借地権に対する強制執行

借地権に対する金銭債権のための強制執行の申立てはできるでしょうか。借地権が地上権の場合には、これに対する金銭債権のための強制執行の申立ては当然許されることになります。借地権が賃借権の場合でも、その借地権につき、換価のときまでに譲渡性の具備される可能性が相当高度に存するものと推定され、この推定をくつがえすにたりる特段の事情のないかぎり、その差押は許されます。しかし、譲渡性を具備しなければこれを換価することはできません。

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金銭債権のための強制執行の目的となしうる権利は、譲渡性のある権利でなければなりません。なぜなら金銭債権のための強制執行は、目的物を金銭に換価してこれを金銭債権の満足にあてようとするものだからです。借地法によれば借地権とは建物の所有を目的とする地上権および賃借権をいうものとされていますが、そのうち地上権は譲渡性があるため金銭債権のための強制執行の目的となることは明らかですが、賃借権は賃貸人の承諾がなければ譲渡することができないものであるため問題です。特に譲渡性を具備しないかぎり譲渡命令を発するなどしてこれを換価することができないことは当然ですが、差押もすることができないかが問題です。
賃借権に対する差押の可否についての学説および裁判例をみると、古くは、差押命令申請当時賃借権の譲渡につき賃貸人の承諾がないかぎり差押命令を発することはできないとされていましたが、その後、賃貸人があらかじめその賃借権の移転を許している場合、および将来賃借権の換価による譲渡について確実に賃貸人の承諾を得ることが認められる特別の事請がある場合には許されるとする裁判例や、賃借権の譲渡、転貸ができる特約がある場合はもちろん、譲渡の承諾が相当程度期待できる場合についても、差押を認めるべきであるとする学説等が現われ、近年の実務では、借地権が借地権価格という経済的価値をもち、客観的財産権として把握されるにいたっている近時の実情を反映してか、原則として借地権の差押を認める傾向にあるといえます。
東京地決昭和四八年五月三一日の決定は、賃借権に対する差押の申立てがあったときは、申立ての際にその譲渡性を具備していなくても、換価のときまでに譲渡性を具備する可能性が相当高度にあれば差押を許容すぺきであり、かつ、建物所有を目的とする賃借権については、目的地上に現に建物が存すると否とを問わず、特段の事情のないかぎり、この可能性が相当高度にあるものと推定すぺきである旨、積極的な見解を明らかにし、詳細な理由付を展開しています。この決定の理由の要旨は、譲渡性を有しない権利が金銭執行の目的となしえないのは、譲渡性を有しない権利は執行によってこれを換価し、債権の満足にあてることができないからであり、したがって、差押の申立ての際には即時の譲渡性を有しない権利であっても、換価のときまでに譲渡性を具備することが確実であるか、またはその可能性が相当高度に認められれば、換価の前提としての差押は許されてよいはずです。賃借権の譲渡性は賃貸人の承諾を条件とし、賃貸人が承諾するかどうかはまったく任意であるため、譲渡について賃貸人の承諾がない賃借権について差押の申立てがあった場合には、特段の事情のないかぎり、換価のときまでに譲渡性が付与される高度の可能性があるとはいえません。しかし、建物の所有を目的とする賃借権の譲渡については、当該借地上にある借地人所有建物の任意譲渡、競売または公売による所有権移転にともなって行われるときは、借地法九条ノ二または三による賃貸人の承諾にかわる許可の裁判によっても譲渡性が付与されうるのです。この意味において建物所有を目的とする賃借権は、目的地上に借地人所有の建物がある場合には、一般の賃借権よりも相当高度の譲渡性を有するということができ、目的土地が更地で現に建物が存しない場合でも、借地人が他日その地上に建物を建てさえすれば、前記のとおりその賃借権の譲渡について賃貸人の承諾にかわる許可の裁判がなされうるようになるのであるため、いわば潜在的にではありますが一般の賃借権よりも相当高度の譲渡性を有するものといえます。したがって、建物所有を目的とする土地の賃借権に対する差押はこれを許容するのが相当であるということになります。
このような見解に対しては、権利の差押は権利者から当該権利の処分権を奪うことを本質とするものであるのに、即時の譲渡性を有しない賃借権の差押を許容するのは、処分権を有しない者からその処分権を奪うことを許容するもので背理ではないかとの批判も考えられますが、譲渡性を絶対的に有しない権利の差押を許容するのではなく、その譲渡性が未確定状態にある権利であって、しかもそれが肯定的に確定する可能性が相当高度のものにかぎって差押を許容しようとするものであるため、背理とはいえません。
また、実際上いつまでも譲渡性が具備されない場合に、債務者に無用の拘束を与えることにならないかとの疑問も考えられますが、債権者はいつでも換価のときまでに譲渡性を具備する相当高度の可能性があることを争って、当該権利の差押に対する執行方法に関する異議または即時抗告を申し立ててその取消を求めることができるために、この疑問もあたらないこと、本決定の説くとおりです。
問題は、借地上に建物がなく、借地権について登記がない場合に、借地権に対する差押の公示方法がなく、差押の効力を第三者に対抗しえないことです。しかし、その場合には債権の差押に準じて扱うべきものと考えられます。その場合賃貸人が第三債務者にあたるかどうかにつき、消極説もありますが、実務の大勢は積極に解しており、通常は第三債務者は賃借権について、債務者のなす名義変更その他一切の処分につき承諾してはならない旨を命じているようです。ただ、このようにして借地権の差押執行後、債務者が借地上に建物を建てて所有権の登記をし、その建物とともに借地権を譲渡するか、借地権の登記を得て第三者に借地権を譲渡し、その譲受人が建物または借地権の登記を経た場合にも差押の効力を対抗することができるかどうかは疑問であり、その意味で借地権の差押の第三者に対する対抗力は完全とはいえません。しかし、このような借地権の差押もある程度の作用は営んでおり、これを不適法とする理由はありません。
そのほか借地権の差押を認めるべき実質的な理由として、今日借地権は、建物保護法や借地法によって厚く保護される関係もあって、実際の取引社会では相当高価に譲渡される事例が多く、債権者がこれを債務者の責任財産視する傾向も一般化しつつあり、借地権に対する差押を許さないと、財産的価値ある借地権について債務者をして不当に執行を免れさせる結果ともなることなども指摘されるのです。

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