貸付金による預金と金銭貸借

契約が成立するためには当事者の合意だけがあればよく、例えば売買契約では売り買いという意思表示の合意があれば契約は成立します。このように合意だけで成立する契約を諾成契約といいます。これに対して合意だけでなく、そのほかに契約書作成がないと契約が成立しない場合や物の交付がないと契約が成立しない場合があります。前者の場合は国を相手方とする売買、賃貸借、請負等の契約にみられ、要式契約とよばれます。後者の場合は、要物契約と呼ばれ、使用貸借や消費貸借にその例がみられる。要物契約は物を交付しないと契約が成立しませんが、反対の諾成契約を考えると、例えば売買契約では、合意によって契約が成立し、その契約から売主買主双方に、債権債務が生じます。双方に債権債務が発生する契約を双務契約といい、また無償でないときは、有償双務契約とよばれます。現代の契約の大部分のものは有償双務契約です。有償双務契約の場合、債務の履行を請求するには双方とも請求でき、一方が不履行なら他方も履行を拒むことによって、当事者の一方だけに不利益を強いることを防ぐことができます。これに対して、一方だけが債務を負う場合、すなわち無償の片務契約の場合は、贈与の約束ができた場合、契約はあくまで契約だというわけで贈与者が贈与の履行を、何らの対価なしに法的に強制されるというのは割り切れないものを感じさせます。無償で金を貸すという契約では、借主はタダで金を使わせてもらうだけであるために、金を貸してもらう前に口約束があったことだけを理由に金を貸せと請求できるのは無理があり、貸主が現実に金銭を交付した場合にはじめて、借主に返還すべき債務を認めるということになります。無償、片務契約から債務を発生させることができるためには当事者の一方の物の交付等、ある種の行為がなければならないとするのが合理的です。

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債務発生のためには、当事者一方の物の交付だけに限定せず、広く行為一般を要件としてもよいために要物契約といわずに、諾成契約の方がよいという考え方もあります。贈与はまがりなりにも諾成契約ということになっています。しかしその契約からは贈与者に確定的な債務を生じません。民法はこの趣旨を、書面によらない場合と履行の終了前の段階で取消ができるという形で示した片務契約では要物契約という形をとりますが、民法の消費貸借は要物契約とされています。
消費貸借は金銭その他の物の交付によって成立します。そうしてこの要物性は借主の返還債務を発生させるに必要にして充分なる程度においてなされなければなりません。特に現実的な金銭の交付がなくても要物性を充足し、借主の返還義務を発生させることがあります。
金銭の交付があってもその前提となる消費貸借の合意がなければ消費貸借は不成立となりますが、合意は金銭の交付後になされた場合でもよいとされます。組合が生活保障のための争議資金を交付し、のちにこれの返還の要否を組合の定期大会で決め、指名ストライキを行なった組合員には返還を免徐し、全面ストライキを行なった組合員で、組合を脱退した者には交付金を一時に返還させることにした場合に、交付された争議資金の返還義務の範囲および態様については争議資金交付の時に、本件争議終了後に組合の決議機関の決定するところによる旨の組合と脱退組合員との間の暗黙の合意があったとして、消費貸借の成立を肯定しました。
現実の交付がなくても要物性を充足するとされる例もありますが、そのための理論構成として判決では借主が経済上現実の授受と同一の利益を受けるときは消費貸借は成立するとしています。経済上現実の授受と同一の利益を受けるとされた例として、
相殺型、貸主が借主から金銭の交付を受ける権利をもっているときに、例えば借主の他人への支払いを貸主が立替払いをした場合に賃金をこれと相殺する場合。
準消費貸借あるいは簡易の引渡型、すでになされた消費賃借の元利金およびその不履行による損害金をもって消費賃借の目的とした場合。
同占有改定・簡易の引渡合併型、借主が借りた金を、貸主に差し入れるべき身元保証金にあてた場合。
貸金を賃主へ寄託した場合、この場合も一方において貸主から金を借りてその占有を貸主のもとに残し、他方において貸主のもとに預金をすることは、先の占有改定・簡易の引渡合併型の中に入り、別類型を立てる必要がないかのようにみえます。借主が預金をいつでも引き出せる状態において預金しておく場合は消費賃借の要物性を充足するといえます。定期預金として預け入れておいても満期後の払戻が封じられているわけではないために、消費貸借の要物性を充足することに変わりがありません。支払停止に先立つ前に金融の都合上当時直ちに現金の交付ができない事情のもとで、貸金をしたこととし、その貸金を貸主銀行に定期預金をさせ、定期預金証書を発行するとしても、その消費貸借には要物性が欠けるといわなければなりません。他方においては、借りた金銭の一部を定期預金として預けることが金を借りるためのいわば条件となっているとしたら、預け入れる部分について消費貸借の要物性を認めることが妥当であるかどうかは間題の余地があります。

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