますが、特別委任がなされている場合には上訴なきかぎりそのまま上訴期間は進行し、判決は確定します。

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訴訟代理人は、当事者死亡後、旧当事者の代理人としてではなく、新当事者である相続人の代理人として訴訟を追行するのであり、新当事者が何人であるかは口頭弁論において主張され、争いがあれば証拠によって認定されることとなります。ただ、相続の事実等が口頭弁論にあらわれないため裁判所にも事実が判明しない場合には、訴訟代理人は旧当事者の名で訴訟を追行しますが、実質的には新当事者の代理人として訴訟行為を行なうのです。この見解は、民訴法二一三条の趣旨を、訴訟代理人がいるために、旧当事者が死亡して新当事者が承継した訴訟手続の中断、受継の手続を省略しているにすぎないと解することに基礎をおくものといえます。
訴訟代理人の地位に関する通説、判例の見解にたった場合、裁判所は、訴訟手続の過程において相続人の氏名が判明したときは、以後当事者の表示は、口頭弁論調書においても、判決においても新当事者名をもってなすぺきです。これに対し、当事者死亡の事実が口頭弁論において判明しない場合には、そのまま訴訟手続を続行し、旧当事者である死亡者の氏名を表示して判決がなされることとなりますが、前記説示から明らかなように、この場合の訴訟手続は、新当事者のためになされていたのであるため、判決は新当事者である相続人に対するものとして有効と解すべきです。
このように被相続人Bを表示した判決は、相続人Cに対する判決として有効ですが、この判決によってCに対して強制執行をなすためにはまずCに対する執行文の付与をうけなければなりません。つまり強制執行を開始するにあたり、当該執行力ある正本によって、何人が何人に対して執行しうるかを明らかにするため、債務名義またはこれに付記する執行文に、強制執行を求める者及びこれをうける者の氏名が表示されていなければなりません。それゆえ、当事者が死亡した場合、死亡者の氏名をもって執行文の付与をうけることはできないと解されています。
本判決において、当事者がBと表示されているため、そのままでCに対する執行文を付与することはできません。そこで、債務名義上のBの表示を執行当事者であるCと一致させる必要があり、その方法として次のような見解が示されています。
第一説として、承継人が実質上の当事者であるため、判決の更正の申立てによって当事者の表示の訂正を求め、訂正後の承継人に対し執行文の付与を求めるべきであるとする見解があり、第二説として、民訟法五一九条を類推適用して、承継執行文の付与によりまかなうべきであるとする見解があります。
まず、第一説について検討すると、更正決定は違算、書損其の他之に類する明自なる誤謬あるときに許されます。更正決定の許される誤謬とは、判決の実質的内容の変更をきたすものではなく、表現上の訂正にすぎないものといいます。そして、その誤謬は判決、訴訟の全趣旨および訴訟記録全体から明白なものと判断されるものでなければなりません。
本問の場合、Bは死亡し、実質上の当事者はCであったのであるため、BをCと訂正しても判決の実質的内容の変更をきたすものではなく、Bの表示は更正決定の予定する誤謬に含まれるということができます。しかし、Bが死亡しCが承継した事実は、口頭弁論にもあらわれず、訴訟記録からもうかがい知ることができない場合であるため、これを明白な誤謬にあたるとすることは疑問であり、消極に解されます。なお、最高裁昭和四二年八月二五日判決は、旧当事者を表示しているときは当事者の表示を更正すぺきである旨判示していますが、この事案は、原審の段階で、当事者の一方から相手方の死亡の事実と相続関係を証明する戸籍騰本を添えて受継の申立書が裁判所に提出されているのに、裁判所が死亡者をそのまま当事者と表示した事案であって、厳格には受継の申立としたのは誤りであったにせよ、旧当事者の死亡と新当事者の相続の事実が記録上明らかであるのに、裁判所が対応措置を誤った場合であり、上告審が自ら当事者の表示を更正したものです。この判決をもって訴訟記録等から承継の事実が判明しない場合にまで更正決定で当事者の表示を訂正することを許した趣旨と解することはできません。第一説は、手続上簡便ではありますが、本問のような場合にまで民訴法一九四条一項の解釈によることには無理があります。これに対し、第二説は、民事訴訟法五一九条に規定する承継執行文の付与手続を利用しようとするものです。承継執行文とは、債務名義に表示された債権者または債務者に承継があった場合において、その承継人のために、またはこれに対して執行力が及ぶとき、債権者または債務者としてその承継人を表示した執行文をいいます。そして、執行力の及ぶ承継人とは、債務名義の既判力の及ぶ範囲と同一にあると解され、債務名義が判決の場合には、事実審の口頭弁論終結後の承継人がこれにあたります。
Cは口頭弁論終結前の承継人であるため、民事訴訟法五一九条の予定する承継人に当然には該当しないといわざるをえません。しかし、通常の場合、事実審の口頭弁論終結前の承継人に対しては、判決の執行力が及ばないため承継執行文の付与が拒杏されることは当然ですが、Cは判決上の表示にかかわらず、Bの承継人であり、実質上新当事者という地位において判決の効力をうけているのです。それに加えて、承継執行文は、執行力の及ぶ承継人のために、またはこれに対して執行当事者としての地位を取得せしめる手続上の手段であることに鑑みるとき、このような地位にあるCに対し民訴法五一九条を類推適用して承継執行文を付与することができると解することは決して飛躍した論理ではありません。むしろ、訴訟代理人のある場合の訴訟承継に関する特例と、執行文制度の形式性の調和をはかりうり、手続的な正確性をも担保できる点で、妥当な解釈といえます。

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