有体動産の競売

有体動産の競売は、物件ごとに個別的に行なわなければならないのでしょうか。また、その競売では、最高価競買申出額が評価額以下であるときはどうするのでしょうか。有体動産の競売は個別売却を原則としますが、利害関係を有する者の合意があるとき、もしくは執行裁判所の命令があるときは一括して行なうことが許されます。また、競買申出額が差押物の評価額に達しないという理由で競落を不許可とすることはできませんが、社会通念上不相当に低額であって、再度の競売または任意の売却方法により、より高価に売却できる十分な見込みがあるときは、競落を許さないことができます。

スポンサーリンク

お金を借りる!

執行官は、有体動産の差押につき、執行債権を弁済し、強制執行の費用を償うために必要なもののほか、これをなすことが許されません。したがって、執行官は、必然的に、差押にあたって目的物件の価格を評価しなければならず、この評価額を差押調書に記載することになっています。高価物は適当な鑑定人に評価させなければならず、高価物以外のものであっても、執行官が必要であると認めるときは鑑定人に評価させてもかまいません。
差押有体動産の換価は、原則として、公の競売の方法によって行なわれ、かつそれは、個別売却を原則とし、執行官が競売物をいちいちよび上げ、実物を示して競買申出を催告すぺきです。そして差押物を順次売却して、その売得金が債権者の債権額を弁済し、強制執行の費用を償うに足りるにいたったときは、執行官は爾後の競売を止めなければなりません。
有体動産の競売は、このとおり、個別競売を原則としますが、これは、超過競売の予防のためであるとともに、そうすることがおおむね物件を高価に売却する方法であって、関係人の利益を保護することになるからです。しかし、これは強行性を有するものではありません。本来、有体動産の競売に関する民訴法五七二条以下の規定は強行法規ではなく、例えば競落物の引渡しは代金と引換えになすこと、代金は支払期日にまたはその定めがないときは競売期日終了前に支払うべきこと、金銀物は実価以下では競売を許さないこと等の法定の売却条件も、差押債権者、執行力ある正本による配当要求債権者および債務者等利害関係を有する者の利益保護のために設けられたものであるため、これらの者の合意によって、これを変更でき、その他の特別売却条件を付加することもできます。その他の特別売却条件としては、例えば競買申出に保証を要求すること、最低競売価額を設けて、これ以下による競買を許さないこと、入札払とすることなどがあります。したがって、本問の場合も、利害関係を有する者が個別競売でなく、数個の有体動産を一括競売に付する旨の合意をした場合には、執行官はこれに従うべきであり、また、物件の品目等により一括競売に付することが相当であると認められるものについては、執行裁判所は、利害関係を有する者の申立てにより、もしくは職権により、その旨の特別の売却条件を定めて競売に付することを命じることができます。ただ、この合意がない場合に、執行官がその都度執行裁判所の命令を求めなければならないことは煩項であり、その必要性も乏しい。執行官の判断で、相当であると認められるときは、数個の有体動産を一括して換価することができるものとすべきです。なお、差押物が一括競売に付されたときは民訴法五七八条の適用はないと解されます。
執行官が有体動産の差押にあたって目的物件の価格を評価するのは、超過差押の禁止に違反して債務者の利益が害されることを防止するためです。換価との関係では、有体動産の競売においては、不動産競売の場合とは異なり、法定売却条件としての最低競売価額を定めないかぎり、評価額はたんなる見積額ないし換価の一応の目安に過ぎません。この点からして、民訴法五七三条の鑑定人は、目的物の評価をなしうるだけの知識経験を有している者であればたり、特に同様のものを平常取り扱っているなどの高度に専門的な知識経験を有する者にかぎられません。
このように、評価額はそれ自体になんらの拘束力をもたないために、最高価競買申出が評価額に達しないときでも、これに対する競落を許してならないものではありません。これは高価物等について鑑定人の評価を経た場合でも同様です。むしろ、最高価競買申出価額が評価額に達しないことを理由として申立人への競落を拒否できるとすることは困難です。もっとも、これに関し、執行官は、差押債権者が欲しないとき、また、執行官が最高価競買申出価額を不相当と認め、かつ債権者の承諾を得たときは、競落の告知をしないことができ、この場合、最高価競買申出人も、売却条件に特別の定めがなければ、競落を強いる権利はないとする見解があります。これは、競売手続においては、通常の契約申込に当る競買申出に対し、執行官の競落告知が承諾にあたり、これによってはじめて競売が完成すると解すべきこと、および競売は債権者の申立てによりその利益のために行なわれるものであることを重視したものです。これに対しては、一般に最高価競買申出人に競落を許すことを公告してする公売の性質上売却条件として告げなかった事由にもとづいては競落を拒否できないとする見解があります。そして、広く多数の競買参加者より、自由に競買価額を申出させることによって最も公正かつ可及的高価な価格形成が期待できるという前提をとっている競売制度の下では、評価額に達しないとの一事をもって競落を拒否することは問題であり、債権者の希望または同意があったとしても、競買申出人の地位をまったく無視してよいかも疑間です。
しかしながら、現在の動産競売は、一般人の競買申出がほとんど期待されず、当事者の縁者が参加する僅かの例外を除いては、道具屋とよばれる少数の特殊な業者のみが参加し、しかも競売物を一般市場に転売するのではなく、債務者に買戻しをさせている実情にあり、かかる実情のもとにあっては、最高価競買申出人に対して必ず競落を許さねばならないとすると、社会通念上相当でない価額による競売が一般化し、強制執行に対する社会的信用を失墜させるおそれがあります。したがって、最高価競買申出価額がたんに評価額以下であるというのでなく、社会通念上不相当に低額であって、再度の競売または任意の売却方法により、より高値に売却できる十分な見込みがあるときは、競売がその本来の機能を失っているといってもよいため、競落を許さないことができるというべきです。実務の取扱いも基本的にはこの見解にたっており、東京地裁の執行官の取扱いは、現在も同じで、家財道具や普通の商品のように、鑑定人に評価させない物については、できるだけ評価額以上、またはそれに近い価額で競買させるよう努めますが、どうしても競買申出がなければ、評価額よりかなり低くとも競落を許します。ただし、著しく不相当と思われるときは競落を許さず、競売期日を続行すことがあります。機械類その他の高価物またはこれに準じる物を差し押えたときは、必ず鑑定人に評価させます。この場合評価額に達する競買申出人がないかぎり、競落を許さず、必ず期日を続行し、評価額と競買申出価額に著しい差がある場合には再鑑定を行なって評価額を低滅します。再度の競売期日にも評価額以上の競買申出がないときには、債権者の意見を参酌して競落を許すか否かを決します。以上の取扱いは、現状においては、是認されます。執行官は、競落を許さないときは、期日を続行し、より高価な競買申出を待つため、再度の競売期日を開くか、あるいは執行裁判所に対し民訴法五八五条による特別の換価方法、例えば任意売却、評価額での目的物の債権者への譲渡、執行官以外の者による競売等を申出で、職権の発動を促すペきです。

お金を借りる!

連帯債務と差押/ 有体動産に対する差押/ 差押物件の入れ替え/ 差押物件の第三者の占有/ 証券に対する差押手続/ 仮差押金銭の供託/ 強制執行での優先と平等/ 工場抵当と差押/ 譲渡担保の権利/ 強制執行での優先権/ 有体動産の競売/ 占有を伴わない担保権の実行/ 借地権に対する強制執行/ 工事完成前の請負代金債権の差押/ 退職金の差押/ 預金債権差押の特定方法の指定/ 差押の許される範囲/ 超過差押の許否/ 転付命令の効力/ 確定判決に基づく弁済/