諾成的消費貸借

民法では、消費貸借の成立要件として、目的物の交付を要求しています、しかし金銭貸借の実際を過程そってみると、その大部分は、まず貸付内容、金額、利息、弁済期日、担保の決定、契約証書の作成、抵当権などの担保の設定登記をしたうえで金銭の授受がなされます。
この消費貸借の要物性を固持すると、金銭の授受のなされる前の証書、抵当権などは無効となることになります。
抵当権につき、判例では、抵当権は債権を担保するために設定するものであるために、抵当権の設定当時、抵当権によって担保される債権は存在する必要はなく、のちに成立するものでもよいと判示しました。この判決は理論的には、消費貸借の要物性を否定したものではなく、抵当権の付従性を緩和したものですが、結果的には実際例と一致します。
やや遅れて公正証書についても、理論構成としては、公正証書の性質に着目して、同様の結果を認めています。つまり公正証書には事実を記載しなければなりませんが、公正証書に当該請求権が他の請求権と区別して識別できる程度に具体的に記載されていれば、公正証書は債務名義としての効力を有すると判示しています。

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金銭の授受についても、その厳格さを緩和し、現実の社会的要請に順応していった判例も多く見られます。
目的物の授受は、直接貸主、借主間でなされる必要はないと判示しています。例えばAが取引銀行から、Aの計算において、Bに金銭を交付させた場合にも、AB間に消費貸借が成立するとし、連帯債務者の一人に対し金銭の交付があれば、他の連帯債務者にも消費貸借の成立を認めています。
現実の授受によらず、現金に代えてなした国庫債券の授受、預金通帳とその預金引出のできる印鑑の交付、現金の授受に代えてなした小切手の授受につき、いずれも代替物授受のときに消費貸借の成立を認めています。しかし貸主が現金の交付に代えて手形を交付した場合には、手形の割引により銀行から金銭の交付を受けた時に、手形面の金額につき消費貸借が成立すると判示しています。
学説では、判例のように要物性の緩和の理論を用いることなく、端的に諾成的消費貸借を次のような根拠で容認しています。
まず消費貸借を要物契約としたのは、ローマ法の理論の引き移しであり、近代法は契約の拘束力を意思に求めており、契約の自由が確立され、諾成契約が普通となった今日、要物性を強調することは経済的実情にそぐわない。
民法は消費貸借の予約を前提とする規定をおいているので消費貸借の要物性は破られている。学説では、消費貸借の要物性と規定とを矛盾なく説明するために次のようにしています。消費貸借が要物契約とされたのは、消費貸借が無償契約であったことにあるために、利息付消費貸借においてはその関係を維持すべき理由はない。つまり消費貸借が要物契約であるのは、無利息消費貸借に限定され、利息消費貸借では、諾成消費貸借が肯定されます。
諾成的消費貸借を肯定する通説によると、次のような効力が、諾成的消費貸借に与えられます。
消費貸借の予約では、金銭の授受にあたり、まず本契約を締結しなければなりませんが、それと異なり諾成的消費貸借では、その必要はなく、金員の交付は、貸す債務の履行になります。また借主の権利は、諾成的消費貸借である本契約に基づくものであるために、第三者に譲渡することもでき、第三者は差押えもでき、また借主に対する貸主の金銭債権と相殺することもできます。しかし借主が、破産したように信用状態の悪化、借主が義務違反し、信頼関係が破壊されたような場合は、五八九条を類推し、借主の権利を消滅させるのが妥当です。
諾成的消費貸借を認容するならば、金銭受領前に設定された担保権、執行許諾文言のついた公正証書も効力を有することになります。いずれの場合も前記判例のような迂廻した説明債必要としなくなります。
借主は、諾成的消費貸借の日から利息を支払うべき債務を負う特約を妨げないという見解もあります。その理由は、借主は前段に述ぺたように、借主としての地位を経済的に利用できるからということです。なお借主は、諾成的消費貸借によって、退還債務を負うことになります。金銭の授受がないのに返還債務を負うというのはおかしいとの反論もありますが、実際には、貸主が金銭を交付しないでなした返還請求に対しては、借主は不受領の抗弁権を主張できるために、前記結果は不当ではありません。

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