株式名義書換禁止の仮処分

株券の引渡請求に応じない相手方が株券を処分してしまうおそれがある場合。真実の権利者はどのような内容の保全処分によってその権利を保全することができるでしょうか。株券を預けておいたり、担保として差し入れたりしたところ、その帰属につき争いが生じ、相手方が返還請求に応じてくれない、というような場合に、そのまま放置すると、相手方が処分してしまうおそれがあり、処分されてしまえば、その株券につき善意取得や権利推定の規定が適用されて、譲受人が保護され、譲受人の権利取得によって真実の権利者がその株券についての権利を失うことになる可能性が高くなります。これに対して、株券の処分を禁止し株主たる地位を保全するには、その株券を債務者から取りあげて執行官の保管に委ねる仮処分によるのが最も直裁であり、本筋であることは明らかです。しかし、株券を債務者が占有していることの疎明は、必ずしも容易でなく、仮処分命令が発せられても、株券の移転や隠匿は容易で、実際上、その執行は不能または著しく困難なことが多くなります。そこで、これに代わる方法として、特定の株式の名義書換を禁止する仮処分を求めることが行なわれます。記名株式の移転は会社の株主名簿に登載されないと会社に対抗できないため、名義書換を禁止することによって株券の移転を防止しようというわけです。このような名義書換禁止仮処分の適法性ないし効力については、従来から議論が分かれています。近年では、さらに、株主名簿上の株主の議決権行使を停止しまたはこれにあわせて債権者の議決権行使を許容する仮処分の是非も、問題となっています。

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この種の仮処分のうち、多くは、株券占有者を債務者として株券の執行官保管または株式の処分禁止を命じると同時に、会社を第三債務者として、債務者からの名義書換をしてはならない旨を命じるものですが、この型の仮処分については、これを違法とする見解が支配的です。もともと、この仮処分は、株券引渡請求権を被保全権利とする係争物に関する仮処分であり、引渡請求の目的物は物としての株券自体であって、そこに表章される株主権ではなく、執行方法としても株券を占有者から取り上げ債務者に引き渡すことを必要とし、またそれで十分であって、その執行の保全のために会社に名義書換を禁止することは行きすぎです。また、名義書換があっても株券引渡請求権の執行がそのために不能もしくは著しく困難になるわけではないため、債務者に対する株 式の処分禁止が名義書換要求の禁止を包括するとは解しえません。登記、登録を処分の対抗要件とする不動産物権等と異なり、株式の移転は、現行法上、名義書換を第三者に対する対抗要件としてはいないため、これを株式処分禁止仮処分の執行方法としてとる理由はまったく存しないのです。
名義書換禁止仮処分としては、会社を単独の、または株券占有者と共同の債務者として、会社に対し特定の株式の名義書換を禁止するものもあります。これには、特定人の要求にもとづく名義書換を禁じるものと、なにびとの要求によるかを問わず一般的に書換を禁止するものとが区別されます。この型の仮処分も、やはり、許されません。会社は、株式の帰属をめぐる紛争については局外者であり、債権者の株主権を争っているわけでないため、本案訴訟における被告適格を有せず、ひいて仮処分訴訟における被申請人適格を欠きます。会社は、株式移転について実質的審査の義務はなく、商法二○五条の形式的要件を具備するかぎり記名株式の譲受人からなされた名義書換要求に応じる義務があるわけで、債権者と会社ないし特定の株券占有者との間に債権者の株主権の存在を確認する判決が確定したとしても、少なくともその後の善意取得者に対しては、債権者は自己の株主権を主張できず、会社も善意取得者からの名義書換要求を拒否することはできないため、このような名義書換禁止仮処分は、本案訴訟の判決で命じることのできる以上の内容を命じるものとして違法といわなければなりません。このことは、一般的書換禁止の場合だけでなく、特定人の要求にもとづく書換だけを禁止する場合でも同様です。後者の場合でも、債権者と会社、ないし債権者と株券占有者との間で債権者の株主権を確認する本案判決が確定しても、その既判力は株券所持人と会社との間では働かず、会社としては、適法の所持人と推定される株券占有者からの名義書換要求を当然には拒否できないことにかわりはないからです。
名義書換禁止の仮処分は、以上のように、つねに違法というべきですが、裁判所がそれにもかかわらずこういう仮処分をしてしまった場合には、会社は、名義書換をすることができなくなるのでしょうか。これは、理論的にきわめて難しい問題であり、見解は多様に分かれています。結論だけをいえば、特定株主の静的安全よりも株式取引の動的安全を重視し、これを優先的に保護しようとする現行商法のもとにおいて、名義書換禁止仮処分があったことのゆえに会社が形式的資格を備えた株券占有者の要求する名義書換を拒否できると考えることは困難であり、いずれの型の仮処分であっても、会社が第三者や命令に表示された者からの書換要求に応じることは妨げられないと解されます。

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