執行文の付与

AB間の遺産分割の家事裁判において、BはAに対して金100万円を支払うべき旨の決定があり確定しています。Aは強制執行を求めるについて、執行文の付与をうけなければならないのでしょうか。これについてはAは、強制執行を求めるについて執行文の付与をうける必要はありません。強制執行を実施するには、その基本となる債務名義が有効に存在し、現に執行力をもつものでなければなりませんが、その調査判定を執行機関に任せるのは適当ではありません。また、債務名義に表示された者以外の者のために、または以外の者に対して執行すべき場合は、債務名義を補充する必要があります。そこで、これらの点をあらかじめ他の機関に調査させて執行力ある旨の証明を債務名義の正本の末尾に付記させることとし、この執行文の付記された債務名義の正本においては、債務名義の有効な存在、その執行力の現存が公証されているため、執行機関は、これにもとづいて直ちに執行に着手できることとしたのです。

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債務名義が執行力ある正本となるためには、原則として執行文の付記が必要です。確定の給付判決や確定判決と同一の効力を有する調書はもとより、仮執行宣言付判決、執行判決、執行証書のように執行できる旨の宣言を包含するものでも、なお執行文の付記を要します。しかし、例外として執行文を必要としないものがあります。仮執行宣言付の支払命今および仮差押、仮処分命令は、成立後すぐに執行できる必要があり、また迅速に執行をなすのが目的であるため、その間執行文による公証をいれる必要がないので、承継執行文を必要とする場合のほかは執行文の付記を要しません。検察官の執行命令は、それ自体執行力ある債務名義と同一の効力が付与されているということでもって、執行文の付記を要しないとされています。
本事例は、遺産分割の家事審判であり、特定人の具体的給付義務を宣言した家事審判も執行力を有し、金銭の支払、物の引渡、登記義務の履行その他の給付を命じる審判は、執行力ある債務名義と同一の効力を有するとされています。そこで執行力ある債務名義、執行力ある正本という理解のもとに、本事例のような場合、Aが強制執行を申し立てるには、執行文の付与をうける必要がないとしますが、通説および実務の取扱いです。ただし、当事者に承継がある場合には、執行文の付与をうけなければならないとされています。
しかし、かかる通説的見解に対しては、有力な反対説が存在します。反対説は、その理由として次のような点をあげています。第一は、非訟事件手続法を通じ非訟事件の裁判を、相対する私人間の関係において債務名義としている場合に、執行文の付与なしに強制執行をなしうるとしている例はなく、家事審判の場合も家事審判法一五条以外の場合はみな執行文の付与を要求しているということです。第二は、執行力ある債務名義と同一の効力を有するという表現は、民訴五六一条ノ二、非訟二○八条一項、家審二九条、民訴三六条一項、民訴費一五条、一六案等にその例がみられ、これらの場合は執行文の付与を要しないとされていますが、そのことは執行力ある債務名義という表現から導き出されるのではないということです。つまり、これらの場合は、国が債権者でありしかも公法上の債権である関係上、本質を行政執行と入ることから、執行文の付与を要しないという結論が導かれるのであるとしています。第三は、執行文の付与なくして執行しうる旨を法律上規定する場合は、まず当該裁判が執行の基本たる債務名義であることを規定し、次に執行文の付与を要する例外の場合を規定することによって、原則として執行文の付与を要しないとするのが一般であるということです。もし通説が正しいとすれば、執行の基本たる債務名義となるということを省略して、直ちに執行力ある正本と同一の効力を有すると規定したことになり、立法の一般の表現法に反していることになるとしています。以上の点よりすれば、家審法一五条にいう執行力ある債務名義とは、執行しうる債務名義以上の意味を有せず、執行力ある正本の意味ではなく、執行力ある裁判の正本の意味でもないため、家審法一五条による債務名義に基づく執行のためには執行文の付与を要する、というべきことになります。
通説では、その根拠を家審法一五条の執行力ある債務名義という表現にのみ求めるのであって、それ以上なにゆえに、金銭の支払、物の引渡、登記義務の履行その他の給付を命じる審判にもとづいて執行を申し立てるには、執行文の付与を必要としないとされるのかを、明らかにしてはいません。他の債務名義と区別して、かかる審判に、特に執行文の付与を必要としないとする理由を見い出しえません。それゆえ、形式上も実質上も、家審法一五条の解釈については、反対説に与みすることが妥当であると思われます。したがって本事例の場合、Aは執行文の付与を必要とすると解すべきですが、現在の通説および実務からすれば、必要としないと解すべきことになります。

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