債務名義の金額の誤記

金銭の支払いを命じる債務名義に金額の誤記のあることが判明した場合、積権者は、どうすればよいのでしょうか。債務名義が判決、決定等の裁判、あるいは、和解調書、調停調書等であって、更正決定による更正が可能な場合には、その旨の申立てをすればよいのですが、更正決定の方法にはよりえない誤謬の場合および債務名義が執行証書である場合等には、更正する途はありません。
金額の誤記のある債務名義が、確定あるいは仮執行宣言付の終局判決、仮執行宣言付支払命令、仮差押、仮処分決定等の裁判である場合には、更正決定によってその誤記を更正できる場合があります。
更正決定によって更正することができるのは、判決、決定等に違算、書損其の他之に類する明白なる誤謬あるときです。つまり、裁判の内容についての実質的な誤りではなく、明白な形式的な誤りをいうと一般にいわれていますが、その差は必ずしも明白ではなく、実務上は、書き間違いのような純然たる形式的誤謬だけにとどまらず、明白であるかぎり判断形成過程に誤謬がある場合にも更正を認めているといわれます。しかし、あくまで、判決内容の実質的変更にならない場合でなければなりません。

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次に、明白な誤謬といえるかどうかについて、どの範囲の資料によって判断するのかという問代があります。判決の場合についていえば、判決それ自体のみから誤謬であることが明白な場合に限定する厳格な考え方と、判決およびそれに表示された全資料から明白な場合を含めてよいとして、さらに訴訟資料全体からみて明白であればよいとする柔軟な考え方とがあり、後者のほうが更正を認める範囲が広くなることは当然です。実務上は、古くはかなり厳格な考え方がとられていましたが、その後の一般的な傾向としては、訴訟経済あるいは実際的な妥当性という観点から、関係資料により明白な誤謬と認められるかぎり、広く更正を認めようとする方向にあるといえます。
明白な誤謬と認められるかぎり、それが当事者の過失によるものであると、裁判所の過失によるものであるとにかかわりありません。したがって、当事者の申立て、主張自体に誤謬があり、そのため裁判に誤謬が生じた場合でも、更正が認められます。
以上に述べたとおりであるため、債務名義である裁判中に金額の誤記がある場合において、それが裁判自体からして誤記であることが明白なとき、例えば、判決理由中の判断では正しい金額が判示されていますが、主文に掲げる際に桁を間違えたり、数字を書き間違えたりした場合とか、理由中で数口の正しい債権額を表示しながらその合算に際して計算違いをして最終認容額が誤ったような場合には、もちろん更正決定の方法によって更正することが許されます。また、判決自体からは必ずしも誤記であることが明白とはいえませんが、訴訟資料、例えば書証として提出され真正に成立したものとして事実認定の資料に供された売買契約書中の売買代金の記載等から、判決中の売買代金の記載が誤記であることが明白な場合等も、更正を認めてさしつかえないこととなります。これに対して、訴訟と無関係な他の資料によって、客観的には誤謬であると認められる場合でも、訴訟資料だけではそのことが明らかでないときは、明白な誤謬とはいえないため、更正することは許されません。更正決定は、職権でもできますが、当事者にも申立権が認められています。
更正機関は判決をした裁判所ですが、事件が上級審に係属している場合には、上訴裁判所もできるとするのが実務の取扱いです。更正決定に対しては、当事者は、即時坑告をすることができますが、適法な控訴提起があれば、控訴審判決であわせて更正の適否についても判断されることとなります。更正決定の申立てを却下した決定に対して即時抗告をすることが許されるかどうかについては争いがあります。
更正決定によることができない誤記については、更正する方途はなく、当該債務名義にもとづく執行においては、誤記されたところに従ってするほかありません。
債務名義が和解調書、調停調書、請求の認諾調書等裁判以外のもので、裁判と同様の執行力を有するものである場合においても、裁判に準じて更正決定をすることができると解するのが実務の取扱いです。これらの調書の場合には、明白な誤謬と認められるか否かについて裁判の場合よりもさらに問題が多い。和解、調停は、当事者双方の合意によって成立するものであるため、関係資料のみでは調書の記載内容が当事者双方の意思表示と一致しているかどうかを判断することが難しいからです。期日外で当事者間において作成された契約書、覚書またはそれらの草案等が記録に編綴されているようなときは、明白な誤謬と認定できることもあります。また、誤記であることについて当事者間に争いがないときには、更正を相当とすることが多いでしょうが、争いがあって、しかも記録上明白でない場合には、更正の方法によることはできず、別訴によって争うしかありません。
破産手続における債権表、会社更生手続における更生債権者表および更生担保権者表等についても和解調書等の場合とほぼ同様です。
債務名義が執行証書である場合には、更正決定による更正のような方法は認められていません。公正証書の文字の訂正自体についても厳格な方式が定められていますがこれも原本作成完了までのことであって、完成後は、誤謬を発見して訂正を要するにいたったとしても、この方法によって挿入削除をすることは許されません。もちろん公正証書全体の記載から総合的に判断して各条項の意味内容を確定することは合理的解釈として許されるために、誤記があっても、全体の記載からそれが誤記であることが明白であり、正しい金額が証書上明らかであるときは、誤記の訂正をしなくても全体として正しい金額の表示があるものと解されます。しかし、証書の記載だけでは誤謬であることが明白といえなければ、新たに正しい内容の公正証書の作成嘱託をする以外に方法はありません。

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