仮登記のある不動産を担保

金銭貸借等の場合に、債権担保のため債務者所有の不動産につき代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約または売買予約がされ、停止条件付所有権移転または所有権移転請求権保全の仮登記がされている場合に、従前は、債務の不履行があったときは、案件成就によりまたは予約完結の意思表示をして、仮登記の本登記を得て代物弁済等により債権者が当該不動産の所有権を取得するということは是認されており、契約が暴利行為として公序良俗に反する場合には民法九〇条によって不動産の取得が制約されていたにすぎませんでした。しかしその後に学説や下級審判例によって債権者に目的不動産の換価処分および清算を義務付ける方向への理論構成がみられるようになり、やがて昭和四二年、最高裁第一小法廷は、予約等を担保権的に把握し、債権者は目的不動産を換値処分し、換価金が債権額を上廻る場合にはその差額を清算金として債務者に返還すべき旨を説示するにいたり、以後最高裁において第一小法廷を主とするいわゆる仮登記担保に関する判例が相次いで打ち出され、その基礎的理論は一応の完成をみていましたが、なお判例理論として定着したものかどうか疑間を抱くむきもあったところ、昭和四九年最高裁大法廷は一部変更はしたものの原則的にはこれを承認して従前の判例を集大成するに至りました。

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昭和四二年の一小判のほか初期の一小判は、債権担保目的の代物弁済予約等が抵当権と併用されていること、契約時における物件価額と弁済期までの元利金の額とが合理的均衡を失していることを仮登記担保の認定基準としてあげ、なお特別の事情という限定を付していましたが、以後の最判はこれらを掲げておらず、大法廷判決も同様です。抵当権の併用がなく、契約時における物件価額と債権額ないし代金額とが合理的均衡を失していなくても、仮登記担保を認めうる場合があるのであって、抵当権の併用等は仮登記担保の認定資料にすぎませんでしたが、これを担保権構成をとるための要件と受け取られる恐れがあったところから判例はこれを掲げなくなったものと考えられます。
売買予約については明らかに未来型と担保型とがあり、いずれを原用とも断じることはできず、担保型であることを援用しようとする者においてこれを主張、立証しなければなりません。その際、抵当権が併用されていること、契約時において物件価額が代金額を合理的均衡を失する程に上廻っていることなどは、これを担保型と認定するための有力な資料となります。このように売買予約には二つの型があるために、売買予約の仮登記のされている不動産を担保にとろうとする者は、それがいずれの型であるかを債権者や債務者に契約内容、締約の経緯等を聞くなどして調査し、それが本来型である場合には、不動産を担保にとっても将来予約権者が予約完結の意思表示をして本登記をするにつき承諾を求めてきた場合には担保を失わざるをえなくなることを覚悟すべきものです。
仮登記担保権の設定されている不動産を担保にとった場合、仮登記担保権者が仮登記の本登記手続きをするにつき承諾を求めてきたときは、前記一小判のもとにおいては、担保権者は、仮登記担保権者に対して、同人が優先弁済を受けた残余の清算金の全部または一部を自己に支払うよう求めることができ、かつ、その支払と引換えにのみ承諾義務の履行をすべき旨を主張しうるとされていたので、当設不動産に仮登記担保権が設定されていても、なお残存の担促価値があるかぎりこれを担保にとって一小判の説示する方法により自己の債権の回収をはかれたのですが、前記大法廷判決は、仮登記担保権者に対し自己への清算金支払を請求できるのは債務者および目的不動産の第三取得者のみであって仮登記に遅れる抵当権者等の後順位債権者はこれができないとして一小判を変更するに至りました。
一小判は、いわば話訟手続き内における配当手続を構想するもので優れた着想というべきです。しかし、大法廷判決も述べるように、それには次のような難点もあります。後順位債権者が仮登記担保権者に対し直接清算金を請求しうる根拠は見出し難く、もし直接の清算上の権利義務の関係を認めるときは、本来非訟手続である競売手続においてのみ適切になしうる多数債権者相互間およびこれらの債権者と債務者との間の借綜した権利関係の処理を、その処理に適さない訴訟手続きによる仮登記担保権の実行手続において要求することとなり、種々の不都合な結果を生じるのであり、それに、仮登記担保が広く利用されるようになった理由の一つは簡易、迅速な換価という利点のあることですが、訴訟手続内における配当手続を構想するため、換価手続が遅延するおそれが多分にあります。一小判の見解は法律はなれがすぎることと、手続的視点から採用が拒否されたわけです。
大法廷判決では、後順位の差押債権者や抵当権者らに対して仮登記担保権者に対する直接の清算金請求権を認めなくても、これらの権利者は、その債務名義または物上代位権によって、債務者が仮登記担保権者に対して有する清算金債権を差し押え、取立命令等を得て債権の満足をうることができるのであるから大きな不利益を受けることもありません。しかも、いわゆる帰属清算の場合においては、清算金の支払と仮登記の本登記手続とが同時履行の関係に立ち、この場合に後順位の差押債権者や抵当権者らは、仮登記担保権者からの本登記の承諸請求に対し、その承諾義務が本来本登記義務の履行されるべきことを前提とする性質のものであることにかんがみ、自己独自の抗弁として債務者に対する清算金の支払との引換給付の主張をすることができるものと解されるために、清算金の支払確保のために特段の手数を要することもないこととしているのですが、一小判に比し後順位債権者が不利益になることは否定すべくもありません。しかし、一小判の前記難点のにより、それもやむを得ないこととしたと考えられます。大法廷判決は、従前の一小判の仮登記担保理論を原用的には肯定しつつ、ただ余りに立法論的な構成は避け、できるかぎり現行制度にのるような形で解決をはかろうとするものであって、後順位債権者に対し、債務者の仮登記担保権者に対する清算金請求権の差押、移付、供託、配当という現行制度上の手段によって満足をはかるべきことを要求するものといえ、そこでは種々の法律間題が発生し、後順位債権者の保護において充分でないもののあることは充分承知のうえであえて判例変更をするにいたったものというべきです。大法廷判決のこの基本的な考えは正当なものと思われます。したがって、種々の法律問題の生起、後順位債権者の不利益の点のみからたやすく大法廷判決を不当とすべきものではありません。それどころか今後は大法廷判決の見地に立ったうえで後順位債権者の保護の方策を見出すことに力が注がれなければなりません。
仮登記担保権の設定されている不動産を担保にとった者は、従前の一小判のように仮登記担保権者に対し清算金の支払を求めることはできず、物上代位権に基づいて債務者が仮登記担保権者に対して有する清算金請求権を差押えて取立をはからねば担保権を設定しても当該物件ないし清算金からの債権回取ははかりえず、また、差押をしようとしても、差押以前に清算金が債務者に支払われたり、債務者が清算金請求権を第三者に譲渡したりしてしまったのちは差押ができないのであって、不安定な弱い立場に立たされることになります。後順位債権者保護の方策が見出されていない現段階においては、このことを充分理解したうえで、仮登記担保権の設定されている不動産を担保にとるかどうか、融資等をするかどうかを決しなければなりません。これは仮登記担保権者が競売手続の開始に先立って既にその権利の実行に着手した場合のことであって、大法廷判決によれば、競売手続きが先行しているときは、仮登記担保権者はその競売手続に参加して配当を求めるぺきものとされているために、仮登記担保権の設定されている不動産につき抵当権の設定を受けた者は、仮登記担保権の実行がされる前に抵当権の実行をはじめれば競売裁判所で配当を受けうることになります。

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