抵当権設定請求権保全の仮登記

抵当権設定登記請求権を本案として目的不動産の処分禁止の仮処分を求めることはできるのでしょうか。そして、抵当権者が抵当権設定登記請求権を保全するために、設定者を債務者として目的不動産について処分禁止の仮処分を求めることが許されるのでしょうか。実際の取引においては、抵当権設定登記手続が前もって行なわれるのが通常であるため、このような事態が発生する余地は比較的少ないと思われます。しかし本件の問題は、現実に発生することもあり、理論的にも処分禁止仮処分の許容性を特にその被保全権利との関係で考察されなければなりません。仮処分命令発令の一般的要件として、被保全権利の存在と仮処分の理由を疎明すべきです処分禁止仮処分が許容されるには、その上に、処分禁止を命じることが仮処分申立ての目的を達成するに必要かつ適切な場合でなければなりません。さらに、略式訴訟制度としての仮処分に必然的に付随する条件をも満足していなければなりません。その条件として、仮処分中で命じられる処分は、仮処分債権者の申立ての範囲をこえないこと、および仮定的かつ暫定的なもので後に原状回復が不可能ではないこと、そして仮処分債権者に本案請求以上の利益を、同時に仮処分債務者に本案請求の履行以上の不利益を与えてはならず、本案請求、被保全権利の範囲を出てはならないことが要求されています。

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処分禁止仮処分が発令され、それが執行されると、抵当不動産について処分禁止の仮処分の登記がなされます。本案の抵当権設定登記手続請求訴訟における債権者勝訴の確定判決にもとづいて抵当権設定登記の申請がなされると、処分禁止仮処分の登記後にその仮処分に違反してなされた登記、例えば第三者の所有権取得登記とか抵当権設定登記の抹消登記を単独で申請できるというのが登記実務です。つまり抵当権設定登記請求権保全のための当該不動産についての処分禁止仮処分の登記後になされた一切の登記は、申請にもとづいて職権で抹消され、所有権移転登記請求権保全のための処分禁止仮処分と同様に取り扱われています。しかもこの場合職権で抹消された登記の回復方法について十分な手続法上の保障がありません。
こうした登記手続上の不完全さが、本問の処分禁止仮処分を消極に解する見解を導くのに大きな力がありました。被保全権利に比して上述のような強い効力をもつ仮処分は許されないとする立場があります。元来処分禁止仮処分命令に違反する債務者の処分は債権者の被保全権利に対抗できませんが、仮処分命令が被保全権利以上に第三者の権利取得までをすべて否定できるものではなく、また抵当権は目的物の交換価値を把握するもので、抵当権設定者が目的物を抵当権付の不動産として処分することは認められるはずとされています。これに対して、多数説、実務では、登記実務上の不完全、不備は技術的な調整に工夫、改善を求めるべきであって、それをせずして抵当権の目的財産について処分禁止仮処分を許さないと解するのは筋違いであるとしています。
被保全権利は抵当権設定登記請求権です。被保全権利の範囲の理解について相対立する二者の立場があります。まず、抵当権は、日的物から優充弁済をうける権利であって、目的物の処分を設定者に禁止する効力は有しないため、たとえ一時的、暫定的にであっても、目的物の一切の処分を禁じる処分禁止仮処分を許すのは本案請求の範囲をふみはずし、仮処分としては必要かつ適切な限度をこえるので、本件の処分禁止仮処分の発令は許容すべきでないとする見解があります。この立場は抵当権者は仮登記仮処分または被担保債権にもとづく仮差押えによって保護されるべきであると主張しています。他方で、抵当権設定者は、登記義務を履行するまでは、抵当権者を害するような目的物の処分を禁止されるという実体法上の付随的な不作為義務を、仮処分によって負わされてもやむをえないのであり、そのために目的物の処分を禁止しても、本案の請求日被保全権利の範囲をこえるものではないとする見解があります。そしてこの処分禁止命令が対抗力、物権的効力類似の効力を有することを承認するのです。一方仮登記仮処分命令によって、いったん仮登記がなされると、その抹消が容易でないことから仮登記仮処分の発令には実務上相当に厳格な疎明が要求されています。例えば東京地方裁判所執行部の取扱いでは、仮登記原因の疎明が、公正証書か、私文書であれば仮登記義務者が真正にこれを作成したことを証させるために私文書に押捺した印鑑の印鑑証明書をも要求しています。また仮処分登記の効力が仮登記仮処分のそれよりも強大であり、前述の疎明の厳格さの事情などから、実務では処分禁止の仮処分の申請が多くなります。
本件で処分禁止の仮処分は許されず被担保債権にもとづく仮差押えによるべきであると解することは、債権者保護の点からは好ましくなく、抵当権設定者が物上保証人にすぎない場合には不可能です。
抵当権設定登記請求権を物件的請求権あるいは債権的請求権のいずれと解しても、本件の場合それを被保全権利とする処分禁止仮処分の許容はやむをえません。本件で処分禁止を命じるのは本案請求の範囲をこえるという反論には、仮処分で命じられる処置と本案請求とは区別されねばならず、仮処分は本案請求を保全するものであって本案請求を満足せしめるものであってはならないのが原則であり、保全と満足は関連はしますが元来別々のものであり、積極説と消極説の論拠を勘案しても、また金銭債権のために仮差押えをなす場合などに照らしても、抵当権設定登記請求権保全のために目的物の処分禁止仮処分を発令することは必ずしも納得のできないことではありません。

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