譲渡担保と売渡担保

権利移転の契約形式を用いた信用授受の手段は古くから使われ、これに議渡担保、売渡担保、売渡抵当などの用語が使用されてきました。このような非典型担保が用いられる理由としては、動産を債務者の占有にとどめたまま担保化する方法が民法上認められていないこと、典型担保の換価手続が煩雑であること、形成途上の財産権を担保化するに適切な制度が未だないことなどが指摘されています。そのような便利な担保方法ではありますが、形式が権利移転契約でありながら、実質が担保契約であるという矛盾した要素を併有するうえに、具体的な契約にも様々な態様のものがあるために、かかる契約の法的構成を統一的に示すことは古くから問題とされていました。

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次の判例はかかる契約にも二種のものがあることを明らかにしました。つまり、大判昭八・四・二六民集一二巻七六七貢は、其の一は新生若くは既生の債務は依存之を存続せしめつつ、一面当設財産権を譲渡す場合にして、此譲渡たるや固より交換にも非ず、贈与にも非ず、又売買にも非ず、担保の目的を以てする譲波なり。他の一は取引そのものは売買を為すにあり。而も真実の売買なり。此種取引にありては雨後何等の債務も残留すること無しと判示し、前者を譲渡担保、後者を売渡担保と称するのが相当だとしたのです。そして、大判昭八・一二・一九民集一二巻二六八○貢、同昭九・八・三民集一三巻一五三六貢は、この区別をするにあたっては、当事者の使用した用語や法律構成にとらわれることなく、当事者の意図した経済的効果その他一切の事情を考慮して判断すぺきことを判示しました。その後の判例がこの区別に忠実であったか否かについては疑問が残りますが、この区別についての判例の抽象論は一応正当だと思われます。つまり、債権債務の在否がこれを区別する最も重要な点であることは今日でも妥当するからです。しかし、具体的な事案において債権債務が存在するか否かの認定は、実務的には容易な作業ではありません。その理由の一つとして、取引界では、このような区別に従って譲渡担保、売渡担保という用語を用いているとは限らず、むしろ当事者の力関係から契約文言上執ようなまでに、売渡であって債権債務は残存しない旨明記されながら、実貿的には債権担保であることを否定しがたい事案が余りにも多いからです。しかも譲渡担保では清算投階までは所有権は移転しないとみるぺぎであるのに対して、売渡担保では契約時に所有権も移転するとみられるために、この区別が一層深刻な結果をもたらすだけに、その判別の重要性が指摘されます。従来、売渡担保と認定したうえで、譲渡担保と同じように処理していたような事案は、本来譲渡担保の範囲にとりこまれるべきものです。
売渡担保の形式がとられている場合には、通常買戻約定ないし再売買の予約が付けられていますが、その多くは受戻に関する特約とみられ、売主に使用取益権を保留する場合にはほとんど譲渡担保とみるべき事案です。つまり担保のためという目的が同じであるにもかかわらず当事者の力関係によって、借用した法形式が違っているにすぎないのに、法的効果まで異ならしめるような解釈をとることは極力避けるべぎだからです。そうでなければ、仮登記担保、譲渡担保に関する判例法理の逃げ道を提供することになるからです。もっともこのようなことが、簡便な信用授受の手段を奪う結果にならないかという懸念も否定できませんが、それは立法によって解決すぺき問題と思われます。
契約後の債権債務の存在の有無によって区別すると、そのことから当然に次のような相違点が指摘できます。まず、目的物が滅失したときの危検負担の間題に関連して、譲渡担保の場合には、債権者は、存続する債権に基づいて債務者の一般財産にかかっていくことによってその債権の回収をはかることになりますが、売渡担保の場合には、売主は買主の一般財産にかかっていく権利を有しないことです。次に譲渡担保の場合には担保権の実行があるまでは、その譲渡担保権を放棄することによって、単なる一般債権者として債務者の一般財産にかかっていくことができますが、売渡担保ではこのような方法はとれません。
以上が、従未から指摘されている差異ですが、譲渡担保の場合には清算段階までは、所有権は設定者のもとにあって、契約によって直ちに移転するものではないために、それに伴う諸効果が当然に違ってくることに留意すぺきです。
譲渡担保についての従来の判例を概観すると、大勢としては、内外部とも移転型から外部的にのみ移転型へ、あるいは強い譲渡担保から弱い譲渡担保ヘと、その実質である担保により近づける方向に進んでいたとみられますが、その根本理念は譲渡担保を一種の信託関係として把握し、内部関係では担保の実質にそうような解決を指向しながら、対外的には完全に所有権は移転していることを不動の法的構成としていたのであり、学説も同様でした。ところが、最判昭四一・四・二八民集二〇巻九〇〇貢は、対外的にもその所有権の移転は確定的なものではない旨を明言し、譲渡担保権者は更生手続においては更生担保権者に準じた地位にあり、目的物に対して所有権を主張して取戻権を行使することはできないと判示し、徒来の不動の所有権的構成に動揺を与えました。その後間もなく判例が引用されているかの有名な代物弁済予約の判例が打ち出され、しばし焦点は代物弁済予約の問題に移転したかの観を呈し、一運の判例によって代物弁済予約に関する判例法理が形成され、その担保権的構成が確固たる地位を占め、現在ではこれが通説になっているいえます。そして最判昭四二・一一・一六の段階ですでに、譲渡担保についても所有権的構成から担保的構成への脱皮が追られていることが指摘されていました。
従来の譲渡担保、売渡担保の区別についてもその抽象的基準はかわらたいとしても、具体的事案の認定については再検討の必要があります。つまり所有権移転の契約形式によるものでも実質が担保契約であるならば、全てこれを譲渡担保として把握することが簡明であり、真に売り渡す意思に基づいて売買契約をした場合のみを区別すれば足りると思われます。

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