有体動産に対する差押

製造工程中にある有体動産に対して差押をすることは許されるのでしょうか。許されるとして、執行官は、これを完成品とすることを許すことができるのでしょうか。これは換価することができるものである以上差押をすることができ、差押の効力に影響を及ぼさないかぎり、執行官はこれを完成品とすることを許すことができます。
現行の民事訴訟法は、五六八条において、未分離果実および蚕について差押時期の制限を定めています。つまり未分離の果実については、通常の成熱時期の前一月内でなければ差し押えることがでぎず、蚕はその大部分が繭を作るため揚り蚕となった時期以後でなければ差押が許されません。これは、このような生育途中のものについて、あまり早期に差し押えて生産者の手を離れさせると満足に成長しないおそれがありますが、執行官が適当な措置をするにも実際上の困難があるので、成長にほぼ支障のなくなった時に始めて差押ができることにしたもので、たんに当車者の利益に配慮したものではなく、社会経済上の必要にもとづく差押の制限であるといわれています。この規定は、とくに未分離の果実や蚕のみを対象にしていますが、その趣旨から考えると、必ずしもそれだけに限定されるべきではなく、苗や鰻、鯉、鱒等の稚魚、鶏のひな等自然的な生育過程にあるものについても、差押制限を認めるべきであるとの説があります。

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未分離果実および蚕については、前記の差押の制限に対応して、五八四条において換価の時期についての制限も設けられています。つまり、未分離果実は成熟の後、蚕は繭になった後でないと競売をすることができないことにされています。
さらに、現行国税徴収法は、果実や蚕について差押の制限をしていませんが、換価は果実の成熱後または蚕が蚕になった後でなければすることができないことにされています。この規定は、生産工程中における仕掛品で、完成品となり、または一定の生産過程に達するのでなければ、その価額が著しく低くて通常の取引に適しないものについて準用されています。これは、最近における第二次ないし第三次産業の著しい発達の状況にかんがみ、果実等の換価制限の趣旨を一般化し、原始産業以外の一般の産業についても適用しうるよう、その制限の範囲を拡張したものといわれます。
現行民訴法は、未分離果実および蚕につき差押および換価を一定の限度で制限していますが、国税徴取法は、換価だけを制限し、かつ、その趣旨を仕掛品、栽培品等に拡げています。未分離の天然果実等については、執行官が差押によってその占有を取得したとしても、これを管理して商品価値があるように成熟させることは困難なことが多い。しかし、他方、未分離の果実でも成熟前に商品価値があるものもある。土地等に定着していない蚕、稚魚等については、他に搬出することも可能であって、差押をしない場合には、執行免脱の危険があります。生物でない人工的な未完成品については、さらにその危険は大きく、このような配慮から、国税徴収法は差押制限の規定を設けず、差押だけはいつでもできるようにしたのです。明文の規定がない現行法の解釈については、差押制限を認めるべきではありません。したがって、換価性を有する物であるかぎり、工場等において製造過程中にある商品に対する差押は可能であると解されます。ただ、そのような製造工程にある物が、そのままでは社会的経済的に価値が少く、通常の取引に適しない場合には、そのまま換価することは適当ではなく、なるべくその完成をはかるべきです。その意味では、現行民訴法五六八条の立法越旨は正当です。しかし、問題はその目的を達成するために、差押をしないことしか手段がないのかどうかです。もし、差押後、製造工程中にある物を完成品にすることが可能であるならば、あえて差押を禁止する必要はありません。現行の国税徴収法の解釈上は、必ずしも明文の規定はありませんが、滞納者に差押物の保管を任せ、その手でこれを完成することを許すことができるとされています。そうでなければ、換価が制限されているのに、差押を許した意味がなくなります。
現行民訴法五六六条一項、二項の解釈上も、執行官は、債務者にその物を保管させ、加工等をすることを許容することができると解されます。ただ、差し押えた物について添付、加工の結果同一性が失われる危険があるときは、差押の効力が失われるおそれがあるため、添付、加工等を許すべきではありません。また、国税徴収法上は、換価制限がされていますが、民訴法による強制執行の手続においては、このような制限はなく、無益執行にならないかぎり、そのままで換価することも許されます。したがって、そのままではその価額が著しく低くて通常の取引に適しないものにかぎらず、さらに製造工程を経ることにより、取引価格が増加するものすべてが添付、加工の対象となります。差押の効力に影響を及ぽさないがぎり、差し押えられた物に差し押えられていない何かを添付することはもとより、差し押えられている物同士を合体することも可能であると解されます。差押物の価格の増加は、差押債権者にとって利益であるばかりでなく、差押債務者にとっても喜ばしいことであり、さらには社会経済的にも好都合であるからです。このような製品、半製品の生産のために仕掛中または加工中のもので、さらに加工等をしないと取引に適しないもの、または高価に取引されないものについて、債務者が任意に加工等を継続しない場合は、どうすべきでしょうか。国税徴取法では、税務署長は、滞納者の同意を得て、その財産につき修理その他その財産価値を増加する処分をすることができるようになっており、これに要した費用は滞納処分費として取り扱われます。また、要綱案第一九二も、差押物に瑕疵がある場合や未完成のものである場合には、執行官が、債権者の申立てにより、修理等を加えることがでぎることとし、これに要した費用を執行費用とみなすことにしています。しかし、現行民訴法には、このような規定はなく、債務者が任意に加工等をしないかぎり、執行官がみずからそのような措置をとることはできません。差押物が第三者の保管に任せられる場合においても、差押の効力に影響がないかぎり、第三者が加工等をすることも妨げられません。しかし、これに要した費用は執行費用とはならないために、執行官に請求することはできません。私法上の権原により執行債務者または債権者に対して、請求をすることは可能です。

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