工事完成前の請負代金債権の差押

工事完成前に請負代金債権を差押ることはできるでしょうか。そして転付命令はどうなるのでしょうか。これは差押ることができます。しかし、その被転付適格については問題があり、判例はこれを肯定するか疑問というべきです。工事請負人の請負代金債権は、その支払時期について当事者間になんらかの特約がないかぎり、工事の完成後にはじめて支払いをうけるべきものですが、工事請負人の請負代金債権そのものは請負契約の成立と同時に発生し、現在その権利を特定することができるものであるため、かかる債権についても強制執行の対象となる財産的価値を有し、執行債権者のその債務者に対する権利の実現に役立つものであって、被差押債権の適格があるものというぺきです。判例もこれを肯定しています。

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問題は、工事完成前の請負代金債権の被転付適格であって、かかる債権に対してなされた転付命令が有効かどうがです。判例では、請負人の報酬債権は請負契約成立と同時に発生しているため、工事未完成のゆえをもって報酬債権が一定の券面額を有しないとはいえないとして、かかる転付命令を有効としています。しかし、有力な学説は、被転付適格を認める判例の見解を疑問としています。
転付命令は、被差押債権を執行債権者に取得させることによって請求債権の弁済があったことにして、簡明に執行債権者、債務者、第三債務者間の債権債務関係を決済しようとするものであるため、被転付債権は必ず券面額のあるものでなければなりません。ここに券面額とは債権の目的として給付すぺき金額が確定していることであり、その金額は転付の当時に確定していなければなりません。また転付命令は、被転付債権を名義額で差押債権者に移転して弁済の効果を生じさせるものであるため、被転付債権の金額は債権の客観的な取引価格ではありません。したがって、例えば第三債務者が資力不足であれば被転付債権の取引価額は名義額より低下することなりますが、差押債権者には名義額で移転することになるのであって、債権全額の弁済をうけられなくなれば差押債権者の負担に帰します。
判例では、転付命令の要件としての一定の券面額の意義について必ずしも立場が一貫していません。判例は、一方では、将来の使用収益に対する家賃債権はその対価たる将来の使用収益義務の履行にかかることを理由に転付命令は許されないものとし将来の給料債権はまだ労務を終わっていない部分について報酬債権が発生していないことを理由に転付命令は許されないものとします。しかし他方では、質権の設定された銀行預金に対する転付命令も許され、質権者の権利実行により転付債権者が弁済を受けなくても差押債務者の弁済の効力には影響がないとし取引所の取引員が取引所に対して差し入れた身元保証金は、その取引員が自己の取引に関し第三者に加えた損害を優先的に担保する性質を有しますが、保証金の差入れと同時に債権は存在し、かつ返還期も到来しているのであるため、これを被転付債権とする転付命令は有効であるとし、さらに、法定地上権の地代額に関する合意が成立しなかったため地代確定訴訟を提起し、第一審において請求認容のうえ判決が言渡されましたが、同判決未確定のうちに認容の地代額を被転付債権として発せられた転付命令について、最高裁判所は第一審において認められた地代の額の範囲において地代債権に対する転付命令を有効としています。
この判例の立場のうち後者の判例の立場は、被転付債権の券面額の一定性の要件を緩和して執行債権者に移転されるべき債権の額が転付時に未だ確定されていなくても、将来確定されるべき基本的債権が存在すれば、債権者が自己の危検において転付命令を求める以上、これを拒否する理由がないという態度を示すものとみることができます。
工事完成前の請負代金債権についての転付命令を有効とする前記大審院判決の立場は、前述にみた判例のうち後者の判例の立場の延長線上にあるものとして理解することができます。工事請負契約の工事代金の支払いは、一部を前払金として支払い、さらに中間払をして残額を工事完成後に支払うという支払形態が多いといわれます。このような工事代金のうち、前払金債権を被転付債権とする転付命令が有効というべきことには問題がありませんが、工事完成後支払うぺき債権は、工事の完成という反対給付にかかる債権であって、このような債権について券面額の存在を肯定する判例の立場は疑間というべきであろう。もっとも転付命令の券面額についての判例の立場は、転付命令に対する実務の需要がもたらしたものであるここも見逃すことができません。日本の強制執行は平等主義を原用とするものですが、転付命令はその例外をなすものであって差押債権者はこれによって独占的満足をうける利益があるため実務上その利用が非常に多く、券面額が一定していない債権について被転付適格を認める判例の立場は、転付命令に対する実務上の需要に応じて運用しようとする判例の努力がもたらしたものといえます。

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