仮執行宣言と判決の範囲

原判決は、金銭の支払いを命じるが、仮執行宣言は付されていない控訴審において、控訴を棄却して仮執行を認めようとする場合に、控訴棄却の主文に仮執行宣言を付してよいのでしょうか。そのような判決があったとして、債権者は執行文の付与を求めることができるのでしょうか。執行文は、どのような形式で付与すべきでしょうか。原則として、原判決中の必要部分に仮執行の宣言を付し、原判決と控訴審判決の各正本を連結したものを債務名義としてこれに執行文を付与する方法によるのが妥当ですが、原判決全体に仮執行宣言を付する必要が認められるとして控訴棄却の判決に仮執行の宣言が付された場合には、同じく両判決の正本を連結したものを債務名義として、これに執行文を付与すべきです。

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仮執行の宣言をどのような判決に付することができるかについては、やや問題があります。財産権上の請求に関するものであるかぎり、給付判決のみにとどまらず、確認判決、形成判決についてもこれを付与することができるとする見解が現在の通説ですが、かつては、給付判決のみに限るとする説もありました。仮執行の宣言を狭義の執行力を付与するものと理解すれば、給付判決のみにこれを付しうることとなりますが、狭義の執行力にとどまらず、確定判決と同じくその内容に適合する状態を実現しうる効力、つまり広義の執行力を付与する形成的裁判であると解する現在の通説の立場からすれば、広義の執行力を付与する必要があるかぎり、給付判決のみならず、確認判決および形成判決についても仮執行の宣言を付することができることとなります。控訴棄却の判決は、原判決に対する不服の申立ての理由がないことを確認する確認判決ですが、通説によるかぎり、この点は仮執行の宣言を付する理論上の障害とはなりません。しかし、上訴棄却の判決に仮執行の宣言を付することはできないとする有力説があります。
原判決が金銭の支払いを命じるが仮執行の宣言が付されていない場合、控訴審が原判決を維持して仮執行を認めようとするときの仮執行の宣言の付し方には二つの方法が考えられます。その一つは、控訴審判決において、原判決に仮執行宣言を付する方法であり、他は、控訴審判決、つまり控訴棄却の判決自体に仮執行の宣言を付する方法です。具体的にいうと、原判決に仮執行の宣言を付する前者の方法は、原判決は、被控訴人において金○万円の担保を供するときは、仮に執行することができる旨を宣言するのであり、控訴棄却の判決自体に仮執行の宣言を付する後者の方法は、本判決は、被控訴人において金○万円の担保を供するときは、仮に執行することができる旨を宣言するわけです。
原判決に仮執行の宣言を付する場合には、必ずしもその全部に付さなければならないものではなく、一部に付することも可能です。例えば原告一部勝訴の場合には、原判決中の原告勝訴部分にかぎって仮執行宣言を付するべきであり、訴訟費用の負担を命じる部分を除外することも可能です。これに反して、控訴棄却の判決自体に仮執行宣言を付した場合には、原判決全体について広義の執行力が生じ、金銭の支払い等の給付を命じる部分について狭義の執行力が生じるのはもちろん、原告一部勝訴の場合には、原告の請求の一部棄却の部分についても、確定判決と同様の効果が発生し、訴訟費用の負担を命じる部分についても同様です。
通説によるかぎり控訴棄却の判決自体に仮執行の宣言を付することに理論上の障害はないために、原判決に仮執行の宣言を付する方法とのうちのいずれを選択するかは、どちらのほうがより適切妥当かという観点から決せられることとなります。この点について、仮執行宣言の本質からいって、控訴審判決自体に仮執行の宣言を付するほうが理論的に正当であるとする見解もあります。しかし、控訴裁判所は、判決前において、原判決中の不服申立てのない部分にかぎり、申立てにより決定をもって仮執行の宣言をすることができることでもあり、控訴審判決において、原判決の全部または一部に仮執行宣言を付することに格別理論上の問題はないように思われます。逆に裁判所は、必要があると認めた範囲内で仮執行の宣言を付するべきことから考えると、原判決全部が確定したのと同様な効力を生じさせる必要がある場合は格別、必ずしもそうではない場合には、控訴棄却の判決自体に仮執行の宣言を付することは、必要な範囲をこえて仮執行の宣言を付する結果となります。原告一部勝訴の場合には原判決の原告勝訴部分についてのみ仮執行の宣言を付し、原告全部勝訴の場合には控訴棄却の判決に仮執行の宣言を付するというのも理論的に一貫しません。実務上も、格別統一的な取扱いがされているわけではありませんが、原告一部勝訴の場合はもちろん、全部勝訴の場合についても、控訴棄却の判決にではなく、原判決に仮執行の宣言を付する方法がとられるのが通常のようです。
控訴棄却の判決によって仮執行の宣言が付された場合に、執行文を付与すべき債務名義は何かという問題があります。債務名義を一定の私法上の給付義務の存在を証明する点から、法律が強制執行によってその内容を実現できる執行力を認めた公正の文書をいうとする理論的立場からすれば、債務名義となるのは原判決のみであり、控訴審判決によって仮執行の宣言が付されたことは、判決が確定したことと同じく、判決が執行力を有することを基礎づける事実にすぎないと解することもできます。この立場からすれば、原判決のみに執行文を付与し、正本付与の記入も原判決にするべきであるということになります。しかし、実務上は、原判決と仮執行宣言を付した控訴棄却の判決の各正本を連結したものを債務名義とし、これに執行文を付与する取扱いが一般のようです。正本付与の記入は、控訴審判決と連結したものに執行文を付与したことを明らかにしたうえで、原判決の原本にすることになります。この問題については、控訴棄却の判決で仮執行の宣言を付する場合に原判決に付するか、あるいは控訴棄却の判決自体に付するかという前述したいずれの立場をとっても、かわりはありません。控訴棄却の判決があった場合、債務名義となるのは第一審判決であると解すぺき以上、控訴棄却の判決自体に仮執行の宣言が付された場合でも、第一審判決が債務名義でなくなる理由はないというぺきです。

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