保全処分の審理の方式

保全処分の申請につき、書面審理のみによらない場合、債権者だけを審理するのか、当事者双方を審理するのか、口頭弁論を開くのかは、実務上どのような基準で決められるのでしょうか。仮差押えの申請については、裁判所は、口頭弁論を聞いて審理するか否かを、その自由裁量で決めることができます。仮処分の申請については、裁判所は、急追なる場合にかぎって、口頭弁論を開かないで審理できますが、原則としては口頭弁論を開いて審理しなければなりません。しかし急迫なる場合といっても言葉自体が抽象的、不確定的でもあり、それに仮処分は、その制度の特質上迅速な裁判を必要とするので、急迫なる場合にあたるか否かについて裁判所ないし裁判長は、相当広い裁量権を持つものといわなければなりません。仮差押、仮処分の申請があった場合に、裁判所がたんなる書面審理にとどまらずに債権者を審尋することができることはいうまでもありません。それで債権者審尋が行なわることは多く、例えば東京地方裁判所では、面接と称して、100%これを行なう建前をとっています。

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債権者審尋の効用は、申請における法律上、事実上の問題点について釈明を求めることができること、疎明資料としての証拠原本や執行申立てがあわせなされているときの必要的添付書類を検閲するとともに、債権者が本案訴訟において利用可能な証拠方法としてどんなものがあるかを大体知ることがでぎること、保証決定をすぐに告知できることにありますが、他に事件関係者以外の者の事件介入を防止するのにも役立ちます。以下、仮差押、仮処分については、債権者審尋が行なわれるとの前提で述ぺます。仮差押、仮処分の申請があった場合に、裁判所が債務者を審尋できるか否かについては、周知のとおり、消極説と積極説との対立があります。しかし実務上、仮処分の場合は、これがかなり行なわれています。債権者と同時に対席して審尋されることもあれば、債務者単独で審尋されることもあります。当事者双方審尋が行なわれるのです。これは実際の必要から、民訴法一二五条二項を根拠として行なわれているものということができます。そこで仮差押、仮処分の申請についての審理方法選択における裁判所の自由最良のあり方として本問の間題が生じます。
仮差押えの場合は、口頭弁論を開かず、双方客尋もしないのが、実務の原則です。口頭弁論を開いたり、双方審尋をしたりすることは、ほとんどないといえます。これは、仮差押えの申請においては、口頭弁論を開いたり、債務者審尋をしたりすると、仮差押申請のあったことが債権者に判ってしまい、債権者が財産を隠匿したり、他に移転したりするおそれがあり、したがって仮差押えの目的を達しえなくなるおそれがあり、また、債権者に十分な保証をたてさせれば仮差押えが不当なものであったときに債務者の被ることあるべき損害を担保することになるからです。なお、債権仮差押えでは、仮差押命令のなかで、その執行命令として第三債務者に対する支払禁止を命じるのが通例となっているので、債務者を審尋することは許されないことに注意しなければなりません。
係争物に関する仮処分の場合は、口頭弁論を開かず、当事者双方審尋もしないのが実務の原則的な取扱いです。係争物に関する仮処分は、係争物に関する将来の本執行を保全するためにするものですが、この仮処分においては、口頭弁論を開いたり、債務者審尋をしたりすると、仮差押えの場合と同様に、その申請のあったことが債務者に判ってしまい、債務者が係争物を隠匿したり、他に移転したりしてしまうおそれがあり、そのため仮処分の目的を達することができないおそれがあります。
仮の地位を定める仮処分の場合は、審理方式選択についての実務上の原則的一義的な基準はないといえます。仮の地位を定める仮処分においては、仮処分申請のあったことが、債務者に知られたら困るということはないのですが、この仮処分は、現在の危険の除去を保全目的とするものなので、すべて急迫なる場合にあたるといえます。しかし民訴法七五七条二項のたてまえからすれば、現在の危検なるものについては、緊急性の程度に差があることを前提としており、それがある程度差し迫った場合でなければ案項にいう急迫なる場合にはあたらないということになります。厳格にかかる見地にたつとしても、口頭弁論を聞く時間的余裕がないような場合は、急迫なる場合にあたることが明白なので、口頭弁論を開かずに審理すべきこともちろんであり、双方審尋の余裕もなければそれもしなくてもかまいません。しかし多くの場合、急迫なる場合にあたるか否かの判定には徴妙なものがあります。それで、この種の仮処分発令のときに、債権者に相当の保証をたてさせるのを通例とすることも考慮して、実務上は、緊急性の明白な場合だけでなく、仮の地位を定める仮処分一般について急迫なる場合に一応はあたるものとして、債権者審尋のみで客理する建前をとったうえ、ただ、仮処分の発令が当事者に対して非常に大きな影響を与える場合だけは当事者双方審尋をしたり、口頭弁論を開いたりしているのが実惰であるということができます。当事者に対して非常に大きな影響を与える場合とは、基本的には、決解釈上、事実認定上事件が複雑困難な場合、裁判により債務者の被る不利益ないし苦痛が大きい場合、保全処分の目的物に関し債務者の使用収益が奪取ないし遮断されるような場合および債権者が本案訴訟で勝訴したと事実上同一の結果を得ることとなる場合とかをいうものと考えられます。なお債権者が保証をたてる資力をもたず、したがって仮処分を発令するにしても無保証で発令するほかないような場合もこのなかに含められます。仮の地位を定める仮処分では、当事者に対して非常に大きな影響を与えるものが少なくありません。それで仮の地位を定める仮処分申請の審理では、債権者審尋にとどめないことが少なくありません。
当事者双方審尋をするか口頭弁論を開くかで問題になるのは、主として仮の地位を定める仮処分においてになります。口頭弁論を聞くと第三者を証人として調ぺることができますが、裁判は判決手続でしなければならないので緊急を要する保全の必要に即応して、適時に適切な保全命令をだすことができないということが起こりえます。いわば小まわりがきかなくなるのです。例えば建築にかかった建物の建築工事禁止の仮処分申請について口頭弁論を開いたりするとそのようなことになりかねません。また、口頭弁論を開くことは、事件によっては、迅速になされるぺき審理の方式として、事実の真相を把握しにくい審理方式であることも指摘されています。反対の学説が有力であるのに、実務上、双方審尋方式が行なわれるにいたったのは、口頭弁論方式審理におけるこのような欠陥を克服するためであったとみることができます。他方、当事者双方審尋方式では、適時に保全命令を発しうる利点がありますが、第三者の審尋はできず、第三者を証人として調べることもできません。それで当事者双方審尋をするか口頭弁論を開くかは、この両審理方式の短所があまり問題にならず、かつその長所を生かすことができるような事件か否かによって決めることになります。保全の必要の緊急性が相当の日時をかしえないほどに高くはないこと、仮処分の裁判の影響が重大であること、第三者を証人として調べるのが相当であること、債権者に保証をたてる資力がないこと、これらの全部または一部が充足されるような事件は口頭弁論を開いて審理するのが適当といえます。双方審尋によってある程度事案が判ったあとで口頭弁論を開くを可とするにいたる場合もあり、はじめから口頭弁論を開くことを予定して、まず当事者双方審尋を行ない、そのあとで口頭弁論を開く場合もあります。後者の場合の当事者双方審尋は実際上は準備手続の機能を持っています。しかしいずれにせよ当事者双方審尋方式を認める実務の立場では、口頭弁論を開いて審理しなければならないような事件は、事件全体としてみれば非常に少なく、口頭弁論を開くべきか否かについての実務の実際は民訴の建前とはまったく逆の現象を呈しています。

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