仮処分の接触

甲と乙との間で土地の使用に関し争いが生じ、甲が乙は土地に立ち入り、これを使用してはならないとの仮処分命令を得ました。その後に、乙の申請にもとづき甲は土地に立ち入り、これを使用してはならない。甲は乙の土地に対する立入、使用を妨害してはならない旨の仮処分命令を発することができるでしょうか。仮処分の場合には、保全さるべき権利つまり被保全権利が多種多様であり、また仮処分を必要とする事情も様々であるため、仮処分命令も多様な内容をもつことになります。そのため、同一当事者間においても同一の係争物または係争権利関係についてなされた数個の仮処分が内容的に矛盾、抵触するという事態が多く生じます。こうした同一の係争物または係争権利関係についてなされた数個の仮処分の内容低触問題に関しては、いかなる場合が内容低触にあたるかという問題と、内容が接触する仮処分をどう取り扱うかという問題とに分けて考える必要があります。もとより、すでに同一権利関係について仮処分がなされているときに、当該第一次仮処分を廃止、変更したり、その執行を除却したりするための第二次仮処分をなすことが許されない点については、争いがありません。その際、そうした反対仮処分が許されない根拠としては、一般に、法定の不服申立方法をみだすことになるとか、それを認めたのではさらにそれを排除するための仮処分を誘発し、一時的にせよ法律状態を規制しようとする仮処分の本旨をまったく裏切ることになるため、という点があげられています。反対仮処分は、いわば内容抵触が最も明白な場合ですが、実際上しばしば問題になるのは、そうした場合ではなく、むしろ、一応それ自体においては要件を具備した別個の仮処分でありながら、先行の仮処分命令の内容を攻撃する形になるケースです。そこで、こうしたケースにおいても右の反対仮処分の場合に準じた取扱いをなすべきか否かが問題になります。

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内容抵触の有無については、裁判の内容を確定する場合の一般的な準則に従って判定すべきです。つまり仮処分命令の主文の記載をその解釈資料としては理由をも参酌しつつ、客観的に対比して判定すべきです。実際上、仮処分訴訟においては、不作為を命じる仮処分が申請される場合が多いのですが、ひとくちに不作為を命じる仮処分といっても、例えば、単に係争物の現状を維持するという消極的な保全機能を持つにすぎないものと、当該係争物についてたとえ暫定的にせよ権利関係を設定するという積極的な設定的機能をもつものとは区別されるべきです。もとより、積極的な設定的機能をもつ仮処分命令は消極的な保全機能をも包含するのが普通ですが、消極的な保全機能のみを有する仮処分命令が当然に積極的な設定的機能をも包括するとはいえません。例えば、たんに土地への立入りを禁止する旨の仮処分は、現状保全のための消極的な処置ではありますが、これが当然に係争物に対する申請人の使用権の設定を含むとはいえません。申請人が土地に対する暫定的な使用権設定をも望むならば、その趣旨を申立て、その旨の仮処分を得るべきです。それをしないで、立入禁止の仮処分のみを求め、それにもとづいて立入禁止の仮処分のみがなされたときは、使用権を暫定的にせよ誰に認めるかの問題は、なんら触れられることなく放置されているとみるべきです。したがって、同一当事者間において、第一次の立入禁止仮処分の被申請人が同一土地につき第二次仮処分として立入禁止の仮処分を得たような場合には、二つの仮処分によって当事者双方はいずれも係争地に立ち入ることができず、土地への立入りについては、いわば両すくみの空白状態が作出されるだけであるため、両仮処分は内容的になんら抵触しません。
土地の使用をめぐる争いについてなされる使用の妨害を禁止する旨の仮処分は暫定的にせよ積極的に、使用権を設定する機能を有するため、使用の許容を前提とするものと解すべきです。
設問の場合、乙の立入使用を禁じる第一次仮処分命令は、現状維待のための消極的な保全処置を内容とするものであり、立入使用の禁止の点だけをみれば第二次仮処分との間に抵触はないようにみえます。しかし、第二次仮処分命令のうち、甲に対し土地への乙の立入、使用を妨害してはならないと命じた部分は、土地に対する乙の立入、使用権を暫定的に設定する機能をもち、乙の立入、使用を許容するものであるため、この部分は、第一次仮処分命令の内容と抵触します。したがって、結局、両仮処分命令は内容的に低触する関係にあります。
同一当事者間において内容的に低触する仮処分がなされた場合、のちの仮処分は、その命令自体がすでに違法とみなされるのでしょうか、それとも、命令自体は適法で、ただ執行の段階において第一次仮処分の内容により制約をうけるにとどまるのか、という点について見解が対立しています。
命令違法説では、反対に解すべき特別の事情がないかぎり、第一次仮処分と内容的に低触する第二次仮処分は反対仮処分の場合と同様に取り扱うぺきだとするとともに、特に第一次仮処分判決または異議訴訟における仮処分命令認可判決が確定した場合のように、仮処分命令に既判力が生じるときには、第二次仮処分申請は証既判力にも触れることになるとみられます。
命令適法説では反対仮処分を違法とみる点では違法説と共通の立場にたちながら、内容が抵触する仮処分の場合には、保全訴訟を貫く理念である債権者、債務者の利害の均衡をはかるべき見地からいって、第二次仮処分権利者の立場を第一次仮処分の効力を害しない程度において顧慮すべきであること、第二次仮処分は直接第一次仮処分命令を取り消す内容のものと異なり、また第一次仮処分の執行を当然に除却するものでもないので、両裁判の併存を認めてその間の理論的調整をはかるほうが仮処分の暫定的性格にそうこと、すでに第二次仮処分がなされた以上、それを当然無効とすることはできないため、それを取り消さないかぎり両仮処分命令は併存し、第二次仮処分の執行が先になることも起こりますが、それは適法であると解さざるをえないこと、などを根拠にして、第二次仮処分は適決かつ有効であり、ただ第一次仮処分の効力ないし執行により妨げられる限度で、本来の効力を発することができないにすぎないとみるのです。
命令違法説によれば、内容が抵触する第二次仮処分については、その申請および命令自体が違法となるため、まず申請そのものを不適法として却下すべきですが、それを看過して発した命令も当然に取消の対象になります。第一次仮処分債権者は、上訴、再審、異議などにより仮処分申請の排除ないし仮処分命令の取消を求めることができます。なお、命令違法説によると、かりに第二次仮処分が第一次仮処分より先に執行されたとしても、そのことのゆえに適法となるわけではなく、やはり第二次仮処分は取消の対象になるため、まずその命令を取り消すことによりその執行を取り消しうることになります。命令適法説によると、第二次仮処分は、第一次仮処分の効力ないし執行に妨げられる限度においてその本来の効果を生じえないため、執行を要しない仮処分であれば発効しえず、執行を要する仮処分であればその執行ができないことになります。ただ、第二次仮処分命令後に第一次仮処分命令が取り消された場合には、第二次仮処分命令は、執行を要しないものであれば発令時にさかのぽって発効し、執行を要するものであれば直ちに執行に移りうることになります。また、第二次仮処分命令が執行を要するものである場合、第一次仮処分の執行が取り消されたり解放されたときも、第二次仮処分の執行を申し立てうることになります。
命令適法説が反対仮処分の違法性を認めつつ、実質上それに類似した内容抵触仮処分の取扱いについて、反対仮処分の場合と峻別しようとするのは問題です。設問の場合でも、第一次仮処分命令では係争地に対する乙の立入、使用を禁しているのに対して、第二次仮処分命令は、暫定的にせよ乙の立入、使用の権限を設定し乙の立入、使用を許容することにより、第一次仮処分命令とまったく相反する結果をもたらすものであるため、第一次仮処分命令に対しては、直接に第一次仮処分命令の廃止や変更を目的とする反対仮処分と実質的には同じ関係にたつものです。したがって、反対仮処分を違法とする以上、内容抵触の仮処分もそれに準じて取り扱うことが当然に要請されるとみるべきです。
反対仮処分を違法とする根拠については、上述のように、通常、主として法定の不服申立方法をみだすという点があげられますが、第一次仮処分命令の内容を尊重するという実質的考慮の面からの評個も見逃してはなりません。保全訴訟は、係争権利関係の終局的確定を目的とするものではないため、本案訴訟に対する関係では既判力は問題になりませんが、保全訴訟相互間では、保全紛争の公権的解決について、やはり法的安定や訴訟経済の要請が妥当するため、そのかぎりにおいて保全訴訟における確定判決にも既判力を認める必要があります。
通常の民事訴訟においては、前訴と後訴とで訴訟物を異にする場合でも、その両者間にいわゆる矛盾的対立の関係が存するときは、前訴の確定判決の既判力が後訴に及びますが、保全訴訟相互間においてもこの論理を類推することができるのであって、反対仮処分や内容抵触仮処分は、第一次仮処分に対しては内容的に矛盾的対立の関係にあるため、第一次仮処分命令が既判力を有するものであるかぎり、それに抵触することになります。

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