商号使用禁止仮処分

不正競争の目的で自己と同一または類似の商号を使用する者に対し、それを差し止める仮処分を申請する場合、相手方の商号登記の抹消をも求めることができるでしょうか。現実社会における商号使用態様は複雑多岐にわたるものであって、通俗的に商号使用といっても、会社法で要求される書面での商号使用、包装での意匠のような商号文字の使用など様々です。商号は商人の名称です。この点で、商号は、商品の標識である商標と異なります。商号も、商標も顧客吸引力があるので、ともに広告や包装などに用いられ、他方、商号を商標化したり、商標に自己の商号をあわせ、商標と同一文字に商号変更をしているような商人の場合には、商号と商標が交錯して商法、商標法あるいは不正競争防止法が重畳的に適用されることがあります。このような場合には、商号文字の事実上の使用が差止の対象となっているのであって、判決で看板、包装紙、カタログなどからの商号文字の抹消を認めているのは、このようなものに対する差止を認めている一例です。

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商号の事実上り使用の禁止を求めるほかに、さらに抜本的に相手方の商号登記の抹消までをも求めることができるかということが、まず問題の第一です。次に、商号の保護は、商法二○条、二一条のみならず、不工競争防止決一条一項二号によってもなされています。そこで、仮処分の申請がいずれにもとづいてなされているかによって答を異にするのでしょうか。後者が登記抹消請求仮処分申請の被保全権利となりうるかどうかという問題があります。特に商法二○条による差止請求では不正競争の目的という主観的要件、商法二一条では不正の目的という主観的要件を必要とするのに対し、不正競争防止法では不正競争の目的という主観的要件を差止請求の要件としていないので、実務上、この法律にもとづく請求をすることが多くなっています。不正競争防止法によって商号登記の抹消を求めうるのかという問題を考えなければなりません。
不正競争防止法により保護される商号は周知のものであることを要します。これに対して商法二○条による登記商号の保護の場合には、周知性は要件でないとする説も一部に存しますが、一般には、商号使用の差止に相手方の不正競争の目的がある場合にのみ認められることから、やはり周知性が必要になると解さざるをえないとされています。したがって不正競争防止法によって登記抹消請求を求める実益は大きくなります。
第二に、商号の使用差止について被保全権利があるとしても、仮処分で商号登記の抹消まで求める保全の必要性があるかどうかということが問題となります。
商号登記の抹消は、商法二○条、二一条および不正競争防正法一条一項二号のいずれの場合においても認められています。徒来の判例をみるに、日本ペイント事件において商法二○条による商号の使用差止請求に伴う商号登記抹消請求を認めたのをはじめとして、個人商号であるか会社商号であるかを問わず、原始商号であるか変更後の商号であるかを問わずこれを認めてきました。また、商法によるか不正競争防止法によるかを問わずず認めてきています。
ただ昭和二八年二月二目法務省民事甲第二一一五号民事局長通達が、会社については、商号のみをまっ消する登記は許されないため、このような登記を命じる確定判決があっても、これに基づく登記の申請は受埋できないものとする。としていたことに関連し、原始商号に対しては商号の変更登記のみが認められ、変更登記を経た商号については抹消登記請求が認められるとする判決が現れましたが、この通達は変更され、昭和三七年法務省民事甲第三三一六号長事局長通達は、商号抹消後、当該会社を表示するには、抹消前の商号に抹消前商号の宇を冠記する取抜いとされたい。としたので、登記実務上も抹消しうることとなりました。
現在の判例、学説の立場は、紹介したとおりですが、少数説には、商号の保護は現実使用の差止を認めるだけで十分であり、登記抹消を認めることはできないという説、あるいは商法にもとづく商号使用差止は商号登記の抹消をも請求できるが、不正競争防止法にもとづくときには商号登記の抹消は求められない説があります。前説は、通達改正前の説ですが、後説は今日でも意義を有します。
これは、商決上の商号ないし商号使用と、不正競争防止法上の商号ないし商号使用の峻別にもとづくものです。そして、さらには、商法と不正競争防止法の重複適用あるいは商法の商号法規と不正競争防止法の体系的地位をどう考えるかということにまでつながる問題です。
学説も、不正競争防止法と商法二○条、二一条の領域、目的上の差異を認めながらも、なおかつ、救済方決において、一方では登記抹消を認め他方に登記抹消を認めないという本質的な差異を生じさせることは妥当でないとし、不正競争防止法にもとづく請求において、あえて商号登記抹消を否定しなければならない理由がないとしています。そして、むしろ登記抹消による不正競争の防止の根絶という実益をとり登記抹消を認めるべきであるとしています。登記の残存は不正競争行為を残存せしめやすくするので、判例のいうように抹消の実益はあります。峻別論でこのような実益を否定するまでもなく、反面、商法上の商号権行使範囲を箸名上の商号に限定することもないと思われます。現状としては、有力な否定論の存在にかかわらず、なお、肯定論が判例、多数説の立場と考えられます。

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