保全訴訟の裁判と即判力

保全処分の申請が却下された後に、同じ申請人が再び同一の被保全権利につき保全処分の申請をしてきた場合、裁判所はどのように処理すべきでしょうか。保全訴訟の裁判の既判力が問題になるのは、もっぱら保全訴訟相互間においてですが、そこにおいて既判力を認めるべきか、認めるとしていかなる範囲でそれを認めうるかは、保全訴訟ないし保全処分命令の法的性質をどのようにとらえるか、また保全訴訟の訴訟物をどのように構成するかによって異なった結論が生じます。既判力否定説は、保全訴訟が訴訟性を有しないこと、したがって、また、保全処分命令が固有の意味での裁判ではなく、一種の行政行為であること、あるいは、保全手続が一時的に応急の処置を講じるものにすぎないことなどを、既判力を否定すべき主要な論拠にしています。しかし、確定裁判をもって却下された保全処分申請を、同一被保全権利につき、同一保全理由、かつ同一疎明方法で単純に繰り返す場合のように、同一紛争をいたずらに蒸し返すことは、相手方や裁判所に余計な負担を強いることになるだけではなく、裁判の矛盾、低触を生ぜしめるおそれを招くことにもなります。既判力否定説もこうした事態を放置しえないはずです。そこで、同一紛争の蒸し返しを禁じることにより、このような事態に対処しうる制度的効力を考えるとすれば、結局、既判力を差し置くことはできません 。特に断行的仮処分の場合にみられるように、保全訴訟の本案訴訟化は実際上避けがたい傾向にありますが、保全訴訟における訴訟物や既判力に関する理論を構成するうえで、そうした保全訴訟の実態をも十分考慮すべきであって、一般に既判力否定説にみられるように、単純に保全訴訟の裁判手続的性格を否定したり、保全訴訟における裁判を行政行為とする見解を定立するような態度には疑問があります。さらに、保全処分が一時的応急の処置であるという点も、保全訴訟における裁判が本案訴訟に対し既判力を及ぽしえない理由になりますが、保全訴訟相互間における既判力問題に対する解決にはなりません。

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保全訴訟はあくまで仮定的、暫定的な権利保護手段であるため、係争権利関係の終局的確定を目的とする本案訴訟に対する関係では、既判力は問題になりません。しかし、保全訴訟は保全紛争処理のために特別の保全要件についての審理と判断を行なう一種の裁判手続であるため、そうした保全訴訟相互間では、法的安定の見地からも、また相手方や裁判所の無駄な労力を軽滅する趣旨からも、同一保全紛争の蒸し返しを禁じる必要があり、その裁判に証判力を認めることが要請されます。
保全訴訟における裁判に既判力を認めるとして、既判力の範囲をどのように限界づけるかは、保全訴訟の訴訟物をいかに構成するか、特に訴訟物の要素をどのようにとらえるか、という問題にかかっています。保全訴訟の訴訟物については、保全請求権説、被保全権利説、保全状態の形成に関する紛争とみる説、被保全権利に内在する保全権能とする説、保全状態上の実体権とみる説などが錯綜した状態で対立していますが、訴訟物の構成要素はなにかという面からみれば、被保全権利と保全理由の両者を同格対等の要素とする立場と、両要素のうちでは被保全権利がむしろ中核的要素をなすとみる立場とに大別することができます。
被保全権利と保全理由の両者を訴訟物の同格対等の要素とみる通説は、この両要素が保全命令申請事件の同一性を識別する標識をなすとみられます。この立場では、新事実の付加または新理由の強化により、被保全権利と保全理由の双方または一方が別個になる場合には、保全紛争、訴訟物が別個になるため、再度の保全申請は許されますが、面要素が同一なるかぎり、再度の保全申請は許されないことになります。なお、申請却下判決または保全命令取消判決の既判力問題のなかで最も議論が存するのは、疎明のみを強化して再度保全申請をなす場合です。既判力肯定読でも多くの見解は、仮処分の仮定的、暫定的性格を強調するとともに、疎明の強化も一種の新事実の陳述に属するとみて、無条件にあるいは、新たな疎明方法を第一の手続において提出しえなかった場合にかぎるという制限のもとに再度の保全申請を認めようとします。これに対しては、たんなる立証資料にすぎない疎明が第二申請において強化されたところで、保全申請事件が第一申請の場合と同一であるかぎり既判力を免れえないとする批判もあります。被保全権利と保全理由をともに訴訟物の要素とはみるが、そのうち前者を中核的要素としてとらえようとする立場も、いったん却下された保全申請を、同一被保全権利につき、同一保全理由、かつ同一疎明方法をもって単純に繰り返すことは権利保護の必要性を欠くとしますが、新たな事実の主張や新たな疎明の提出があるときは、こうした一事不再理は働かず、被保全権利に関するか、保全理由に関するかにより、場合を分けて考える必要があるとされます。つまり被保全権利に関するたんなる疎明の更新ないし補強にすぎない場合は、却下判決の既判力を免れえないのに対し、保全理由に関するかぎり、その存否は申請の時々の具体的状況にもとづき判断されるべき性質のものであるため、却下判決の既判力は働かず、疎明の更新、補強による再度の申請も許されるとみるのです。

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