強制執行と競売を停止する仮処分

確定判決またはこれと同一の効力を有する債務名義にもとづく強制執行を停止する旨の仮処分を求めることはできるのでしょうか。そして抵当権実行のための任意競売手続を停止し、あるいは抵当権の実行を禁止する旨の仮処分ならばどうなるでしょうか。一般の仮処分より強制執行を停止することは一切許されないとするのが判例および通説です。一般の仮処分の申請が許容されるためには、被保全権利または争いある法律関係の存在と保全の必要性が認められなければなりません。そこで、まず、被保全権利が確定判決によって確定されたものであるときは、判決にもとづく強制執行を一般の仮処分によって停止することは被保全権利の主張が確定判決の既判力に接触することになるので許されないことが明らかです。したがって、再審の訴えを提起した場合に、再審によって攻撃をうけている確定判決にもとづく強制執行を一般の仮処分で停止することは許容されません。民訴法五○○条は、この場合の強制執行の一事的停止等を許すために特に設けられたものとして理解することができます。次に、民訴法が一定の要件のもとに一種の暫定的措置として強制執行の停止等を命じる判決をなしうることを特に規定している場合は、これによって強制執行を停止することができるため一般の仮処分によって強制執行を停止することは原則としてその必要性がないものとして許容されないといえます。強制執行が開始されるまでは、特別の仮の処分をなしえない場合もありますが、必要ならば、特別の仮の処分として、強制執行の停止を命じるとともに、すでにした執行処分の取消を命じることもできるため、強制執行開始前に特別の仮の処分ができないからといって、当然に、強制執行開始前にあらかじめそれを停止する必要のある場合があるとはいえません。したがって、強制執行を一般の仮処分によって停止することは、原則として許されないといえます。

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しかし、特別の仮の処分としての執行停止命令によって強制執行の停止をはかることが不可能というわけではありません。かかる場合は、例外的に、一般の仮処分によって強制執行の停止を命じること、ないしはこれに加えてすでにした執行処分の取消を命じることもできるものといわなければなりません。
一般の仮処分によって強制執行を停止することの許否が問題となるのは、次のような場合です。
債務者を丙とする確定判決を経た債権の譲渡に関し、譲渡人甲と譲受人乙との間に争いのあるとき、甲から、乙の丙に対する強制執行を停止する必要がある場合、あるいは乙が、甲の丙に対する強制執行を停止する必要がある場合が考えられます。この場合、民訴法五四六条を類推適用して甲が乙を相手に乙に対する承継執行文付与に対する異議の訴えを提起できると解するならば訴えの提起に伴い特別の仮の処分としての執行停止命令を求めることができるため、一般仮処分はその必要性を欠くことになり、類推適用はできないとしても、甲が債権者代位権にもとづき丙に代位してこの訴えを提起できるときは、同様になります。しかし、五四六条の類推適用を認めず、また債権者代位によって承継執行文付与に対する訴えを起こすこともできない場合だとすると、甲としては乙を相手に一般の仮処分によって乙の丙に対する強制執行の停止を求めるほか方法がありません。前記の場合は、乙が丙に代位して甲に対し請求異議の訴えを提起することができるときは、訴えの提起に伴い特別の仮の処分としての執行停止命令を得ればよいのですが、それができない場合は、乙は一般仮処分によって甲の丙に対する強制執行の停止を求めることが肯定されます。
家屋収去土地明渡しを内容とする和解調書あるいは調停調書について、その成立につき要素の錯誤があるため和解無効確認の訴えを提起する準備中である旨主張し、これを本案として、一般の仮処分によって強制執行の停止を求める場合は、請求異議の訴えを提起してこれに伴い特別の仮の処分としての執行停止命令をうることができる場合にあたるため、一般仮処分の必要性を欠くものです。和解無効確認の訴えをすでに提起した場合にあっては、これを本案としては特別の仮の処分としての執行停止命令を求めることはできません。しかし、その場合であっても請求異議の訴えを提起することはできます。そうだとすれば、訴え提起に伴い特別の仮の処分としての執行停止命令を得る方法が残されていることになるため、やはり一般仮処分の必要性はないといえます。
執行力ある公正証書をもって金銭消費貸借をおこない、抵当権を設定した債務者が、債権者に対し、公正証書が犯罪行為にもとづき作成せられたものであるとして、消費貸借契約および抵当権設定無効確認ならびに抵当権設定登記の抹消を請求するときは、強制執行の着手前に、一般の仮処分により強制執行の停止を求めることができるとした判例がありますが、これも請求異議の訴えを提起して特別の仮の処分としての執行停止命令ないしすでにした執行処分の取消命令を求めうる場合にあたるため、やはり一般仮処分の必要性を欠くものです。
家屋の明渡しなど、特定物の明渡請求についての強制執行において、その執行が短時間で終了してしまうときは、その明渡しを妨げる権利を有する第三者は、事実上執行法上の救済を求める余裕がないとの理由で、執行開始前に、一般の仮処分によって強制執行の停止を求められるのではないかとの見解もあります。第三者異議の訴えが具体的な強制執行の開始後でなければ提起できないという通説の見解にたつかぎり、示唆に富む見解といえます。
なお、民訴法以外の他の法律で強制執行停止の仮処分をなしうることを明定している場合があります。
一般仮処分として強制執行の停止あるいは、すでにした執行処分の取消を命じた仮処分命令は、仮の地位を定める仮処分であって、仮処分裁判所が執行機関に対し、直接強制執行の停止を命じる越旨のものではなく、申請人と被申請人との間に、暫定的な権利関係を形成したものです。そして、このような一般仮処分を許容するものとする以上、仮処分命令は民訴法五五〇条二号所定の裁判というべきであり、この裁判正本が執行機関に提出されることによって、はじめて強制執行の停止あるいは、すでにした執行処分の取消がなされることになります。
競売法による競売手続にも性質の許すかぎり民訴法の規定が準用されるため、実体上の権利の存在などを争って競売手続の停正を求めようとする場合に、もし民訴法所定の特別の仮の処分についての規定をそのまま準用しうるのであれば、一般仮処分を用いる必要性はありません。しかし、民訴法所定の特別の仮の処分の規定の準用が可能なためには、その本案としての民訴法所定の執行関係訴訟の係属が前提となります。そこで、任意競売手続において実体上の権利の存在を争う場合に、民訴法による執行関係訴訟のうち、任意競売手続に準用可能な訴訟形態が存するかどうかを検討してみます。
債務名義を不要とする任意競売手続において債務名義の執行力の排除を目的とする請求異議の訴えの規定を準用することはできません。
抵当権不存在確認の訴えを提起し、この訴えを強制執行における請求異議の訴えに応当するものとし、これを本案として特別の仮の処分としての執行停止命令を求めうるとする見解がありますが、請求異議の訴えの規定を準用できない以上、この見解は疑問です。実体上の権利の不存在を主張するには執行方法に関する異議として、競売手続開始決定に対する異議の申立てによるべきであるとする見解や、競売手続開始決定に対する即時抗告によるべきであるとする見解があります。しかし、実体上の権利の存否に関する不服申立てを、本来、執行手続上の暇疵を争うために設けられた手続、あるいは口頭弁論を開くことを必ずしも必要としない手続で審理することが許されるかどうかは疑問です。
第三者異議の訴えを認め、これが訴えの提起に伴い特別の仮の処分としての執行停止命令を求めることができる見解もあります。抵当権が不存在のときは、競売申立ての目的となった不動産が優先弁済のための責任財産を構成しないという意味において、一般に責任財産に属しない物を執行の対象から取り出すことを趣旨としたこの訴えをここに類推する余地はありますが、債務者が自己の不知の間にその所有不動産に設定された抵当権の無効を主張するような場合はともかく、債務者が弁済による被担保債権の消滅を理由に債権者の抵当権実行を争うという最も通常の場合までもこれを第三者の異議とみるのは、いかにも現行執行法の全体としての体系的構成にそぐわない解釈のように思われます。この見解では競売開始決定以前にはその救済を求められません。
民事調停を申し立てて、競売手続の停止命令を得る方法も比較的多用され、かなりの機能を発揮していますが、これは調停申立てを前提とするものであるうえ、調停が不成立に終わると執行停止の効力は失われてしまうので、保全措置として十分なものとはいえません。
以上の検討によると、抵当権実行のための任意競売において、実体上の権利の存在を争う方法として、民訴法所定の執行関係訴訟のいずれの形態によることについても、かなりの疑問があり、したがって、民訴法所定の特別の仮の処分の規定を任意競売手続に準用して競売手続を停止し、ないしはすでにした手続を取り消したりすることについては相当の疑問があることが判明しましたが、そうだとすると、任意競売手続においては、必要があればそれを暫定的に阻止するための一般の仮処分をなしうるものと解すべきであり、実務上もこれが古くから行なわれ、定着した方法となっています。実体上の権利不存在を理由に執行方法の異議を申し立てて特別の仮の処分としての執行停止命令を求めることができるというのが実務の大勢であることは前述のとおりですが、執行停止命令がすでに出ているときは、一般仮処分による任意競売手続停止の仮処分の必要がないこともちろんです。

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