疎明代用保証制度

被保全権利の疎明がない場合に、裁判所が保証をたてさせて保全命令を発するかどうかを決めるについてはどのような点が基準となるでしょうか。保全処分を申請するに際して、債権者は、保全要件を疎明すればたり、証明することを要しません。保全処分は権利保護の急迫性を要件とするものであって、その迅速な処理が要請されるものであるため、迅速な裁判の目的のために当事者の立証の負担を軽滅し、立証の程度は疎明でたりるとしたものです。したがって、債権者は裁判所に疎明つまり自己の主張が一応確からしいという心証を与える程度の立証をすればたり、その立証は容易であるかのようにみえますが、疎明には即時に取り調べうる証拠方法によらなければならないという重要な制限があるため、債権者は鑑定、検証、在廷しない人証の尋問等即時性を欠く証拠方法によることができず、したがって、事案によってはその主張事実を立証するにたりる疎明方法を提出できない場合が起こりえます。他方裁判所も、原則として債権者の一方的主張および疎明のみによって申請の許否を決めなければならないため、主張事実についての心証形成が不十分なことが多く、また主張事実不存在のときに債務者が被るかもしれない損害を顧慮するならば、勢い慎重な審理態度を採らざるをえないこととなり、それでは迅速な処理が確保されないおそれがあります。そこで法は、請求又は仮差押の理由を疎明せざるときは推も仮差押に因り債務者に生ずべき損害の為め債権者が裁判所の自由なる意見を以て定むる保証を立てたるときは裁判所は仮差押を命じることを得。と定めて保全処分の緊急性の要請にこたえることにしました。この保証をたてれば、疎明がないか不十分なときでも保全処分が発せられることがあるため、この保証の事を特に疎明代用保証と呼ぶことがあります。この保証は、債権者のために疎明の代用の機能を果たす点において、民訴法二六七条二項の保証金の供託と類似しますが、前者が債務者に生すべき損害のために債務者のためにたてさせるものであるのに対し、後者は国に対してたてさせるもので債務者の損害の担保にはならない点で性質を異にします。損害担保のための保証としては、疎明がない場合にたてさせる疎明代用保証と疎明された場合にもたてさせる通常の保証とがありますが、実務では金額的に両者を区別せずに一体としてたてさせるのが通例です。

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疎明代用保証について、当事者には申立権はありません。裁判所は保全申請について疎明が十分でないと考えるときは、当事者の申立ての有無にかかわらず、職権をもって疎明代用保証の許否を審査する義務がありますが、疎明代用保証を許すかどうかはもっぱら事実審裁判所の自由裁量に委ねられています。したがって、裁判所が疎明代用保証をたてさせることが不適当であると考えたときは保全申請を却下することができ、常に立保証により保全申請を認容しなければならないものではありません。その可否が裁判所の自由裁量に属するといっても、そこにはおのずから制度自体に内在する限界があり、また保全処分が程度の差はあれ債務者に相当の打撃を与えるものであることを考慮するならば、疎明代用保証の許否の判断に際しては慎重な配慮が要求されることはいうまでもありません。
疎明代用保証の許否を決するにあたり、自由裁量権を行使する基準としては、以下に述べるように、制度の目的、疎明の難易、緊急性の程度、損害の大小、審理の段階等諸般の事情を考慮する必要があります。この保証は、被保全権利および保全の必要性について疎明がない場合に、疎明の代用補充をすることを目的とするものであって、訴訟要件について疎明の代用補充をしようとするものではありません。したがって、保全申請がその主張自体において訴訟要件を快欠していることが明らかな場合、および当事者の提出した疎明によりまたは裁判所の職権調査によって快欠の事実が明らかになった場合は、疎明代用保証の許否を審理するまでもなく、つねにその申請を不適法として却下すべきです。
次に疎明代用保証は、疎明の代用補充をするものであって、主張の代用補充を目的とするものではないため、被保全権利および保全の必要性の双方または一方の不存在が当事者の主張自体によって明らかになったときも、保証で代用することはできません。
またこの制度は、主として債権者のため、疎明の困難を緩和除去するために認められたものであるため、疎明方法の提出が困難ではないのに債権者がこれを怠って安易に代用を希望する場合まで認められるべきではありません。これを認めれば、疎明がもともと不可能な虚偽の申請にまで保全処分取得の途を開くことになりかねず、さらには金さえ積めばなんでもできるという弊害をもたらすことになります。したがって、保全申請の審理に際しては、当該事件において債権者が被保全権利おょび必要性を構成すると主張する具体的事実関係を立証するために通常必要とされる証拠方法のうち、疎明方法の制限および緊急性のゆえをもって提出不能または困難なものがあるか否かをまず検討し、これに該当する場合に初めて疎明代用保証の許否を考慮すべきです。実務では、当事者または第三者作成の供述書や鑑定書を提出して人証に代え、係争現場の写真を提出して検証に代えるなど即時性を欠く証拠方法の代用となる疎明方法を提出する工夫がなされているため、当該ケースで必要とされる疎明方法が全然提出されないということは通常ありえないことであり、部分的に疎明が不十分な場合に疎明代用保証の許否が問題になるにすぎません。
保全訴訟は本案訴訟に付随する手続であり、本案訴訟における保全債権者の勝訴を前提として本案判決までの応急措置として保全命令を発するために、当初から保全債権者の本案訴訟における敗訴が予想されるときは保全申請は認容されるべきではありません。このことは疎明代用保証制度を考慮に入れても結論を異にしません。保全申請において心証不十分な場合でも疎明代用保証をたてさせて保全処分を発することができるとされるのは、将来本案訴訟において保全申請の審理の際には提出することができなかった証拠方法が提出されることによって、債権者の主張が立証される可能性があることが予定されているからにほかならず、そこでは、あくまでも本案訴訟における債権者勝訴の可能性の存在が前提となっているからです。したがって、保全申請の段階で、すでに本案訴訟における敗訴の蓋然性が認められるときは、疎明代用保証をたてさせて保全処分を発することは適当ではありません。本案敗訴の蓋然性が認められる場合とは、例えば債権者の主張事実について疎明がないだけでなく、逆にその不存在が積極的に認められた場合、債務者の主張責任に属する抗弁等について一応の疎明がありそれが覆される可能性が少ない場合、債権者が申請当時実体上の権利を有していても権利は早晩消滅して本案訴訟で敗訴判決をうけるであろうことが十分に予想される場合がそれにあたります。
また保全処分異議訴訟において、予想される重要な疎明方法が全部取り調べられ疎明方法の制限をうけて提出できない有力な証拠方法が浅っていない状態になったにもかかわらず、なお政明不十分であるときは、本案訴訟において勝訴の判決を取得することはおぼつかないため、保証をたてさせて保全処分を発することは適当でない場合が多い。一般に保全申請の当初の段階よりも、審訊または口頭弁論が開かれ、さらには異議訴訟というふうに審理の段階が進むにつれて、当事者の提出できる証拠方法の全容が明らかになり、本案訴訟における勝敗の見通しも確実性を帯びてくるため、それだけ疎明代用保証の認められる範囲が狭くなるといえます。
疎明代用保証も債務者の損害の担保のためにたてさせるものであるため、債務者に金銭でもっては償うことができない損害を与える可能性があるときは、疎明代用保証をたてさせることは適当ではない場合が多く、例えば断行の仮処分のように強力な仮処分を命じる場合には、債権者の主張事実中重要でない部分について疎明代用保証を認める場合は別として、広く疎明代用保証を許すことは適当ではありません。
この制度は、疎明がないか不十分のときはそれだけ債務者に損害が発生する可能性が大となることを考慮して、債務者保護のために、疎明された場合にたてさせる通常の保証の金額よりも多額の保証をたてさせて、もって債務者の損害の担保とするものであるため、保証金額を決定するに際しては、債務者が被るぺき損害の大小とその発生の可能性の大小が基準となります。したがって、疎明の程度と保証金額との間には疎明度が低ければ低いほど保証金額が高くなるという逆相関関係を生ずることになります。

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