離婚をめぐる仮処分

離婚訴訟を提起した妻が、その財産分与請求権を保全するため夫所有の不動産につき処分禁止の仮処分を求めることができるでしょうか。そして、嫁入荷物として持ち込んだ家電製品や衣類などの引渡しを求める仮処分ならばどうでしょえか。家事審判事項を被保全権利とする保全処分の可否を考察する際、次の点がまず問題となります。家事審判法上の審判前の仮の処分と民訴法上の仮処分の関係です。特に審判前の仮の処分に執行力が認められるかどうか、もしこの点について肯定的に解されるのであれば、審判前の仮の処分とは別に民訴法上の仮処分を認める必要はないことになります。学説では、審判前の仮の処分は法律に根拠を有するものでないこと、家審法一五条にいう審判は終局的審判を指し、仮の処分を命じる審判を指すものでないこと、さらにこの種の仮の処分に対しては不服申立てが認められていないうえ、担保供与の規定を欠くので、執行力を認めると相手方の利益を害するおそれがあることなどから消極に解する説と、親権、管理権喪失宣告事件における本人の職務執行停止、代行者選任の処分について、学説がこの家庭裁判所の処分に形成力を認めていますが、この形成力は家庭裁判所の公権力にもとづく審判の強制力すなわち執行力と考えられること、審判前の仮の処分が最高裁判所規則によって定められていますが、これを最高裁判所への法律事項の委任したがって家審法八条を概括的委任規定と解して、この仮の処分も法律に根拠を有すると考えられること、さらに仮の処分に不服申立てが認められていないため相手方の利益を害する点は、職権主義による家事審判手続においては家庭裁判所はいつでもその処分を取消または変更することができることなどから積極に解する説が対立しています。

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審判前の仮の処分に一般的に執行力を認めることはかなり困難と思われます。消極説のあげる前述の理由のうち、ここでは特に不服申立ておよび担保供与に関する現定を欠くとの点を重視したい。この種の仮の処分の認められる場合は、いずれも当事者間で争いの生じる可能性のきわめて高いものばかりです。しかも金銭ないし財産をめぐる争いです。したがって不服申立ておよび担保供与については十分考慮しなければならないものと思われます。家庭裁判所の職権による取消変更では不十分と思われます。
消極説では制度の趣旨からいって民訴法上の仮処分の本案は民事訴訟の対象となるものにかぎられなければならず、逆に家事審判事項についてはその裁判権は家庭裁判所に専属し、家事審判の手続によって審理されるべきであり、これを本案とする事件については訴訟裁判所に管轄はないものと考えられること、仮処分による仮定的、暫定的判断であっても訴訟裁判所がその在否を判断することはできないこと、非訟事件手続にもとづく権利はその裁判によってはじめて具体的な権利として形成されるため、その裁判が確定するまでは被保全権利たるべきものが存在しないこと、審判前の仮の処分に執行力を認めていないのに、民訴法上の仮処分を認めると特殊仮処分の規定が無用となるばかりでなく、法律関係を錯雑化し有害とさえなることなどの理由をあげています。
積極説では、その理由として、仮処分の本案たるべぎものは必ずしも民事訴訟手続の対象となるものにかぎらず、債務名義を形成する手続もしくは実質的に私法上の権利または法律関係の在否をはかる手続であればよい、債務名義となる裁判が非訟事件手続によるものであっても、強制執行手続によって実現されるものであるため強制執行の保全ないしそれによって実現される請求権の保全についても仮処分の規定が準用されるべきこと、非訟事件手続にもとづく権利がその裁判によって形成されるものであるとしても、将来の請求権も仮処分の被保全権利たる適格を有すること、関係者保護のため仮処分を許すべき実際的必要があることなどがあげられます。
結論として、理論構成に無理がありますが、積極説がとられるように思われます。消極説のように訴訟と非訟を分けるならば家庭裁判所で財産分与の審判事件を本案とする民訴法上の仮処分を命じることは許されるのか否か。非訟裁判所で処理されている点から肯定される余地もありますが、非訟裁判所は訴訟的事項は一切処理できないというのであれば否定的に解されることになるはずです。消極説の理由づけはあまりにも形式的すぎて、必ずしも説得的なものでないように思われます。また、不服申立てを考慮すると、処理としては民訴法上の仮処分を通常裁判所において認めるほうが望ましいと思われ、さらに仮処分の本案は民事訴訟の対象となるものでなければならないとしても、設問のように、離婚の訴えに併合された財産分与請求については仮処分を認めざるをえないのではないか。その根拠として次のような見解があります。財産分与に関する処分は非訟事件たる性格をもつ家事審判事項ですが、審理の便宜ないし訴訟経済の要請から特に付帯申立てが認められているので、財産分与の申立ては形式的には訴訟物に準じるものと考えられます。形式的であるにせよ訴訟物に準じるのであれば、しかも訴訟手続で処理されるのであるから保全の必要があれば、これを本案である訴訟物に準じるものとして仮処分を許してよいと解されます。もし、この見解に従うならば、財産分与の審判を申立てた場合との均衡は保てるのでしょうか。そこで、非訟事件を本案とする仮処分を肯定する説が有力のようです。
ただし、離婚訴訟に財産分与請求が併合されないとき、財産分与請求を本案とする仮処分を許すと、仮処分命令に対する不服申立ては通常裁判所になされ、そこで被保全権利、保全の必要が審理、判断されることになりますが、他方では、家事審判手続において財産分与請求について、判断がなされるので特に被保全権利については調整が必要とならざるをえません。この問題は難しいものですが、仮処分異議の手続を家事審判手続の終結まで事実上中止するとかの方法でもとらなければなりません。
仮処分が許されるとして、いかなる内容の仮処分が許されるのでしょうか。保全処分一般について考えると、設問のように相手方名義の時定財産の処分禁止の仮処分は問題なく認められます。では特定の預金、有価証券ないし動産を仮に申立人に交付させる仮処分はどうでしょうか。保全の目的を達するために必要があり、申立人がその特定財産の分与を希望し、申立人に分与される可能性が相当高度であると疎明された場合にかぎって許されるとする見解があります。これに対して将来分与されるぺき金銭債権の執行保全のための仮差押は、離婚原因および財産分与請求権の存在さえ疎明できれば許されます。
嫁入道具として持ち込んだ家電製品、衣類などの引渡しを求める仮処分は、所有権にもとづく引渡請求権を保全する仮処分として認められます。身の回り品の引渡しを求める仮処分は、離婚訴訟係属中の最低限度の生活を保障するため、その物の所有権が後に本案訴訟で否定される可能性を有していても、断行仮処分ないし満足的仮処分として一般に認められています。
問題となるとすれば、家電製品の引渡しを求める仮処分と衣類などの引渡しを求める仮処分では、断行仮処分の必要性の判断において差がでてくるはずです。両者とも生活必需品であれば引渡しを求める断行仮処分の必要性も認められ、また夫のもとに置くことによって回復しがたい損害を被るという場合にも、この種の仮処分の必要性が認められます。

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