不作為命令の公示

土地への立入りを禁止する仮処分において、執行官は命令の趣旨を公示するために適当な方法をとらなけれぱならない旨を命じることは許されるのでしょうか。債権者は、自己が占有する土地に対して債務者が不法に侵入しようとし、もしくは占有を奪取しようとしているときは、自己の占有を保全するため債務者に対し、自己の占有する土地への立入りを禁止する仮処分を申請することができます。このような場合の仮処分命令は債務者は別紙目録および図面表示の土地に立ち入ってはならないとするのが基本的な型ですが、実務では、仮処分申請に際しさらに執行官は適当な方法により趣旨を公示しなければならない。との項自をも付加して申請する場合が多く、仮処分決定においても古くはほとんど例外なしに項目を付加していました。ところがこのような取扱いに対し理論的に是認することができないのではないかとの問題が提起され、これをめぐって積極、消極の両説が対立しています。

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積極説は公示命令が法律上無意味であることを認めながらも、実際上の便宜や必要にもとづく事実上の効果のあることを強調して、これを肯定しようとするにあります。つまり立入禁止を命じる仮処分命令は債務者に送達されますが、それにとどまらず目的土地に債務者の立入りを禁止する公示札を掲げると、同所に立ち入ろうとする債務者により大きい心理的拘束を加え、躊躇せしめる事実上の効果を一般的に期待します。仮処分債権者としてもたんなる不作為命令よりもむしろ執行官による公示を求めるほうが主たる眼目で、このことに債務者の不作為を維持することの期待を寄せているのです。民訴法七五八条が、裁判所は其意見を以て申立の目的を達するに必要なる処分を定む。と規定したのは決律的処分に限定する越旨ではなく、当該仮処分の目的を達するに必要であるかぎり具体的事実処分をなお裁量すぺきことを命じたものと解されるため、公示命令が法律上の効果と無関係であることのゆえをもって、一般に、それが不必要と断定するのは仮処分の本質に反する公示命令は債務者に対する心理的効果を期侍するだけですが、債権者がそれで満足するならば、つけ加えたら誤りという必要もありません。結局原則的には不要ですが具体的事案の解決としてたいして実益はないにしても認めてよい場合がありうるということです。なお、公示に実効性を認めて積極説に賛成する説および不作為を命じる仮処分の公示が、執行官保管の場合の公示との権衡上違法ではないとして積極説にたつものがあります。
消極説は、債務者に不作為を命じるためには、その旨の仮処分決定が債務者に送達されれば必要にしてかつ十分であり、執行官に趣旨を公示すべき旨命じることは仮処分の目的ないし必要性の限度をこえるもので違法であり、あるいは申立ての目的を達するに必要な範囲を逸脱すると説き、さらに、これ以外に不作為命令の効力の発生ないし存続と無関係な、たんに公示札を現地にたてにいくだけの法律的に意味のない事項を執行官に命じることまで許されると解してはならないことを理由に付加する説もあります。
立入禁止の仮処分にあっては、その決定の効力は債務者に対する送達によって生じ、執行官による公示は決定の効力の発生とは無関係であり、しかも、公示は、前記仮処分決定の執行にあたるものではありません。したがって公示命令は、立入禁止の仮処分決定の一内容としては法律上なんらの効果を伴うものではないといわざるをえません。この意味から公示命令が、立入禁止仮処分決定の効力要件として無意味で必要性もない、ということができるのですが、ただ法律効果の発生面から無意味で不必要なものは、仮処分決定においてつねに必ず排除されなければならないと考うべきものではありません。しかるところ積極説は、執行官という公的機関の公示札を現地にたてることにより、債務者に対しより強い不作為義務遵守の気持を起こさせ、立入禁止仮処分の効果に対する期待を高める事実上の効果のあることを強調して、公示命令の事実上の必要性を説くのです。しかしながら、不作為を命じる仮処分決定の送達をうけた債務者が、それだけでは不作為義務を遵守するとは望み難いとか、執行官の名による現地での公示が債務者に対しより強い心理的効果をもたらすとは一概にいえません。法律家からみれば、執行官の占有下にない土地にかかる公示がなされても、それが法律的に意味を持つものとは考えられず、仮に公示を破棄しても法律上の制裁規定はないため、公示の有無は不作為義務を遵守すべきかどうかの意思決定に影響を与えるものではありません。もし法に明るくない一般人が、かかる公示により不作為義務の遵守、不遵守の意思決定に影響をうけたとするならば、それは執行官という公的執行機関が当該土地の占有になんらかの形で関与しており、もし土地に立ち入るならばより強い法的制裁をうける かもしれないとの危惧の念がわくからと考えられます。そうだとすれば、債権者としては債務者に対し不作為義務の履行を求める方法として法律上認められた手段、つまり裁判所から債務者に対する不作為命令を得、これを債務者に送達するとの方法、手段をこえて、不作為を命じる仮処分決定の効力および執行とは無関係な執行宮による公示命令を求め、これを利用して債務者を錯誤に陥れ、もしくは錯誤に乗じて自己の目的を遂げようとするものであって、きわめて不当なものといわざるをえず、仮に債務者の錯誤を利用したといわないまでも、債務者が立入禁止の公示のある土地に立ち入るには世間態をはばかるというのであれば、債権者がみずから当該土地に仮処分決定の発せられていることを公示することでその目的を達することができるのであり、あえて執行宮をして公示札をたてしむる必要はあるまいと思われます。ことに執行官に対し公示札を現地にたてるという法的に意味のない行為を命じることはその職務よりみて妥当でないとすると、なおさらこのことが強調されてしかるべきです。第三者に対する警告という点に関してもこれと同様なことがいえるのです。不作為命令の公示は、公権力に名をかりて債務者または第三者に対して威嚇をするものであるとの非難は、あながち厳しすぎるとはいえないはずです。
以上要するに、立入禁止の仮処分決定中に公示命令を掲げることは、執行官が係争物件をその保管に付された場合にこの旨を義務的に公示するときとは異なり、仮処分申請の目的を達するに必要な処分の範囲を逸脱するものであるというほかありません。

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