連帯債務と差押

債権者Aは、債務者BC両名に対し、それぞれ100万円の金銭債権につき、有体動産執行の申立てをしました。BCの債務は実体法上は連帯債務の関係にある場合、執行官がBCにつきそれぞれ100万円の限度で差押をすることは許されるでしょうか。この場合は執行官がBCにつきそれぞれ100万円の限度で差押をすることは許されます。
通説では、連帯債務は、債務者の数に応じた複数の独立した債務であり、各債務者は全部の給付をすべき義務を負いますが、債務者の一人または数人から全部の給付が一回あれば、全債務者の債務が消滅するものであると解しています。そして、連帯債務は、各債務者に共通の単一の目的を達するための複数の手段であり、各債務者は、主観的に共同の目的によって連結されているとしています。

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民訴法五六四条二項は、差押は執行力ある正本に掲げたる請求を債権者に弁済する為め及び強制執行の費用を償う為に必要なるものの外に及ほすことを得す。と規定して、差押を執行債権の満足および執行費用の弁償に必要な範囲に限定しています。したがって、有体動産執行においては、執行官が差押をする物を評価して、債務名義に記載された債権額および執行費用の所要見込額の合計額の範囲内で、差押をすることになります。この条項は、ドイツ民訴法八〇三条一項後段を承継しており、超過差押禁止の原則は、差押が特定の執行債権者の債権の満足をはかるための手続きであることの当然の帰結であるとされています。優先主義をとるドイツ法においては超過差押禁止の原則を厳格に適用しても、執行債権者の保護に欠けるところはありません。しかし、日本法においては、平等主義を採用しているため、次のような不都合が生じています。ある執行債権者が債務者の財産を執行債権額の範囲で差押をしても、他の債権者は原則として換価手続が完結するまで配当要求をして執行に参加することができ、執行に参加した債権者が債務名義を有しなければ、その後も差押の範囲は拡張されず、各債権者は平等に配当をうけるので、執行債権者は完全には執行債権の満足を得られなくなってしまいます。また、執行に参加した債権者が債務名義を有すれば、その債務名義の範囲で差押が拡張されることになりますが、債務者に全執行債権に見合うだけの財産がなければ、結局差押は十分には拡張されず、やはり、先に差押をした執行債権者は完全には執行債権の満足を得られなくなってしまいます。このようなことがあるので、日本法においては、超過差押禁止の原則は、緩やかに解釈される傾向があります。
連帯債務の特徴は、債務者の一人または数人から全額の弁済が一回あれば全債務者の債務が消滅することですが、有体動産執行において弁済とみなされるのは、金銭の差押をした場合は差押時金銭以来の物の差押をした場合は換価により執行官が売得金を領収した時であるため、金銭以外の物の差押をしただけでは連帯債務者の債務は消滅しません。このように差押に弁済の効力がないことに着目すれば、本問は、積極に解することになります。しかし連帯債務は、債権者の一個の債権を満足させるための複数の手段であって、複数の独立した債務であることはそのための法形式であること、連帯債務は、実質的には共同保証であって、全債務者の総財産が債権者の債権を一回だけ満足することを担保している関係であること、したがって、複数の強制執行手続は、債権実現のための手段であるため、債権者に一回だけ満足を与えるという連帯債務の目的に制約されるということを理由に、本問を消極に解し、執行官はBC両名につきあわせて100万円の限度でしか差押をすることができないとする説があります。しかし、連帯債務が実質的に共同保証であっても、複数の独立した債務であるという法形式を選択した以上、その法形式を尊重すぺきです。また、差押は執行債権を満足させるための手続の最初の段階であって、手続が順調に進行すれば、差押物が換価され執行官が売得金を領収して弁済とみなされるので、本問において、積極説をとることは、差押の段階ではまだ弁済があるかどうかは不確実であるため、差押に弁済に準じた効果を認めないということであり、消極説をとることは、差押の段階でほぼ弁済があることが確実になったから差押に弁済に準じた効果を認めるということです。平等主義のもとでは、執行債権者が差押をしても執行債権の満足を得られなくなる場合があることは、既に述べたとおりですが、さらに、差押物件に担保権が存在した場合差押物件が執行官の評価額より安く換価されたり、執行費用が当初の予想より多額になりた場合、差押物件が第三者の所有であったため第三者異議の訴えにより差押が解除されたり、盗難等で執行官の占有から逸出した場合にも、債権者は執行債権の満足を得られなくなります。
以上のように執行債権者が差押をしても執行債権が満足されない場合がかなりあることを考えると、差押に弁済に準じた効果を認めることは早計です。したがって、本問は、積極説が妥当です。なお、積極説は、不必要な差押を許容することになり、債務者に無用の苦痛を与え、いたずらに執行費用の増大をもたらすものであると批判されています。しかし、積極説をとっても、常にBCにつきそれぞれ100万円の限度での差押をする必要はなく、執行債権が満足される蓋然性と債務者の苦痛や執行費用の増大とを比較考慮して、最大限度まで差押をすることについては、慎重に運用すべきであるため、この批判はあたりません。

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