断行仮処分と本案判決

乙(被告)は甲(原告)に対して家屋を明け渡せとの仮執行宣言付第一審判決があり、その執行が停止された場合に、甲は同家屋の明波しを求める断行仮処分を申請することができるでしょうか。また、判決にもとづく家屋明渡しの仮執行が終了した後、事件が控訴審に係属中に、乙は甲から同家屋の占有を回復するための断行仮処分を申請することができるでしょうか。断行仮処分は、民訴法七六○条所定の仮の地位を定める仮処分の一種であって、被保全権利である給付請求権等の存否が本案判決によって確定される前に、その権利が実現されたのと同一または近似の事実上または法律上の状態を形成することを目的とするものであり、その他の仮処分と同様に、本案訴訟とは別個の保全訴訟の手続によって審理され発令されます。そして、保全訴訟において被保全権利の存在およびその保全の必要性が疎明されるかぎり、本案訴訟の係属の有無ないしその進行状況とは無関係に発令されるのが原則です。しかし、断行仮処分といえども、本案判決に対する関係では従たる地位にたつ一つの保全処分にすぎないため、本案判決がすでに確定している場合はもとより、それ以前でも、仮執行宣言付の第一審または第二審本案判決があったり、それが執行されたりした場合には、その判決または執行の効力と接触する断行仮処分の申請の利益ないし必要性の認められない場合が生じるのは当然です。

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断行仮処分も本案判決に対する関係では従たる地位にたつ保全処分にすぎないため、すでに仮執行宣言付の本案判決があり、それにもとづく執行を即時になしうる場合には、原告はその執行によって、権利の実現をはかるべきであって断行仮処分を申請する利益も必要性もありません。しかし、その判決の執行が停止された場合には、再び断行仮処分の申請を認めるべきか否かの問題が生じます。ここでは問題を第一審判決の執行停止の場合に絞って考えると、その執行停止の根拠法条である民訴法五一二条は同法五○○条や五四七条による執行停止の場合のような厳格な要件を要求しておらず、実務上も適法な控訴の提起さえあればかなり容易に執行停止を認めるのが実状です。しかも、民訴法五一二条は執行停止の決定に対する不服の申立てを認めておらず、また、一部には被控訴人(原告)に立保証による執行続行命令の申立てを認めるべきであるという見解があるものの、いまだ実務の大勢とはなっていません。その結果、勝訴の確実性の強い原告を被告の不当な上訴にもとづく執行遅滞から救済しようとする仮執行宣言制度の本来の目的はほとんど没却され、その制度は原告に生じる現在の損害や危険を除去する手段としてははなはだ無力なものとなっています。以上のような事惰から考えると、第一審判決の執行停止の場合には、被保全権利の存在および保全の必要性が疎明されるかぎり、断行仮処分の申請を認める利益と必要性があるというぺきであり、設問前段はこれを肯定的に解するのが相当です。ただこのように解する場合、そのような断行仮処分は本案判決たる第一審判決の執行停止の効力に抵触しないかという問題が生じます。これは一つの困難な問題ではありますが、しかし、本案訴訟がいまだ係属していない場合、本案訴訟は係属しているが第一審判決がない場合あるいは第一審判決はあったが仮執行宣言がない場合などには、いずれも断行仮処分の申請が認められるのに、いったん第一審判決の仮執行の必要があるとしてその宣言がなされながらその執行が停止されると、もはや断行仮処分の申請が認められないというのははなはだ不合理です。また、この執行停止の決定は断行仮処分の被保全権利の存在やその保全の必要性について否定的判断を示すものではなく、さらに仮処分の必要性は執行停止の決定後にはじめて生じることもありえます。このような事情からすれば、第一審判決の執行停止にその執行と同一または近似の状態の形成を目的とする断行仮処分の発令または執行までも禁止する強大な効力を認めるのは相当でなく、その執行停止はたんに仮執行宣言にもとづく仮執行自体を一時停止する効力を有するにすぎないものと解すべきです。したがって、断行仮処分が第一審判決の執行停止の効力に接触するか否かの間題はこれを肯定的に解するのが相当です。このような断行仮処分の執行により本案の確定判決にもとづく執行があったのと同一または近似の状態が形成されても、本案の裁判所はそのような事実を斟酌することなく本案請求の当否を判断すべきものであることは、仮執行宣言付本案判決にもとづく仮執行があった場合と同様です。
仮執行宣言は、未確定でいまだ既判力の生じていない原告勝訴の終局判決にその判決が確定した場合と同様の執行力を付与する裁判であって、その言渡しと同時に効力を生じますが、その後仮執行免脱宣言にもとづく担保の提供や仮執行宣言または本案判決を変更する判決の言渡しがあればその効力を失うことは、民訴法一九六条および一九八条の規定から明らかです。しかし、その反面、このような事由の生じないかぎりその効力を失わないのであって、後日上訴審で本案判決が変更された場合でも、その前に仮執行が終了しておれば、その執行処分の効力が遡及的に消滅することはないのです。ただこの場合には、被告が仮執行宜言にもとづいて給付した物の返還や仮執行によってまたはこれを免れるためにうけた損害の賠償を原告に請求する権利を取得するにとどまります。したがって、被告は、上訴審で本案判決が変更されるまでは、仮執行宣言にもとづいて給付した物の返還を請求する権利を有しないものというぺきであるため、その変更前には給付物の返還を求める断行仮処分を申請することもできないと解すべきです。本案判決の変更前にこのような断行仮処分の申請を認めることは、いまだ停止条件付権利にすぎない権利を被保全権利とする即時断行の仮処分を認める不合理をおかすことになるとともに、既判力が生じていないとはいえ確定的判断にもとづいてなされた本案判決の効力を暫定的判断にもとづいてなされるにすぎない仮処分の効力によって覆滅するという不都合な結果を是認せざるをえないことにもなるからです。そうしてみれば、設問後段はこれを否定的に解するのが相当になります。

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