占有移転禁止仮処分

執行官保管、占有移転禁止仮処分命令において、目的物件の使用を債務者に許容するにつき、現状を変更しないことを条件とする旨の文言を付すことは許されるのでしょうか。仮処分においては、被保全権利や仮処分によって避けようとする危険が多種多様であるところから、仮処分命令によって命じられる処分の具体的内容も千差万別であって、仮差押命令のように単純ではありえません。それゆえ、あらかじめその内容を法定することが不可能であり、しかも実惰にあわないため、民訴法では、裁判所は其意見を以て申立ての目的を達するに必要なる処分を定むとして、裁判所に、具体的事件において仮処分命令の内容を形成する裁量権を与え、その内容として、保管人を置くこと、相手方に行為を命じまたは禁じること、給付を命じることを例示するに留めています。しかし、民事紛争は、ある程度類別できるものであるうえ、仮処分に対応する本案訴訟とこれにもとづく強制執行方法が実定法上明確に類型化されているところから、実務においてしばしば発令されている仮処分の内容は、法が具体的方法として例示しているものの一つまたは数個が組み合わされたものに尽きているのが普通です。

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執行官保管、占有移転禁止の仮処分は、処分禁止の仮処分とともにもっとも頻繁に発令されているものですが、その主文は、通常、債務者の不動産に対する占有を解いて、○○地方裁判所執行官にその保管を命じる。執行官は、現状を変更しないことを条件として債務者にその使用を許さなければならない。この場合には、執行官は、その保管にかかることを公示するため、適当な方法をとらなければならない。債務者は、この占有を他人に移転しまたは占有名義を変更してはならない。旨の内容となっています。
ところが、東京高等裁判所が、昭和三七年になって相次いで、占有移転禁止仮処分決定に違反した債務者及び第三者を執行官が点検排除という名目で職権をもって目的土地建物から排除することは違法である。旨判示したため執行官は、従来から慣行的に行なっていたいわゆる点検執行による債務者および第三者の排除を行なわないようになりました。そこで、東京地方裁判所保全部では、これら判例、執行実務の取扱いの変遷、現状変更禁止文言の理論的難点や執行面での弊害等を詳細に検討した結果、現状を変更しないことを条件として去々の文言は、当然に債務者に対し、物的、人的現状を禁止した不作為命令を含んでいるとすることには疑問があること、実務においては、仮処分申請の際、目的物件に物的現状変更のおそれがあるかどうかについてまったく審理しないのにかかわらず、きわめて安い保証金で、現状を変更しないことを条件として云々の記載した仮処分を発令するのが慣例であったこと、債務者が借地上の建物を増改築し、建物賃借人が建物の修繕、内部の改装をした場合、この現状変更禁止文言に違反していることを盾に、債務者の増改築、修繕等を禁止するとともに、債務者に退去を迫るという悪質な債権者が後を絶たない状況があったこと、個々の事案において、債務者が物的現状を変更するおそれがあり、かつその変更がなされると、本案判決の執行が署しく困難または不能になる等の事情が疎明されたときには、しかるべき保証をたてしめたうえて、建物の増改築、修繕、改装をしてはならない。旨の判然とした不作為命令を追加するのが相当であること、の結論に到達したので、昭和三八年一二月以降、現状変更禁止文言を削除した主文を用いるようになっています。
この種仮処分に現状変更禁止文言を付加することができないとする東京地方裁判所保全部の実務の結論を支持しながらも、その根拠を、この仮処分命令の性質、執行方法に求めようとする新しい見解があります。この見解によれば、この種仮処分の慣例的主文は、まず、債務者の占有を解いて、執行官に保管を命じることとしていますが、現実の執行においては、執行官は目的物件の占有を取り上げることをせず、たんに執行官が目的物件のある現場に臨んで債務者に対し、目的物件が執行官の占有に帰しその保管のもとにおかれるようになったことを宣言して、その旨の公示書を適当な個所に貼付するにすぎないものであるため、この主文でいうところの、債務者の占有を解いて執行官の保管を命じるという文言は、債務者の占右する目的物件の上に執行官の占有を設定し、これを債務者に使用させることを許す趣旨を指称するにすぎないものというべくして、この仮処分命令は、まさに民訴法五六六条二項の準用によって執行されることを予定した非本執行型仮処分であると解さざるをえないとしています。そして、執行官が民訴法五六六条によって仮処分を執行した場合、執行官は独立の執行機関としてその権限と責任において、これを保管し、必要な保存の処置を講じるぺきものであって、これについて執行裁判所の指揮監督をうけるものではないといいうるため、仮処分裁判所としても、占有移転禁止仮処分としての五六六型仮処分を発令するにあたって、執行官に対して、現状を変更しないことを条件として債務者にこれを使用させることを命じる、いわゆる指揮監督的命令を、仮処分命令に加えることは許されないとします。
東京地方裁判所保全部の実務においては、この種仮処分の主文に現状変更禁止文言を付加していないことは先に述べたところですが、かかる文言を一般的に削除したことについては疑問や批判が表明されています。まず、現状を変更しないこと云々という文言は削除しなければ理解しえないほど、不明確、曖味なものとは考えず、現状の変更があったか否かは、本執行の際仮処分執行時の状態のままでの執行が社会通念に従って可能かどうかによって決せられるべきものである、とするものです。次に、かかる文言を削除すると、仮処分を迫力のないものにするのみならず、主文上は、客観的現状変更が禁止されていないと誤解されるおそれがある、とするものです。しかし、現状を変更をしないことを条件として云々の文言は、仮処分命令の主文の正確性の要請からみて、内容が不明確であることは免れえないものであるうえ、これが債務者に対する不作為命令を構成するか否かについても、疑問の余地があるため、不必要な混乱を避けるため、かかる文言を削除したことは妥当であったと考えられます。なお、債務者に目的物件を使用させるについて、特定の具体的行為、例えば増改築、修繕、改装を禁止する必要があるときには、その禁止すべき行為の具体的内容を個別的に特定した不作為命令を発令すれぱたりるものと考えられ、さらにかかる不作為命令の執行について緊急の必要が認められる場合には、具体的命令違反の行為があったならば執行官がこれを除去することがでぎる。旨のいわゆる排除命令を付加することも許されるぺきものと考えられます。

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