共同相続人と仮処分

遺産分割前の相続財産を単独で占有使用している共同相続人甲に対し、他の相続人乙は、相続財産の持分譲渡等処分禁止や執行官保管、占有移転禁止の民訴法上の仮処分を求めることができるのでしょうか。相続財産は共同相続人の共有に属すると定められています。しかし、遺産分割前において相続人間に別段の取決めがないにもかかわらず、しばしば相続人のうちの一人が単独で相続財産を占有使用している事案があるため、他の相続人が、これに不満で相続財産を自分にも使用させるよう要求したり、単独占有者が相続財産を隠匿あるいは毀損することを理由にこれの防止を求めたりする紛争事件が生じます。相続財産をめぐるこの種の紛争は、結局、遺産分割の協議の成立、あるいはその審判によって終局的、抜本的な解決がはかられるものですが、協議は時折親族間の骨肉相争う状態になって容易に成立せず、また審判は、相続財産の帰属等の前提問題の審理、特別受益分や寄与分等の認定等に日時を費やして、これが終局判断にいたるまでにはかなり長日時を要し、そのため、終局的解決にいたるまでの間、相続財産の散逸や毀損を防止し、これを保全する等の措置が是非とも必要となります。

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遺産共有の性質については、共有説と合有説とが対立しています。民法八九八条、同法九○九条但書は共有説の主たる論拠であり、同法九○六条、同法九○九条本文は合有説の主たる論処であり、いずれの説も一概に排斥しがたいところで、判例はほぼ共有説に確定しています。
民法二四九条によれば、各共有者は共有物の全部につきその持分に応じた使用をなすことができると定められています。したがって、各共有者はその持分に応じて共有物を使用できる権限がありますが、持分の多寡にかかわらずその使用権限は共有物全体に及ぶので、遺産分割前に一人の相続人が相続財産を単独で占有使用している場合他の相続人はたんに共有持分を有することだけを理由に単独占有相続人に対し相続財産の引渡しを求めることはできません。共有物に変更を加えることは共有者全員の同意を要しますが、共有物の管理に関する事項は共有者の持分の価格の過半数によって決定される共有物を使用できる者を誰にするかを定めることは共有物の変更と管理のうちのいずれに属するでしょうか。もし管理にあたるとすれば、持分の過半数を有する相続人が現に相続財産を占有している相続人以外の者を使用者と定めるとその者はこれによって使用権を取得し、これにもとづき現に占有している相続人にその相続財産の引渡しを求めることができるので、使用権を被保全権利として民訴法上の仮処分を求め得ると考えられます。共有物の変更とは事実上の有形的変更又は法律上の処分をいい、管理とは使用者を誰にするかなどの利用、改良行為で変更の程度に達しないものをいうと解されています。しかし、一般的、抽象的基準で一応区別されるとはいえ、使用者を定めるといっても場合によっては法律上の処分と同視される事案もあり、現実の事案を具体的に観察して、共有者全員に同意させるべきか、はたまたその過半数で定めてよいとすべぎかを決するよりほかないと考えられます。この見地に立脚して相続財産の使用者を誰にするかを定めることが共有物の管理にあたるとみられる場合、それではこの使用者を共同相続人の共有持分の過半数で定めることができるでしょうか。そのように解する説もありますが、相続財産の使用をめぐる争いは実質的に遺産分割の紛争の開始というべきであり、また相続財産の使用者を誰にするかを定めることは遺産分割の一方法であって、それ自体遺産分割とみるべぎであると考えられます。そうすると、相続財産の使用者を民法二五二条で定めることはできず、これを定めることは遺産分割であるため、相続人全員が同意するか、または遺産分割の審判によるよりほかありません。
共有物分割の訴えは訴訟事件であることはいうまでもありません。遺産の共有が民法第二編第三章第三節所定の共有であるとすれば、各個の相続財差につき共有物分割の訴えを提起でき、これを本案として民訴法上の仮処分をなしうるといえないでもありませんが、遺産の分割は家庭裁判所の家事審判事項であり、もし各個の相続財産について共有物分割の訴えの提起が認められるとなると、これらの訴えを数多提起して併合すると遺産分割の審判を離脱することになること、共有物分割の方法は民法二五八条二項に定める第一次的に現物分割と第二次的に価格分割としかありませんが、遺産分割は同法九○六条の一切の事情を考慮してなすものであってその方法も共有物分割の二つの方法に限定されるものではなく、共有物の分割と遺産分割とは質的にも異なるものであること、規定の位置やその趣旨から遺産分割に関する規定は特別規定で、共有物分割に関する規定は一般規定であると認められるので、遺産については遺産分割の特別規定が適用されて共有物分割の一般規定を適用すべきでないことを理由に各個の相続財産につき共有物分割の訴えは提起できないと考えられます。
以上の説明によると、相続財産の使用者を定めること、あるいは相続財産たる共有物を分割することは、遣産分割の方法でなすしかありません。遺産分割は、まず共同相続人全員の協議により行ない、この協議が成立したときは、その協議の内容に従って共同相続人各自は各個の相続財産につき権利を取得するものであり、またその効力は相続開始の時にさかのぼって生じます。かくして遺産分割の協議の成立により各個の相続財産につき所有権その他の使用収益をなしうる権利を取得した相続人は、この権利にもとづき、相続財産を占有している相続人に対しその引渡しを求める訴えを提起して、これを本案として必要性の限度において設問の民訴上の仮処分をなしうることはいうまでもありません。

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