配転命令停止の仮処分

使用者側の人事権の濫用とみられる転勤命令をうけた従業員は、その地位保金のための仮処分命令を申請するにあたって、どのような主文を求めるべきでしょうか。配転とは、出向を除いた狭義においては、同一企業内における労働者の勤務場所、職種、職務の変動をいい、転勤とは、勤務地の変更を伴う配転をいうものですが、ここでは狭義の配転一般について検討することとします。地位保全の仮処分とは、申請人の法律上の地位の在否、変動について紛争がある場合に、その法律上の地位を暫定的に形成して、法律上の地位が本案判決により確定されていないことによって生じる申請人の著しい損害を避けるためになされるものです。その性質は、民訴法七六○条の仮の地位を定める仮処分であり、申請人に本案判決で勝訴したのと同一の法律上の地位を形成することを目的とするものであるため、満足的仮処分です。地位保全の仮処分は人事権の濫用とみられる配転命令をうけた労働者がその地位保全の仮処分において求めるべき主文、つまり申請の趣旨は、本案がなにかによって、換言すれば地位保全の仮処分によって暫定的に形成されるべき法律上の地位、被保全権利がなにかによって定まります。そして本案ないし被保全権利は配転命令が労働者の労働契約上の地位にいかなる変動を生じさせるものであるかによって定まります。

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配転命令の根拠、法的性質いかんについては、学説、判例が分かれていますが、そのいずれの立場も労働契約の当事者である使用者と労働者の合意を基礎として説明している点では共通しています。
包括的合意説では一般に労働契約は労働者が使用者に対し労働力の使用を包括的に委ねることを内容とするものであり、使用者は労働契約の内容である労働力の処分を委ねるという包括的合意により労働力の処分権を取得します。したがって、勤務場所等については、労働契約において明示的にしろ黙示的にしろこれを限定する特約がないかぎり、使用者はこれを具体的、個別的に指定、変更できます。この権限が労務指揮権と呼ばれるものです。配転命令はこの労務指揮権にもとづくものであって、使用者の一方的意思表示によって勤務場所等の変更という法律効果を発生させる形成権の行使つまり形成行為です。もっとも、労働契約において勤務場所等が限定されているときは、これを変更するには労働者の個別的同意を要するため、これを変更しようとする配転命令は契約内容の変更申し入れにすぎません。
労働契約説では使用者が労務指揮権にもとづく配転命令により労働者に対し勤務場所等の変更を命じうるのは、労働契約において明示的、黙示的に定められた勤務場所等の範囲内にかぎられます。この範囲をこえる配転命令は、労働者の同意がないかぎり労働者を拘束するものではなく、契約内容の変更申入にほかなりません。この説には、労働契約の範囲内においてなされる配転命令の法的性質につき、二つの立場があります。
事実行為説では使用者は労働契約の範囲内において労務指揮権にもとづき自由に勤務場所等の指定、変更ができるため、使用者によっていったん具体的に勤務場所等が指定されても、これによって労働契約の内容が具体的に定まるとか、指定された労働場所等が労働契約の内容となるわけではありません。その勤務場所等は労働契約の履行過程において生じた事実現象にすぎず、配転命令は労働契約の履行過程における事実上の措置にとどまります。
形成権説では勤務場所等は賃金等の労働条件と同様労働契約の不可欠の要素をなします。配転命令は使用者がこの労働契約の要素である労務場所等を一方的に変更して、労働者の権利義務に変動を生じさせるものであるため、形成権の行使です。
配転命令権否認説では労働契約にもとづく労働者の具体的労働義務は、労働者がその勤務場所等において勤務することによって日々特定され、日々履行されます。このように日々特定される勤務場所等を変更しようとする配転命令は、あらゆる意味で契約内容の変更申入であり、労働者の個別的同意があってはじめて法的効果を生じるものです。 この説は、配転命令をもって労働契約にもとづく労務指揮権の行使とみることをまったく否定するものである点において、配転命令権否認説ともいうべきものです。
労働契約は労働力それ自体の利用を目的とするものであって、労働者がその労働力の利用、処分を使用者に委ねるものです。勤務場所等は、これを特に限定する約定のないかぎり、労働契約の内容を構成するものではありません。ここに、労働者の労働力を適宜に配置して利用する使用者の労務指揮権が生じます。その結果、使用者は労務指揮権にもとづいて労働者に対し、勤務場所等を具体的に指定して労務の提供を求めることができ、労働者は使用者の指定するところに徒って労働力を提供しなければならないことになり、このようにして労働契約が具体的に展開されるのです。そうすると、勤務場所等は、労働契約の履行過程として使用者の労務指揮権により指定、実現される個別的事実であり、労務履行の態様にすぎません。配転命令は、労働契約の内容である包括的合意にもとづく事実行為とみるべきです。ただ、勤務場所等は、労働契約において限定されているときは、労働契約の内容となるからこれを変更するには、労働者の個別的同意を必要とします。したがって、これを変更しようする配転命令は、契約内容の変更申入れとみるべきです。

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