解雇の効力を争う仮処分

解雇された労働者が解雇の無効を主張する場合、どのような仮処分を求めることができるでしょうか。解雇が、就業規則違反、労働協約違反、労働基準法違反、不当労働行為、解雇権の濫用などの理由によって無効である場合、労働者は、使用者に対し、雇用契約上の権利ないし従業員たる地位の確認および賃金の支払いを命じる本案判決を求め、それによって雇用契約関係を確定するとともに、強制執行をして賃金の支払いをうけることができます。しかし、労働者が勝訴判決を得るまでには、通常、かなりの期間を要し、その間、使用者から従業員として取り扱われないとすれば、労働者がうける従業員たる身分の喪失という精神的苦痛はもとより、職種によっては労働者の腕がなまったり、技能習得の機会を失うといった不利益をうけ、また、職場の福利厚生施設や健康保険などを利用することもできなくなります。しかも、格別の資産をもたず、使用者から得る賃金によって生計を維持している労働者が賃金の支払いをうけられないとすれば、本人およびその家族の生活は困窮に陥り、著しい損害を被るおそれがあります。このように、本案の勝訴判決を待っていたのでは、労働者の権利の保護号救済に欠ける事情があるために、戦後、仮の地位定めるとともに、賃金の仮払いを命じる仮処分が、被解雇者を救済するための方法として運用されるようになり、現在では、労働訴訟の主流的な地位を占めています。

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地位保全仮処分は、執行保全を目的とする係争物に関する仮処分と異なり、権利関係についての労働紛争が解決されないために被解雇者が現在被っている著しい損害を避け、もしくは、急迫な強暴を防ぐため、解雇が無効であることを前提として、仮に従前どおりの雇用契約上の権利ないし従業員たる地位を形成する仮の地位を定める仮処分です。この仮処分命令が使用者に送達されると、直ちにその効力を生じ、事実上、解雇をめぐる労働紛争の一方当事者たる労働者を決定的に有利にして本案請求と同一の満足を与え、使用者に対して重大な打撃を与えることになります。しかし、法律上、この仮処分命令を強制的に実現させる方法はなく、これに従うかどうかは、もっぱら使用者の意思いかんにかかっており、使用者の任意の履行に期待する仮処分です。
申請の趣旨はおよそ、次の三つの類型に大別されます。解雇の効力停止型、従業員待遇命令型、地位保全型。
以上のような申請の趣旨のうち、以前は、解雇の効力停止型が主流でしたが、現在は、これに代わり、地位保全型が多用されています。解雇の効力停止型には、解雇が無効であれば、その効力を発生しないはずであるため、停止すべき効力がないのではないかという理論上の疑間があるほか、実際上も、解雇の日が確定し難い場合、使用者が予備的解雇など複数の解雇や合意解約である旨主張する場合など、その表示方法が困難であったり、複雑になるなどの難点があります。
この仮処分の被保全権利は、解雇の無効を理由とする雇用契約存在確認請求権です。あるいは、従業員待遇命令型の仮処分に対応して、被告は、原告を被告の従業員として取り扱え。という給付請求権も、被保全権利たりうるともいわれます。なお、労働者の就労請求権は、労働契約等に特別の定めがある場合又は業務の性質上労働者が労務の提供について特別の合理的な利益を有する場合を除いて、一般的には労働者は就労請求権を有するものでないと解するのが判例の大勢であって、被保全権利たりえないとされています。
地位保全仮処分は、前述のとおり、使用者の任意の履行に期待する仮処分であって、この仮処分命令を強制的に実現させる方法はなく、また、賃金仮払仮処分と同時に申請されるのが通例であるところから、地位保全および賃金仮払いの仮処分につき保全の必要性をいかに認めるべきかが問題とされます。判例には、次の三つの類型があります。
(1)地位保全のみを認容し、賃金仮払いを却下する。(2)両者ともに認容する。(3)賃金仮払いのみを認容し、地位保全を却下する。
(1)の類型は、労使関係における信義則の保持、自主的解決に役立ち、その流動性にも適応することなどを理由として、賃金仮払仮処分が申請された場合であっても、なお、使用者による任意の履行が期待されるからには、始めから断行的仮処分を認めることは妥当でなく、解雇の効力停止を認める以上、賃金仮払仮処分は、地位保全仮処分にもとづく任意の履行が期待できないとき始めて認められる、という見解に立脚します。しかし、雇用契約は、使用者、労働者間の人格的接触の深い継続的契約であって、両者の法的紛争がいったんこじれると、その回復は容易ではなく、任意の履行に期待する地位保全仮処分が発せられても、ますます人間関係が悪化してしまい、これに使用者の裁判軽視の態度が拍車をかけ、労働組合の強力な交渉力によって担保されたいかぎり、使用者が地位保全仮処分を任意に履行することは期待し難いのが実情です。したがって、労働者が地位保全と同時に執行可能な賃金仮払いを求めて仮処分を申請しているのに、地位保全のみを認容して、賃金仮払いを却下することは、事案によっては労働者の救済を拒否するに等しい結果となり、行過ぎであるといわざるをえません。そこで、(2)の類型が実際上の必要からも判例の大勢となっており、地位保全および賃金仮払いの仮処分につき保全の必要性を一括して、解雇が無効であるにもかかわらず、労働者が被解雇者として取り扱われることは著しい損害である。といった抽象的、定型的な判断基準が確立しています。(3)の類型は、仮処分によって保全すべき雇用契約上の権利としては、賃金請求権しか存在せず、地位保全仮処分の本案は、確認訴訟であるため、あらかじめこれにつき執行を保全する余地はなく、また、その実効性も期待し難いため、賃金仮払仮処分を発する以上、さらに、地位保全仮処分を発する必要はない、という見解に立脚します。これに対しては、雇用契約上の権利には、賃金請求権以外にも、技能の習得ないし維持、職場の福利厚生施設や健康保検などを利用する権利ないし利益もあり、地位保全仮処分は、これらを含む包括的な地位を暫定的に設定するものであって、賃金仮払いのほかに、地位を保全すべき意義があり、執行力を伴わない仮処分ではありますが、労働者がその程度の仮処分に満足して申請する以上は、これを認容すべきであるとの見解が支配的です。

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