利息の棚上げ

利息を支払う約定になっている金銭債務の弁済について、債務者が元本、利息等の全債務を消滅させるに足るだけの給付をしないときには、民法四九一条により、費用、利息および元本の順序で債務の弁済に充当することになっています。金融取引では、この民法の定めどおりの充当をすることは当然に債権者たる銀行側の利益に合致することであるために、債務者たる企業の業績が悪化して借入金を満足に返済できないような事態に陥り、一部入金があったときには、まず利息債務に充当されます。さらにこのような事態が長期間続くことが予想される場合には、返済約定を変更して元本の返済を少額にする等の措置がとられます。このようにして、企業が主として利息債務の支払に追われる形になると元本債務は滅少しないために支払うべき利息債務も一向に滅少せず、企業側の収支、ひいては財務状況は改善されないまま、さらに窮状に陥ることも考えられます。

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一般に利息の棚上げは、企業の業況悪化が著しく、かつ建直しには相当長期を要するような事態にありますが、社会的要請もあり企業の存続を維持しなければならないようなときに救済策の一環として例外的に行なわれる措置です。その狙いとするところは、さしあたり企業の支払能力を超えている利息債務の支払を一時猶予することによって、延滞している債務を整理し、返済を本来の約定ペースに戻したり、あるいは元本への弁済充当を多くすることによって結果的に利息負担の軽滅をはかり、企業側の窮状救済そして返済意欲の促進をはかることにあります。
利息の棚上げが何を意味するかについて明確に定義があるわけではありませんが、実務上は、様々な態様が考えられます。文字どおりにいえば、利息の支払を一時猶予することであるために、利息先取りが原則である手形貸付の場合に、手形の期日が来てこれを書替える際に、次回の利息を徴取せずに双方の合意で延期証書に利息の支払時期、方法を定めることや、書替手形の金額を利息分だけ増額するといったことで処理して、単に利息の支払を延期することも含まれますが、長期資金の証書貸付の場合では、利息は後払が原則で元本の割賦返済期日にあわせて利息の支払期日も定められているのが通常であるために、元本および利息の双方の支払を全額延期しない限り、元本、利息間の充当順序の変更を伴うことになります。
証書貸付で債務の棚上げといわず、あえて利息の棚上げというときには、元本債務への優先充当を伴うのが一般的であり、なかでも延滞している債務について延滞利息の全部または一部を棚上げして、延滞元本を含めた残金について新たに返済約定を定めたり、あるいは延滞元本の一部を入金させたりすることをいうのが通常です。ときには将来に向って利息債務の支払を猶予し、元本債務への弁済充当を優先的に行うという内容のものもあります。
利息棚上げに際して、元本の支払を利息のそれに優先させる内容を含むかぎりでは、その法的性質は、利息、元本間の充当順序について、民法四九一条に定める法定充当をとらず、当事者間の合意でこの順序を変更すること、および充当順序の変更に伴い残存する利息債務の支払期日、方法を延期し変更することです。
費用、利息、元本の間の充当順序は法定充当によることが当事者双方の意思に最も適する方法といえるため、一方の当事者が充当指定権を持っている場合にも、その一方的意思表示によってこの順序を変更することはできませんが、当事者の合意によってその順序を変更し元本、利息の順で充当することにしたり、あるいは将来に向ってそのように変更することを約定することはさしつかえないものとされています。
利息の棚上げは、当然のことながら、いずれの態様にあっても棚上げ利息について一定期間その支払を猶予する約定を含みます。利息の棚上げは、往々にして棚上げされた利息の免除と誤解され易いのですが、免除ではなく支払の猶予であり、変更契約にあたっては、棚上げ利息の支払の猶予期間およびその支払方法を明確にしておくことが望ましい。

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