差押物件の第三者の占有

執行官が差し押えた有体動産を債務者に保管させている場合に、第三者がその占有を取得したことが判明したときには、執行官は、実力で取り戻すことができるのでしょうか。この場合は第三者が債務者の処分行為にもとづいて差押物を取得した場合には、執行官は、実力で第三者から差押物を取り戻すことができると解されます。
債務者の占有中にある有休動産を差し押える方法は、原則として執行官がその物を占有することですが、債権者の承諾があるときまたはその運搬をなすについて重大な困難があるときは、例外として封印その他の方法で差押を明白にしたうえ債務者の保管に任すこともできます。しかし、執行実務においては、この原則と例外が転倒して運用されており、差押物を債務者の保管に任せるのが常態になっています。この債務者保管の方法による差押物を債務者が任意に第三者に対し譲渡し、または第三者が債務者から奪取した場合には、執行官は独自の権限で第三者から差押物を取り戻すことができるのでしょうか。この問題は、従来現状変更禁止の仮処分において主観的変更があった場合にそれを排除することができるかという問題と同質のものと考えられ、その付随的論点として議論されてきた感があります。しかし本来的にいえば、現状変更禁止の仮処分の執行形式が有体動産の差押の方法を準用したものです。そのうえ、両者がはたして同質の問題であるか否かについても、なお検討すべき余地があります。そこで、本問を解決するにあたっては、錯綜している現状変更禁止の仮処分における主観的変更の排除の可否に関する議論から一応離れ、本問プロパーについて考察する方が賢明のように思われます。

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この問題を解決するについて従前用いられた手法は、執行官または第三者の占有の性質から演繹するものでした。まず、執行官の占有の性質から演繹するものでは、執行官が差押によって目的の有体動産に対して取得する占有の性質については、これを公法上のものであるとする説と民法上のものであるとする説とに分かれていますが、公法説の立場から、公物の管理者が特別の規定を待たず公物設定の目的上これを維持するための処分を当然なしうるのと同様、執行官はその占有の侵害に対しては特別の規定がなくてもその占有の目的上その占有を維持回復することが許されるとして、本問を積極に解する見解があります。しかし、この見解に対しては、執行官の占有と公物の管理という比較すべからざるものを比較の対象として論じるという根本的な誤りがあり、第三者が不法に公物管理を侵害した場合においても、特別の規定なしに公物の管理権の作用として強制力をもって管理者自らその奪還をはかることは行政法上許されないはずであるとの批判がなされており、前記の見解は結局執行官の占有が公法上の占有であるから本問を積極に解すべきだということに帰するわけですが、この見解において公法上の占有というのは、統治主体がその統治目的のために支配する全般的な事実上の支配の関係であるということにすぎないために、執行官の占有が公法上の占有であるということは、なんら本問を積極に解すべき根拠にならないというべきです。
次に、第三者の占有の性質から演繹するものとして、第三者が債務者の処分行為にもとづいて差押物の所持を取得した場合であると、第三者が債務者から差押物を奪取してその所持を新たに取得した場合であるとにかかわりなく、第三者は差押物を直接占有しているために、執行官が第三者から差押物を取り戻す行為は所持の強制取得を内容とするものであるといわなければなりませんが、これは有体動産差押行為と内容を同じくするものであって、つまりは執行行為であるため、国家の執行権の行使としてのみ許されるものであるところ、第三者の差押物についての直接占有は原始的に取得されたものであるため、この執行官の取戻行為は第三者に対する新たな執行行為であって、したがって第三者に対する債務名義がないかぎり許されないとし、本問を消極に解する見解があります。そして、この見解においては、差押物の保管を任された債務者が差押物に対する執行官の所持を奪い、これを第三者に引き渡した場合には、執行官の占有の性質について公法説の立場では執行官の公法的占有が侵奪されたことを理由とし、執行官の直接占有を認める私法説の立場では執行官の直接占有が侵奪されたことを理由として、執行官は差押物を占有する第三者に対し占有回収の訴えを提起することができるため、なんら施すすぺがないわけではないとするのです。しかし、この見解が第三者の占有の態様を決め手としてそれから本問について消極の結論を引き出すのは、その前提自体に問題があるように思われ、また執行官に占有訴権を認めることも疑問です。ところが、本問については、現状変更禁止の仮処分における主観的変更の排除を含めてではありますが、消極説が通説であるといってよく、昭和四一年七月一日法律第一一一号として公布された執行官法がその八条一項八号に執行官の点検を明文をもって規定した後においてもこの趨勢は変っていないようです。
しかし、近時、新たな見地から現状変更禁止の仮処分について主観的変更の排除を肯定する見解が有力になり、それと前後して、本問についてもこれを積極に解する下級審裁判例および学説がみられるようになりました。つまり東京地決昭和三七年一○月二六日は、執行官が執行機関として一定の責務名義にもとづき特定の目的物を差し押えその公示がされたときは、執行官は換価手続を追行するのに必要な限度で差押の効力を維持する職責と権限を有し、万一これの妨害となる事実が生じたときは、当該手続を担当する執行機関としてその妨害を排除することもまたその職責と権限であるというべく、第三者といえども現になされた差押処分を無視し法定の手続によらずに差押の目的物に対する自己の権利を主張し差押の効力を法律上、事実上滅却しまたは滅殺することは許されないものというぺく、現になされた差押処分はこの意味において第三者に対しても効力を有するものであるとして、執行官は差押処分後に目的物を占有するにいたった第三者に対しては点検処分によりその第三者の占有を排除することができ、第三者は第三者なるのゆえをもって点検処分を違法と主張することができず、必ず差押処分前の占有を主張して法定の手続による権利救済を求めるべきであるとするのです。また、差押後の執行目的物を執行官が保管する職責を負うのは、これを維持保存して執行目的を達成するためであり、その職務遂行を妨害するものが第三者であっても、執行官は自力でこれを排除する権限を有することは、理論的には承認されなければならないとして、占有自救として許される一般の場合、または差押物の同一性がきわめて明白でかつ即時取得の不成立を何者も疑わないような場合に限定されていますが、執行官の自力救済を肯定され、結論は慎重に留保されながらも、有体動産の差押は執行機関が強制執行の目的実現のために物を実力で支配する関係であり、この関係は特別の法秩序として、かつ何人もこれを妨害することができないものとして訴訟法上保護されていることを根拠に、執行官の実力による差押物の取戻しを考えられるのではないかといわれるのです。この下級審裁判例から看取できるように、本問の解決について近時の積極説が押しなべて採用する手法は、強制執行の制度的目的を直視してそこから帰結を導き出そうとするものです。

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