一般的差押命令と制限的差押命令

仮差押命令において執行の目的物を記載する事にはどのような意味を持つのでしょうか。仮差押えの申請要件を規定した民訴法七四○条は、債権者が仮差押えの執行目的たる債務者の財産を特定して申請することを要件としていないため、仮差押裁判所が、債権者のため債務者の財産につき仮差押えを許容すべき旨を宣言することができるのは当然です。判例もこれを認めています。かかる仮差押命令を得た債権者は、これを債務名義として、民訴法七五○条ないし七五三条に徒って債務者の特定財産に対し臨機仮差押えの執行をすることになります。かかる仮差押命令は、具体的な仮差押執行の目的財産から離れて、一般的に、債権者のために債務者の財産に対して仮差押えを許すことを内容とするものであるため、これを一般的仮差押命令といえます。

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仮差押命令を発令する場合、仮差押えが万一不当なものであったときに債務者が被る損害の担保として、債権者に保証をたてさせるのが通例であり、保証の額も裁判所が自由な裁量で決めるのですが、一般的仮差押命令を発令するとなると、裁判所としては債務者が仮差押えの執行によって最も大きな打撃をうける種類の財産が仮差押されるであろうこと、債務者の財産はそれが存するかぎり少なくとも被保全債権額一杯に見合うだけ仮差押えされるであろうことを想定して、債務者の損害を予測しなければならないので、保証の金額はどうしても高くならざるをえません。また、仮差押えの必要性の認定も慎重にならざるをえません。このことは、一般的差押命令を得ようとすると、債権者の負担がなにがしか大きくなることを意味します。
また、同一の金銭債権についての強制執行保全のため、同時に数個の一般的仮差押命令を申請することや、すでに発せられた一般的仮差押命令の執行期間内にさらに仮差押命令の申請をすることは民訴法二三一条に抵触し許されないため、一般的仮差押命令を得た債権者が、執行機関ないし執行手続を異にします。債務者の数種ないし数個の財産に対して仮差押えの執行をしようとするときは、命令の執行力ある正本を複数必要とすることになります。仮差押命令の執行力ある正本としては、原則として執行文の付記を要しないのですが、それを要しない場合であっても、書記官が債権者に正本を数通付与する場合や再度付与する場合は、裁判長の命令を要するので、一般的仮差押命令を得てからその執行をする方法は、保全手続の迅速性の要請からすれば望ましい方法とはいえません。
債権者にとって一般的仮差押命令を得たほうがよい場合も考えられないではありません。例えば債権者が他日債務者の不動産に対して本執行として強制管理をしようと考えている場合、もし後日の本執行の方法を強制競売に切替えねばならなくなるおそれがなければ、仮差押えの執行としての強制管理の申立てをするだけで十分であって、不動産仮差押命令の登記簿記入を受ける必要はありません。この場合、登記簿記入をうけるために、その登録免許税を払うのは無益です。この場合、この無益な出費を免れるには、一般的仮差押命令を得てその執行として強制管理の申立てをすればよいこととなります。
実務上、仮差押命令の申請は、有体動産仮差押命令申請、債権仮差押命令申請、不動産仮差押命令申請等に区分けされて、その申請書には、通常債務者所有の有体動産と記載し、具体的な持定の財産を記載して、債務者の当該記載にかかる財産についての仮差押命令を求める旨記載されるのが通例であり、これに応じて裁判所も、申請を認容するときは、債権者の指示した債務者の特定の財産を仮差押命令のなかに掲記し、これを仮に差押る旨宣言するのが通例になっています。申請書に前記のように債務者の特定財産を記載することについては、債権者が仮差押えの目的物所在地の地方裁判所に仮差押えの申請をしたときは、それは、その裁判所の管轄原因を示す意味を持ち、記載にかかる特定財産が債権および不動産であるときは、仮差押命令の発令裁判所たると同時にその執行裁判所でもある裁判所に対し、仮差押命令の申請と同時に、その申請が認容される場合を予想してその執行の申立てをもしているという意味を持つのですが、仮差押命令のなかに、その執行の目的財産を記載することについては、従来、かかる記載はすぺきではないとか、かかる表示をしても責任財産を表示する場合を除き、常に無効であるとか、仮差押命令に執行目的財産として債権または不動産を特定掲記するのを通例としているのは、執行法上の便宜によるものであり、有体動産云云と記載するのは法律上無意味であるとか説かれてきました。これは、従来の判例、学説上の支配的見解です。
債務者の特定財産を仮差押えする旨宣言した仮差押命令は、その執行力を当該特定財産に制限された仮差押命令であるという考え方があります。このような仮差押命令が許されるとすれば、制限的仮差押命令といえます。
制限的仮差押命令が民訴法上許されるか否かは、かなり問題の存するところですが、債権者はその任意に指定する債務者の特定財産に対してしか執行力の及ばないような仮差押命令を申請することができるか否かにかかる問題です。金銭支払請求の訴訟において、原告がその任意に指定した被告の特定財産に対してしか強制執行のできないような判決を求めることは、詳論の余裕はありませんが、かかる判決がなされることによって原告がうける利益と被告がうける不利益とを比較考量してみると、許されないのではないかと思われます。しかし仮差押命令申請手続において、債権者がその任意に指定した債務者の特定財産に対してしか仮差押執行のできないような仮差押命令を求めることについては、仮差押制度の特性上、かかる仮差押命令が許されることによる債権者と債務者との間の利害関係状況が金銭支払請求訴訟の場合の原告と被告との間のそれとかなり異なっており、ことにこれを許すことは、一般的仮差押命令発令の場合に免れることのできない債権者の前述のような負担ないし不利益を解消させ、仮差押制度の目的に適うことになるので、これは許されてしかるべぎものと思われます。
制限的仮差押命令の適法性を肯定するとすれば、前述の実務上の通例に従って、債務者の特定財産を指定し、それについての仮差押命令を求める旨記載した申請書による仮差押命令申請は、反対に解すべき特段の事情のないかぎり、制限的仮差押命令の申請というぺきです。
制限的仮差押命令の申請であれば、債権者は、同一の金銭債権を被保全債権として、執行の目的物を異にした数個の申請を同時にしても、民訴法二三一条に接触しません。なぜならば、日的物が相違すれば申請は別だといえるからです。したがってかかる場合、被保全債権を執行目的財産の各見積価額に見合うように適宜分割して、各申請の被保全債権としてふりわけることは、理論上は、必要ではありません。また、債権者は、すでに発令をうけている制限的仮差押命令の執行期間経過前であっても、その執行によって保全目的を達していないかぎり、同一の金銭債権を被保全債権として執行目的財産を異にする別個の制限的仮差押命令を新たに申請することができます。制限的仮差押命令の申請があったのに、一般的仮差押命令を発令することは許されません。
執行目的財産を具体的に特定した制限的仮差押命令を発令する場合、債権者にたてさせる保証の額は、被保全債権額の限度内で、当該執行目的財産の種類に応じ、その価額を主要な基準として決めることができるので、それはおおむね妥当な金額になります。一個同一の金銭債権を被保全権利として、執行目的財産を数個とする制限的仮差押命令の申請があった場合は、あたかも数個の制限的仮差押命令申請が併合申請されたようにみることができるので、保証も各個の執行目的財産に かからせて、これを数個決めることも可能となります。このような立保証の方法は、執行目的財産が数個の債権であって、そのなかに不存在の債権が含まれていたような場合に、債権者が当該不存在の債権にかかる保証だけを簡易な担保取戻手続ですぐに取り戻すことができる点で実益があります。
仮差押命令に記載すべき、いわゆる仮差押解放金としての相当額を決めることは、平等主義を採る民訴法のもとではほんとうはやさしくはありませんが、被保全債権の金額または価額を標準としてそれと同額に決めるべきであるというのが判例であり、実務も原則としてこれに従っています。しかし制限的仮差押命令の場合で、執行目的財産の価額が被保全債権積よりも低いときは、執行目的財産の価額を標準としてこれと同額に決めるのが相当です。

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