差押の許される範囲

給与債権を差押る場合に、差押の許される範囲を計算するにあたって基準となるのは、給与債権の名目額か、手取額か、手取額によるとした場場合、控除を許されるものはどういうものでしょうか。この場合は手取額を基準とすべきです。名目額から控除を許されるのは、所得税、住民税、社会保険料にかぎります。
執行債務者が勤労によって所得を得ている場合、使用者に対して有する日々の給料債権は、原則としてその4分の1にかぎり差し押えることができます。給料債権とは、勤労の対価として支払を請求できる金銭債権であって、賃金、給与、俸給といった名称のいかんを問わず、本俸以外に支給される諸手当もすべて含まれます。このように法が給料債権の差押につき一定の制限を設けたのは、給料が勤労者やその家族の生活の重要な資源であることを考慮して、社会政策的な見地からその生活を保護する趣旨にほかなりません。

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被用者が使用者から現実に支給されるのは、これら給料債権の全額でなく、所得税をはじめ各種の費目を控除した残額であり、一般にこれを手取額とよんでいます。そこで、差押可能な4分の1とは、名目額、手取額のいずれを基準にしていうのでしょうか、また手取額によるとしても、どの範囲まで控除を許してよいのでしょうか、条文が簡単なために解釈の分かれるところです。
名目額、手取額のいずれを基準とするかについては、次のように三つの考え方があります。理解の便宜上、毎月の給料の名目額が12万円、所得税等の額が2万円、したがって手取額が10万円という事例を引いて説明します。
第一説は、名目額を基準とし、その4分の1の3万円を差し押えることができるとの説です。所得税等は残りの9万円から控除するので、債務者には7万円が支給されます。
第二説は、名目額を基準とするのは第一説と同じですが、その4分の3の9万円は差押ができないので債務者が取得し、残りの3万円から所得税等を控除して1万円のみ差し押えることができるとの説です。
第三説は、所得税等を控除した後の手取額の4分の1である2万5000円を差し押えることができるとの説で、債務者には7万5000円が支給されることになります。このように、どの説をとるかによって結果が大きく相違してくるわけですが、各説の論拠は次のとおりです。
第一説、法は職務上の収入、報酬というだけで特に手取額と限定しておらず、所得税等は源泉徴収されるといっても給料の一部であることは否定できないため、名目額を基準とすべきです。そして、法は名目額の4分の1を債権者の強制執行に服する給料債権としているのであり、もしこの4分の1から所得税等を控除すると、国税徴収法による交付要求の手続によらない優先的配当を認める不当な結果になるため、所得税等は他の4分の3の中から控除すべきです。
第二説、民訴法六一八条は、一項で給料債権に対する差押を全面的に禁止し、二項で例外的に債権者の権利主張を許しているために、4分の3は債務者の手中に確保されるべきであり、所得税等は4分の1のなかから控除してその残額を差し押えられるだけです。
第三説、条文で手取額を基準とすると規定していないにしても、それだけで名目額によるべきだということにはならず、むしろ、民訴法六一八条二項、六一八条の二によって差押可能な範囲を拡張または滅縮する場合には、債務者の現実の生活程度を基準に判断すべきことから推論すれば、現実に支給される手取額によるものと解釈することができます。また、所得税等は法律によって必ず給料から徴収されるもので、債務者はもちろん債権者も、自由に処分できる手取額のみが差押の対象になると観念しています。
これらの説のうち、第二説については、民訴法六一八条二項がたんに差押の制限を定めたのみで、現実の手取額が名目額の4分の3に及ぶことを確保した趣旨とは解されず、4分の1のなかから所得税等を控除するのは、執行手続きによらずに私債権に優先して徴収できることになって不当であるだけでなく、所得税等が名目額の4分の1以上になると、執行債権者は差押債権から全然満足をうけられないという結果を生じます。このようなことで第二説は支持できません。
これに対して第一説と第二説との優劣はにわかにつけられませんが、文理解釈からすれば第一説に軍配があがります。確かに、所得税の源泉徴収は徴税の便宜上の措置で、納付された税金は申告納税の前納としての性質を有するにすぎず、年間の税額は年末調整を経て確定的になるために、第三説のように差押の基準を決めるにつき毎月の税額を考慮に入れる必然性はありません。住民税についても、前年度の収入で確定した税額をどこから支払うかの問題であり、4分の3の方から徴収することにすればよいわけです。しかし、債務者の最低生活を保障しつつ、債権者の利益の保護をもはかり、かつ源泉徴収制度の特殊性をも考慮すると、第三説のほうがより合目的的な解釈であり、国民感情にも合致するように思われるのであって、現実の運用面では第三説のほうが妥当というべきです。

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