証券に対する差押手続

有体動産差押の執行に際して、手形や小切手を発見した場合、執行官はこれを差し押えることができるのでしょうか。できるとすれば、その後の手続はどうなるのでしょうか。債権執行説によれば、手形等の差押については、執行裁判所の差押命令を必要とするので、執行官が有体動産執行中これを発見しても、差押命令がないかぎりこれを差し押えることはできませんが、有体動産執行説によれば、この場合債権者の証券差押えの申立てにより、直ちに差し押えることができます。判例、学説のいずれの見解によっても、手形等を差し押えた後は、債権者は執行裁判所の移付命令を得て、執行債権の満足をうけられます。

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設問ではもっぱら金銭債権の実現のために、手形または小切手債権を目的としてなされる強制執行手続はどうすべきかということです。手形債権に対する執行も、金銭債権執行の一種であるため、差押、換価、配当の三段階の手続構造を経なければならないのですが、手形、小切手、預証券、質入証券、倉荷証券、貨物引換証、船荷証券、抵当証券のように、裏書をもって移転できる指図証券に化体された債権の差押については、特に民訴法は六〇三条において、手形其他裏書を以て移転することを得る証券に因れる債権の差押は執行官其証券を占有して之を為す。と規定し、一般の金銭債権と異なる執行方法によるべきことを明らかにしています。これら指図証券は、権利と証券とが密接不可分の関係を有し、権利の発生、移転、行使は当該証券を所持し、かつ、呈示することによってなされるので、債務者は証券と引換えでなければ債務の弁済を強いられることのないことを執行手続面に反映したものです。そのために、証券に化体された権利のみを差押の対象としたのではたりず、当該証券の差押も同時になすことが要請されるのですが、これは証券の流通を阻止して、取引の安全を保護する趣旨でもあります。
指図証券に化体された債権の差押については、従来から次のように判例と、学説との間に対立があります。
債権執行説での見解は、手形債権も一種の金銭債権であるため、これに対しては債権に対する強制執行の方法によるべく、ただ他の金銭債権の差押と違って、執行官が債務者から当該手形証券を取り上げてこれを占有することが必要です。民訴法六〇三条の規定からしても、このことは明らかです。したがって、執行機関は、執行裁判所であることはもちろん、差押後の手形債権の換個も、金銭債権の差押の場合と同様転付命令、または取立命令によるのが原則であるとしています。判例では手形債権の差押えは、民訴法五九八条の規定に従い債権差押命令を第三債務者に送達するほか、執行官が債務者から当該証券を取上げ占有するのでなければ差押えの効力は生じないとしてこの考え方を示しています。裁判所の実務は、この判例の見解に従い債権差押命令を発し、特にこれに、債権者の申立を受けた○○地方裁判所執行官は、債務者の所持にかかる不件約束手形を取り上げることができる。との文言を付記しています。債権差押命令が発せられると、債権者はこれにもとづいて執行官に対し、債務者から手形証券を取り上げて占有するよう申立て、執行官はこれをうけて民訴法七三○条に準じて債務者から手形証券を取り上げて占有します。そして執行官が手形証券を占有したときに、差押の効力が生じるのですが、この点は学説の立場によるもかわりません。執行官は手形証券を占有したときは、遅滞なく執行官手続規則四九条により差押調書を作成したうえ、これを執行裁判所に提出します。執行官による手形証券の取上げは、執行裁判所の職務命令にもとづく執行行為だからです。したがって、差押債権者が移付命令を求める場合には、執行官の手形証券占有の証明を得る必要はありません。執行官は、差押債権者が移付命令を得てこれに手形証券を引き渡すまでは、善良な管理者の注意をもって手形証券を管理する責任を負います。手形がその保管中に満期が到来したときは、保存行為として手形を呈示し、あるいは、拒絶証書を作成するなど権利保全の方法を講じるべきです。もし手形金が支払われれば、これを受領して保管します。
有体動産執行説では、法律は一般の有価証券に対する強制執行を有体動産執行の一場合としているのですが、手形その他の指図証券は有価証券であるから、有体動産執行たる性質を有することは争うべくもありません。ただ指図証券の場合は、差し押えるべき債権が証券に化体され、証券なしには権利の行使、移転をなしえないために、特に民訴法六○三条を設けているのであって、その執行は有体動産の差押に準じ、執行裁判所の差押命令によることなく、執行官がその証券を占有してするのです。したがって、通常の債権の差押のように、執行裁判所による差押命令は不要であり、たとえ発せられたとしても無意味であり、無効であるとしています。この見解によれば、債権者は執行官に対し直接証券の差押の申立てをして、執行官はその申立てにもとづき債務者から証券を取り上げて占有します。この執行官による証券の占有によって差押の効力が生じ、執行官は債権者から移付命令の提出があるまでは当該証券を善良な管理者の注意をもって管理し、さらに権利保全の方法を講じるべきことは、前述のとおりです。なお、執行官は、証券を差し押えたときは、差押調書を作成してみずから保存します。差し押えた証券に化体した債権の換価方法については、有体動産執行説の立場によるも、一般の有価証券、例えば株券などと異なり、相場による適宣売却や、公の競売は不適当なので、通常の債権と同様執行裁判所の移付命令によるべきことを認めています。差押債権者が執行裁判所に移付命令を求める場合には、執行官から証券占有の証明を得て申請することになります。
有体動産執行説によると、差押手続は執行官が行ない、換価、配当手続は執行裁判所の権限とされるのですが、そうすると執行機関が二途に分かれ、場合によっては、執行裁判所と、手形等を占有した執行官の所属する裁判所が異なることもありえて、他の債権者の配当要求は、いずれの執行機関にすべきかとか、あるいは、このような場合二重差押ができるか、できるとした場合、後の差押債権者による証券の占有をどのようにすべきか、二重差押にかわる方法として照査手続が認められるかなど複雑な問題が生じることになります。債権執行説によると、執行官が有体動産執行の申立てをうけてその執行中に、たまたま約束手形や小切手を発見しても、直ちにこれを差し押えることはできず、改めて債権者の申立てにより執行裁判所の債権差押命令を得なければなりませんが、差押命令が発せられて執行官による占有執行をしようとしても事態を察した債務者は、いち早くその手形を隠匿するなり、第三者に裏書譲渡をして債務者の手中から姿を消してしまうことになり、執行官の占有執行は不能に帰することが予想されます。さらにこの説によると、差押命令は、債務者の特定の第三債務者に対する債権の差押であるために、その効力は手形債権の場合、第三債務者とされた特定の手形債務者についてのみ生じ、手形上の他の合同債務者に対してはその効力を生じません。例えば、約束手形の振出人を第三債務者として発せられた差押命令は、受取人には効力を生じないのです。手形の差押をしようとする債権者は、振出人や引受人は探知しえても、裏書人の調査は困難であるため、裏書人に対する償還請求権の差押はなしえません。これに対し有体動産執行説によると、合同債務者全員を第三債務者として同時、または各別に移付命令を求めることができます。
以上いずれの見解によるかによって、執行手続の面もさることながら、債権者の権利の満足の面に大きな影響を及ぼすことが考えられます。前述のように執行官が、有体動産執行中に手形等が発見された例のごときでは、債権執行説はまことに実社会に適合しない見解といわざるをえません。この点につき強制執行法案要綱案によると、執行官は動産の差押の際に手形等を差し押えることができますが、債権者は手形等の差押がされたときから七日の期間内に執行裁判所に対し手形等の債権につき差押命令の申立てをしなければなりません。もし、その申立てがされないときは、差押は取り消されることとされています。執行官が差し押えていない手形等債権の差押については、現行法と同様執行裁判所に差押命令の申請をすることができ、この場合差押命令には当該手形等を執行官に引き渡すべき旨の命令を掲げることとされています。

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