差押物件の入れ替え

代替物を差し押えてこれを債務者の保管に委せる場合、執行官は差押にかかる数量を明らかにして物件の入替えを許す方法をとることは許されるのでしょうか。この場合、いかに差押にかかる数量、品質等を特定、明示した場合であっても、執行官は債務者にその入替えを許すことはできません。
執行官が有体動産を差し押えた場合に、これを債務者の保管に委ね、かつ、その使用収益を許しているのが実務の慣行のようですが、差押の目的物が店舖内の商品であるとか、倉庫内の原材料というようなものである場合に、もし、これらの使用収益を許すとなると、結局これらを売却するなり、加工するなりしなければ意味がないことになります。このような場合に、執行官は、債務者が差押物件を売却あるいは加工し、これに相当する商品あるいは原材料を補充しておくというかたちで差押物件の入替をすることを差押の時点で許してよいかというのが設例の問題点です。

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執行官が債務者の占有中にある有体動産を差し押える場合には、これを債務者から取り上げて自己の占有に移し、みずから現実にその物を保管するのが原則です。しかし、債権者の承諾あるとき、または運搬に重大な困難のあるときには、執行官は差押物を債務者の保管に委せることができるとされており、実務の取扱いではこれが原則的な保管方法となっています。
執行官が差押物を債務者の保管に委せるときには、差押を明白にする方法をとることが必要であり、これが差押の効力発生要件とされています。差押を明白にする方法としては、差押物件封印票をもって差押物に封印するか、または、これに適しないものについては差押物件標目票を貼るなどして、その物を差し押えた旨および差押の年月日ならびに執行官の職氏名を明らかにした標示をしなければならないとされていますが実務においては、差押の標示方法として封印票、標目票によらず、差押物件の目録を作成し、これに差押の旨を記載して壁等に貼りつけるいわゆる公示書による方法も用いられています。
債務者に保管を委ね、その使用収益を許すことは、執行機関の物的設備の不足をカバーし、かつ執行事務量の軽減に益するばかりでなく、交換価値の確保という差押の目的を超えて必要以上に債務者に不自由ないし苦痛を強いるとの避難を免れることになり、公示書による標示方法はその際に債務者の名誉利益をまもるという点で利点があります。しかし、現行の強制執行法は、あくまで、いかに代替物であっても、差押によってその目的物が特定され個別化されるという建て前をとっています。前記のように、差押物をひとまとめにして封印票を貼ったり、個々に標目票を貼ることを原則としていることは、まさに差押により目的物が特定、個別化されるという前提に立っているからに他なりません。
店舗内の商品を販売し、倉庫内の原材料に加工を加えて製品化することは、たしかに債務者にとって利益です。また、これらの差押物に見合うだけのものが換価の時点までに補充されていさえすれば債権者にとってもけっして不利益ではありません。そうしてみると、債務者に差押物の保管を委ねてその使用取益を許し、かつ、差押物件封印票や差押物件標目票でなく、公示書を使用する現在の実務慣行をさらに押し広げて個別的、特定的に差押をするというのではなく、公示書により、その種類、品質、数量等を特定明確にして、その中身の個別性を問わないという方法を認める余地はないものかという問題が生じますが、次に述べるような理由で、これは許されないと解されます。
第一に、債権者に損害を与えないように代替物が正常に補充されるかということですが、実際問題として、差押をされるような状態の債務者は、すでに通常の営業を縮小ないし廃止してしまっているために、かわりの物を後で補充しておくというようなことはほとんど期待できません。
第二に、有体動産に対する強制執行においては、通常の場合には、差押から換価までの期間はさほど長いものではないため債務者に与える拘束は期間的には大きなものとはいえず、その間に差押物の逸失という危険をおかしてまで差押の効力を緩める必要性があるとはいえないのが通常です。
第三に、例外的に差押物の入替を必要とする事態が生じたときには、国税徴収法七九条二項二号を準用して、債務者が提供した代替物につき新たな差押をするとともに、これに相応する前の差押物の差押を取り消すというかたちで差押換をすることができると解されます。

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