仮登記担保

金銭の貸借にあたり、債務者または第三者所有の不動産を目的として、抵当権を設定するとともに、停止条件付代物弁済契約または代物弁済の予約を結び、停止条件付所有権移転ないし所有権移転請求権保全の仮登記がされる例は多く、抵当権と併用されず、代物弁済予約を原因とする仮登記のみがなされる例もあります。このような代物弁済予約の契約目的が債権の担保にあることは明らかですが、法定担保権、特に抵当権のほかに、かかる法の予定しない担保手段が用いられる主な理由は、現行法上の担保制度の不備を補完ないし回避すること、特に抵当権の実行としての競売法による競売によらないで、より有利かつ簡便な方法により債権の回収をはかることにあるといわれます。しかし、それならば、債権者のために、法定の競売手続によらない任意の換価処分権能と、その換価代金からの優先弁済権を認めれば足りるはずであり、債権額をはるかに超える価額を有する目的物をそっくり債権者の所有に帰せしめることは、必要以上に債権者を有利に扱うことになります。一方で立法や判例、学説が、高利を制限するための厳しい態度を打ち出して来ているのに、ひとたび代物弁済予約の形式が採られると、元金の何倍もの価額を有する物件がまるまる債権者のものになるのでは、いかにも片手落ちの感を免れません。代物弁済予約を担保権的に把握する法理が判例を中心として確立されていった根底には、このような不公平を放置しえない裁判実務からの要請があったのです。

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民法の定める代物弁済は、本来の給付に代えて他の給付をなすことにより債権を消滅させる決済手段です。従前、代物弁済予約の担保的機能を肯定しながらも、目的物の丸取りを許す結果となっていたのは、担保方法として借用された代物弁済予約に対し、このように決済手段たる代物弁済本来の性質に従った法的取扱をすることが当然視されたため、予約完結に伴う目的物の所有権移転が必然の結果として承認されてきたからです。これに対して、最判昭四二・一一・一六民集二一巻二四三○頁を例とする一連の判例の採った解釈態度は、借用された契約の形式を重視した観念的処理によって生じる不当な結果を制約するために、契約の実質を直視し、借用された契約とは異賀な担保権設定契約として把握することにより、その効果をこの契約目的に照らして過不足のない合理的範囲に限定しようとするものです。その結果、担保を目的とした代物弁済予約は、目的物の価額から債権額を差し引いた差額を清算金として債務者に支払うことを要する趣旨の債権担保契約と解されるに至り、債権者による目的物の価額の丸取りは許されないこととなりました。契約の果たすぺき機能と法形式との距離を埋めるために採られた解釈態度の画期的転換といわれるゆえんです。
債権担保のために、本来は別の性質を有する法形式を借用する例として、代物弁済予約と並んでかなり広く行なわれているものに売買予約があります。債務者所有の不動産について売買の予約を結び、予約上の権利を仮登記によって保全するのがこの契約の採る形態であり、期限に債務が履行されないと、債権者は、予約完結の意思表示をして本来の売買を成立させ、自己の債権と代金債務を相殺することにより、目的物の所有権を取得して債権の回収をはかりうるとされていたものです。しかし、借用された法形式本来の性質にとらわれないで、契約の実質目的に応じた合理的解釈をしようとした代物弁済予約に関する判例の態度が、ここでも踏襲され、目的物の丸取りを認めず、適正な評価額と債権額の差額清算が債権者に義務づけられるに至ったのは当然の帰結でした。少なくとも仮登記まで伴った代物弁済予約は、ほとんど全部が担保目的によるものとみてよい実情にあるものとは違い、仮登記の原因が売買予約であるときは、本来の売買の予約が結ばれている場合も少なくないので、それが担保の仮託形式にすぎない場合との認識が必要となります。
判例が担保手段たる代物弁済予約および売買予約について採った解釈態度は、学説の圧倒的支持を受け、共通の権利保全手段が仮登記であることに由来する仮登記担保の名のもとに、譲渡担保と並ぶ、判例の認知を得た独立の担保権として位置づけられるに至りました。この法理を集大成したのが最判昭四九・一○・二三民集二八巻一四七三頁です。そこでは仮登記担保権の呼称も承認され、その権利の内容は、債務の履行遅滞があると権利者において目的不動産を処分する権能を取得し、これに基づいて、当該不動産を適正に評価された価額で確定的に自己の所有に帰せしめること、または相当の価格で第三者に売却等をすることによって、これを換価処分し、その評価額又は売却代金等から自己の債権の弁済を得ることにあると説かれています。そして、前述した債権者の差額清算義務も、このような内容の担保権であることから演繹される当然の帰結として判示され、仮登記担保に関する判例の法理が一段と明確化されました。

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