退職金の差押

退職金は民訴法六一八条一項五号、六号にいう職務上の収入または労力役務のためにうける報酬にあたるため、同条二項により原則としてその4分の1、例外的にその2分の1までに限って差し押えることができます。広義で退職金といえば、国家公務員の恩給や各種共済組合法による退職給付等をも包括することになりますが、恩給受給権、共済給付受給権は法律によって差押が禁止されています。そこで、ここでは狭義の退職金、つまり国家公務員、地方公務員の退職手当、民間企業における退職金について、その受給権の差押の可否とその限度を検討することとします。

スポンサーリンク

お金を借りる!

国家公務員等退職手当法は、退職手当について差押禁止規定を置いていません。また地方公務員の場合は、退職手当についての統一的な法令はなく、各地方公共団体の条例によって定められていますが、国家公務員の場合と同様に差押禁止規定がないのが通例です。民間企業の退職金についても、差押を禁止する法令は存しません。これらの退職金債権は、禁止規定がない以上差押につきなんらの制限はないのでしょうか。それとも退職金の性質からいって禁止されるのでしょうか。この点は、主に公務員の追職手当をめぐって論じられていますが、理論上は民間企業の退職金にも共通する問題です。
消費説によれば、退職金は単なる永年勤続による賞与金等と異なり、退職後の生計維持のために支給されるものであって、その受給権は一身専属権であるため法令の規定がなくとも差押は許されないとされます。しかし、給付されるべきものが金銭であって、その使用は債務者の自由に任せられていることからすると、一身専属権であるからといって、性質上当然に差押が許されないと解さなければならないものではなく、同じく生計維持のための給料債権でも一定の限度で差押が認められているのに、退職金債権をそれ以上に優遇すべき理由はありません。ことに、公務員の退職手当について、戦前はともかく現行制度のもとで民間企業の退職金と区別し、公務員の地位の特殊性を強調することは適当でなく、恩給や共済給付金との比較においてその差押禁止規定を類推することも困難です。差押禁止規定は債権者の犠牲において債務者を保護する例外的な定めであるため、厳格に適用する必要があります。このように考えると、消極説は誤りといわなければなりません。
このように退職金債権の差押は可能ですが、それではその金額を差し押えられるのか、あるいは一定の限度があるのか、これが本問の課題です。この問題は、退職金債権が民訴法六一八条一項五号、六号の職務上の収入や労力役務のためにうける報馴に該当するかどうかについて論じられるところであって、結局退職金の性格をどう把握するかにかかっています。まず、退職金一般の経済的性格については、功労報償説、生活保障説、賃金後払い説がありますが、そのひとつのみで割り切るのは適当でなく、現実に支給されている退職金はそのいずれの性格をも含んでいるといわれています。全額説は、退職金が功労報償的性格を有するとして職務上の収入ではないというのですがそのような性格をもっていることは否定できないにしても、同時に他の性格をもあわせもっているわけであり、限定説にたつ判例や学説も、功労報償的性格と生活保障的性格を有するとしたり、あるいは賃金の後払いないし生活保障的性格のものと解したりしています。
このような退職金の経済的性格の把握の仕方も重要ですが、それよりも退職金が労働基準法二条にいう労働の対償としての賃金にあたるかどうかによって決する方が直截的です。公務員の退職手当の場合、退職者に対してこれを支給するかどうか、またその支給額その他の支給条件はすべて法律や条例で定められていて裁量の余地がなく、退職した公務員に欠格事由がないかぎり、法定の基準によって一律に支給しなければならない性質のものであり、民間企業の退職金についても、その支給の根拠が労働協約、就業規則等で定められるほかは、これと同様の性質のものと認められるのであって、このような退職金は、労基法二条にいう労働の対償としての賃金に該当するというべきです。このように解するならば、退職金は民訴法六一八条一項五号、六号にいう職務上の収入、労力役務のための報酬にあたるということができ、債務者の生活保障のため差押額を制限した同条二項により、退職金債権の差押は原則としてその4分の1、例外的にその2分の1までにかぎって許されるということになります。国税徴収法七六条四項が退職手当につき一定限度での差押を認めていることも、この解釈について参酌されるべきであり、結局限定説が正当です。
退職金債権の差押の可否が実務上問題になるのは、それが将来発生する債権であるため、いつ、またどのような条件のもとで差押が可能になるかということです。例えば債務者が就職して間もない若年の従業員であるような場合を考えると、将来の退職金を差し押えてもなんら財産的な価値がなく、差押の実益がないのではないかとの疑問が生じる一方で、逆に退職後でないと差押ができないとすれば、債務者は退職金を受領して姿をくらますおそれがあり、実際問題として差押を認めないのと同じ結果になります。この点につき実務の一部では、少なくとも退職の確実性が必要であるとして債権者に退職が近いことを証明させる扱いがありますが、民訴法五九七条、六○九条の趣旨からいって疑問があり、執行裁判所は差押命令の申請自体から差押の可否を判断するほかなく、債権者が雇用関係にある債務者につぎ選職金債権があると考えて差押命令を申請してくれば、無条件にこれを認めることにならざるをえません。判例としては、退職の時期が不確かであり、執行債権額から見ても差押の必要性が乏しい場合には、退職金の差押は許されないとするものがあります。退職金は給料と一緒に差押申請されるのが通例であり、もし債務者が引続き勤務をする場合には給料債権の方から満足を得られるわけであり、退職金債権の差押は不発に終わるだけであるため、実際上差押を無条件に認めてもそれほどの弊害はないと思われます。

お金を借りる!

連帯債務と差押/ 有体動産に対する差押/ 差押物件の入れ替え/ 差押物件の第三者の占有/ 証券に対する差押手続/ 仮差押金銭の供託/ 強制執行での優先と平等/ 工場抵当と差押/ 譲渡担保の権利/ 強制執行での優先権/ 有体動産の競売/ 占有を伴わない担保権の実行/ 借地権に対する強制執行/ 工事完成前の請負代金債権の差押/ 退職金の差押/ 預金債権差押の特定方法の指定/ 差押の許される範囲/ 超過差押の許否/ 転付命令の効力/ 確定判決に基づく弁済/