強制執行での優先と平等

債務者Cに対して、債権者Aのために有体動産の差押がなされた後、BからCに対してさらに強制執行の申立てがあった場合、つねに照査手続を行なわなければならないのでしょうか。実務の取扱いは、つねに照査手続を行なわなければならないものとしています。しかし債権者ABがともに執行すべき場所として申し立てた場所に存する有体動産については照査手続を行なわなければならなりませんが、それ以外の場所の有体動産についてまで照査手続きをする必要はないというべきです。

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第一の債権者のために債務者の有体動差が差し押えられているときに第二の債権者のための有体動産に対する執行をどのようなかたちで認めるべきかについては、強制執行における優先主義と平等主義のいずれを採用するかによって異なってきます。ドイツ法の採用する優先主義の立法のもとでは、第一の債権者が債務者の有体動産差押により目的物について質権を取得し、第一の債権者がその目的物の換価金から優先的に弁済をうけるのであるため、第一の差押について超過差押を禁止するとともに、すでに差し押えられている物件に対する二重差押を強いて禁止するまでもないという態度をとっています。これに対してフランス法の採用する平等主義の立法のもとでは、第一の債権者が債務者の有体動産を差し押えてもその有体動産の換価金を第一の債権者が独占するものではなく、他の債権者が配当加入すればそれらの者にも平等に換価金を配当しなければなりません。したがって第一の差押について超過差押禁止の原則はとらず、債務者の有体動産のうち差押可能なものを全部差し押えることを原則とし、他の債権者は第一の差押手続に加入することによって平等に配当にあずかることができます。そして債務名義を有する他の債権者の二重差押を禁止し、そのかわりに第一の差押の際の差押物について照査をなし、さらに差し押えるべきものがあればこれを加えて第一の差押物とともに売却することとしています。
日本の民事訴訟法は、一方でドイツ法流に超過差押を禁止して個別執行の原則をとりながら、他方で二重差押を禁止し照査手続を認める平等主義を基調としています。つまり第一の債権者Aのために債務者Cの有体動産が差し押えられた後、他の債権者から債務名義の執行力ある正本にもとづきCの有体動産に対する強制執行の申立てがあった場合、執行官は差押調書にもとづき物の照査をなしCの有体動産のうち未差押物件があるときはこれを差し押えて差押調書を作成し、差し押えるべき物がなければ照査調書のみを作成し、いずれも前の差押調書に添付するこのように第二の債権者 Bも第一の債権者Aによって開始された執行手続に加わり、差押物件全都の換価金から各自の債権額に応じた配当をうけることとし、すでに差し押えた物件については他の債権者のために独立して差し押えることを許さないこととし、換価配当の手続の簡明化をはかっています。
しかし、民訴法五八六条はそもそも同一債務者に対する二個以上の有体動産の執行手続の併存を許さない趣旨なのでしょうか。例えば債権者Bの強制執行申立ての際に債務者Cに未差押動産がありこれを換価すればBの債権が十分満足を得られるときにも照査手続を要するとする極旨なのでしょうか。Bが未差押動産の差押のみにとどめるよう求めたときにも照査手続を要するのでしょうか。債権者Aが債務者Cの住居で有体動産を差し押えた後、債権者Bが住居と別の場所の店舗に存するCの有体動産の差押を求めた場合にも照査手続が欠かせないものなのでしょうか。日本の民訴法の採用する金銭債権執行における平等主義の理解ともからんで見解の分かれるところです。
先行の差押の後、同一債務者に対しさらに強制執行の申立てがあった場合にはつねに照査手続を行なうべきであるとするのが、現在の実務の支配的な取扱いといえます。現在の実務に大きい影響を与えたのは、明治三三年九月一九日民刑第一、二一九号民刑局長回答および明治三四年二月一八日民刑第二、○四六号民刑局長回答です。この明治三三年九月一九日民刑局長回答は、すでに差押を受けた債務者に対しさらに他の債権にもとづいて差押をすべき場合には、たとえ未差押物件があるときでも必ず照査手続を行なうぺぎものとし、明治三四年二月一八日民刑局長回答は、すでに差押をうけた債務者に対してさらに他の債権者のため差押をする場合には、前の差押物件以外の財産のみを差し押えて債権額に十分な場合でも照査手続を行なうべきものとしています。この見解は民訴法五八六条二項の文理解釈としても同項の趣旨にもっとも合致するものであり、その実質的な根拠は、複数の債権者が同一の債務者に対して有体動産の金銭執行をなす場合には手続を一本にして債権者間の平等な満足を得させようとするものです。
実務の取扱いとしても、同一債務者に対する執行手続を一本化するために、執行官は、執行官室に差押債務者の名簿を備え付け、執行着手前に債務者がすでに差押をうけているがどうかを確かめるとともに、勤務庁以外の裁判所の管轄区域内で差押をしたときはその旨を当該裁判所に勤務する執行官室に通知する等の取扱いが望ましいとされています。
しかし、このような実務の取扱いにもかかわらず、執行官にとって先行差押の存否が判明するのは、多くの場合執行の現場で差押の標示や債務者のその旨の陳述によってです。執行現場で始めて先行差押の存在を知った執行官が照査手続をするには、あらためて前の差押調書を取り寄せて手続きをしなければならず、その間に債務者が財産を隠匿することなども懸念されるところです。
この見解に対し、第二の債権者が第一の債権者の差し押えた物件以外の有体動産で十分な満足をうけられるときは、これを差し押えて独立の執行手続をも採ることができるとする見解があります。民訴法五八六条は同一の物件に対する二重の差押を禁じるにとどまるのであり、執行債権者が前の差押物から平等の弁済をうけょうとすれば照査手続によるべきですが、債務者が未差押物のみで満足をうけられるとき、あるいは未差押物を差し押えるだけにとどめようとするときは、照査手続によらずこれを独立に差し押えることができるとします。強制執行の破産手続に対する特質は個別執行を原則とするところに存するのであり、民訴法の平等主義の採用も、同一債務者に対する数個の執行の独占的な併行を許さない意味ではないことを理由とするものです。しかし、この見解は、債権者ABがそれぞれ別個に債務者Cの有体動産を差し押え、二個の差押が併存した後に第三の債権者Dが強制執行を申し立てた場合に困難な問題に直面します。つまり執行官は照査をするか未差押物について別個に第三の差押をするかをどうして決めるのか。Dが照査か独立の差押かの意思を明らかにしないときは照査手続をすることになるのか、未差押物の価額によって執行官が判断するのか。先行の二個の差押全部について照査するのか、そのいずれかだけに照査することもできるのか。先行の差押全部に照査する場合には先行の差押事件も事後的に併合されることになるのか。先行の差押のいずれかだけに照査することもでぎるのであれば、どの差押について照査することになるのか。Dがどの差押に照査するかを選訳しうるのであればDの意思如何でAのみが不利益をうけたりBのみが不利益を被ったりすることにならないか。Dが先行の差押のいずれに照査するかその意思を明らかにしないときは執行官はどうするのか。このような問題について現行法の解釈論として解決をするには限界があり、根本的には立法によって解決する外はないと思われます。

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