仮登記担保における受戻権

債務者が債務の履行を遅滞したために、債権担保のために結ばれた停止案件付代物弁済契約の案件が成就し、あるいは代物弁済予約や売買予約につき完結の意思表示がなされても、直ちには目的物の完全な所有権移転は生じず、債務者が債務の弁済をして目的物を受け戻すことができるということは、借用された法形式にとらわれないで契約の実質に理した解釈態度を採る仮登記担保法理として、債権者の清算義務と並び、最も注目される点であり、従来の法解釈からは予想されなかったところです。この受戻権は、すでに最判四二・一一・一六民集二一巻二四三○頁が、条件成就ないし予約完結後であっても、換価処分前には、債務者は債務を弁済して目的物件を取り戻しうると判示し、明確に承認していましたが、最判昭四九・一○・二三民集二八巻一四七三頁は、清算金の支払時期である換価処分の時に仮登記担保権者の債権は満足を得たことになり、これに伴って仮登記担保関係も消滅するものというぺく、その反面、債務者は、この時期までは債務の全額を弁済して仮登記担保権を消滅させ、その目的不動産の完全な所有権を回復することができる。と説いています。このように、受戻といっても、一度移転した所有権を取り戻す意味ではなく、担保の拘束から解放され、所有権の完全性を回復する越旨であることに注意を要します。かかる受戻権の行使は、本来は仮登記担保関係が存続しているかぎり許されるはずですが、具体的にどの時点をもってここにいう仮登記担保関係の消滅時点と解するかは、換価処分の形態に応じて検討を要するところであり、定説が確立されているとはいいがたく、担保権的観点からする債権者と債務者との間の利益衡量とともに、換価処分に第三者がからんでくるときには、取引の安全の要請にも考慮を払う必要がでてきます。

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換価処分が原則的形能である帰属清算方式の予定する態様で実行されるかぎり、本登記と引換に清算金の支払がなされた時点が仮登記担保の消滅時点であり、目的物の所有権が完全に債権者に移転して債務者の受戻権が消滅する時点も、そこに一致します。しかし、債権者が評価に基づく清算金を提供して本登記手続を求めたのに債務者が拒否した場合には、提供された清算金が客観的に正当と認められる額であるかぎり、清算金の受領および本登記未経由のままでも債務者の受戻権は消滅します。債務者が受領遅滞となるからですが、この場合でも清算金の提供は必要であり、単なる清算通知では足りないとするのが多数説であって、正論であると思われます。
換価が目的物の第三者への売却という手段によって行なわれる処分清算方式の場合の法律関係はやや複雑で、この場合にも債権者と債務者との間では、清算に先立って本登記手続がなされるとはいえ、本登記と同昨に目的物の所有権が完全に移転するわけではありませんが、債権者が目的物を自己の物として売却することにより第三者に有効に所有権を取得せしめうる権限が債務者から与えられているために、債務者は、所有権が債権者に移転していないという内部関係をもって第三者に対抗することはできず、第三者の善意、悪意が問題となる余地もありません。しかし、第三者が所有権移転登記を経由するまでは、債務者は、自己の債務を弁済し、受戻権の行使による所有権復帰を主張して、先に登記名義を回復することにより、第三者の所有権取得の対抗力を否定して、受戻の目的を達しうるものと考えられます。二重譲渡と同様の対抗問題として処理するわけで、かかる見解を是認する趣旨に解しうる判例もあります。しかし、学説上は第三者への処分契約成立後は受戻権を認めない見解がむしろ多く、登記時説を採るときは、債務者は、本来の債務と処分行為に要した費用を提供するほか、場合によっては債権者が第三者に対して負うぺき損害賠償金をも負担しなければならなくなります。
本来は帰属清算方式が予定されている場合においても、債務者が本登記の先履行に応じれば、第三者への処分が清算に先行する事態が生じます。この場合にも、本登記の先履行に応じた債務者は債権者が第三者への売却によって清算資金を調達することを承諾しているものと解して、第三者との関係は、処分清算方式が本来的に選ばれた場合と同様に処理してよく、第三者の登記径由後は清算前でも債務者は受戻権を失いますが、登記が経由されるまでは、受戻権の行使が可能です。
処分の相手方の善意に言及した判例もありますが、前掲大法廷判決はこの点にふれていません。善意が問題となるのは、担保権者の処分行為が債務不履行の発生前になされたようなときの相手方を民法九四条二項の類推適用により保護しようとする場合に限られ、債務者が履行期前に所有権移転の本登記に応じたような特殊な場合を除いては、善意、悪意が問題になる事態は生じないとしてかまいません。
以上のように考えると、清算金の提供時、もしくは第三者の所有権取得登記経由時が受戻権の消滅時期となります。帰属清算型と処分清算型とでその消滅時期を分けて説くのが一般的ですが、それは換価方式のいかんによって、受戻権の消滅をきたす二つの基準時の到来の先後が、原則としては逆になるからです。

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