返還請求権の仮差押え

刑事事件の被疑者として警察署の留置場に勾留されている者が、金品を任意提出しあるいは押収された場合、その金品ないし金品返還請求権に対する仮差押えは、どのようにしてするのでしょうか。窃盗などの財産犯を犯した被疑者から、犯罪の被害者が被害の回復をはかろうとする場合には、身柄拘束中の被疑者の所持する現金、その他換価可能な物品を目当に、あるいは証拠物として捜査機関に押収された金品の還付請求権の仮差押えをなしたうえ、将来の本執行に備えるほかないことが多くなっています。近年は財産犯の被害者、あるいは債権者が、仮差押債権者、被疑者、被告人を仮差押債務者とする有体動産仮差押え、押収物還付請求権仮差押えの申請がみられますが、仮差押債務者とされる被疑者、被告人の身柄の取扱いが刑事訴訟法、被疑者留置規則、監獄法などで規定されるうえ、所持する金貧が刑事手続上、証拠物または没収すぺき物として押収されうる関係にあることから、仮差押えの方法、押収物還付請求権につき差押えをなすとして第三債務者をどう表示すぺきかなどきわめて実務的事柄が問題となるほか、刑事訴訟法にもとづいてなす押収物の還付処分と仮差押えとの関係が問題となります。

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被疑者、被告人の所持する金品を刑事事件手続上の取扱いの違いから大別すると、当該刑事事件と関係なく所持する現金、有価証券その他の貴重品などの動産、証拠物または没収すべき物として差押えをうけもしくは任意提出によりすでに留置されている金品とになります。ただし、具体的物件についてのこの区別は、捜査の進展に伴って明確になるものであって、当初は刑事事件と関係ないとみられた物品が、後日販物もしくは対価の対値として得た物であることが判明することも多く、仮差押申請にあたっては、差押えの対象と考えている物品が当該刑事事件手続上どういう性質のものとして取り扱われるか十分配慮する必要があります。
被疑者を留置するにあたって、留置主任者は、被疑者が刑事事件と関係なく所持する現金、有価証券その他の貴重品を預かることができ、しかも特定物として保管したうえ、留置人が釈放されるときには、保管にかかる金品を返還することになっています。この取扱いは、被疑者、被告人が代用監獄として留置場に収容されている場合についても同様とされています。そこで、この携有物を対象として仮差押えをなすには、債務者の有体動産についての仮差押えの方法、有体物引渡請求権についての仮差押の方法などが考えられますが、有体動産の差押方法によるのが相当であって刑事手続の実務の取扱いにも合致します。本来、警察の留置場は、被疑者の身柄を短期間確保するための施設であって、身柄の管理保安および紀律維持の要請から被疑者の所持品を預り保管するものであり、在監者の携有物品領置の目的も、同様と解されます。したがって、被疑者を仮差押債務者とする有体動産仮差押命令が発布され、その執行として執行官が警察署に赴いた場合には、留置主任者は、保管中の金品をいったん被疑者に返還することにし、さらに執行官が仮差押えの執行として被疑者から占有を取得する方法が取りうるわけです。現に、警察庁はこの取扱いによるよう指導しています。留置人の所持するいわゆる危険物あるいは在監者の携有物についても、有体動産の差押方法によることができます。この方法によって、執行官に占有を移転しても、身柄の管理、保安および紀律維持の上で支障がないからです。ただし、在監者の領置品については、一般会計法規により国庫金となり、その保管金のうち歳入歳出外現金として扱われるので、在監者の預置金の差押えは、在監者の国に対する金銭債権を対象とし、第三債務者、国、代表者、歳入歳出外現金出納官吏とする扱いになっています。
刑訴法上押収とは、物件を保全するためにその占有を取得する強制処分であり、遺留物や任意提出物に対してなされる領置および証拠物や没収すべき物に対してなされる差押えとがあります。司法警察員が、捜査上押収した証拠物等は、事件送致に伴って検察官に引き継がれ、検察官がこれにより保管することになり、検察官と被押収者との押取関係に移行します。公訴提起後、検察官が、証拠資料として裁判所に提出し裁判所が領置したときには、それまでの検察官と被押収者との押収関係が消滅し、新たに裁判所と被押収者との押収関係が発生します。
これが押収物の刑事手続上の流れの典型ですが、実際上は司法警察員が、事件送致にあたって、留置の必要がないとして、仮還付もしくは本還付する物品もあり、また検察官が、不起訴処分に伴って押収物件還付の処分をするので、裁判所に提出される押収物は全体的にみると、きわめて少ない。なお、押収物の取扱いは、警察においては、犯罪捜査木規範、検察庁においては、証拠品事務規程、裁判所においては、押収物等取扱規程などによります。ところで、押収物は、刑事訴追の目的で、強制的に占有を取得継続するものであるため、押収の目的がなくなるまで還付できない関係にあります。したがって、仮差押えの方法も、被疑者、被告人の有する押収物還付請求権を差し押え、第三債務者に対しては請求権の目的たる物件の引渡しを禁じ、第三債務者に送達して執行すべきことになります。この種仮差押えの事例をみると、財産犯の被害者が、仮差押債権者として、検察庁保管中の押収物につきその還付請求権を差し押えた事例が多く、目的物は、窃盗や詐欺の複疑者から押取した現金、株券、貴金属品などが多くなっています。
押収物還付請求権の仮差押えにおいては、第三債務者とその代表者を記載しなければならず、迅速な執行のためには送達場所をも表示するのが適当です。
司法警察員が保管中の押取物につき、その還付請求権の仮差押えがなされたのち、事件送致に伴って当該押収物を検察官に引き継ぎ、検察官と被押収者との間の押収関係に移行した場合には、返還義務の主体が変更し、しかも第三債務者の地位を実質的に承継させるための手続きが欠けているので、事件送致前になされた仮差押えは失効し、新たに検察官保管中の押収物として仮差押えをなす必要があります。実際上も、押収物の多くは、検察官保管の段階で不起訴処分に伴って処分されるため、押取物還付請求権仮差押えは、この段階でなすのが比較的実効をおさめることになります。
捜査機関が証拠物等を押取するにあたっては、被疑者である被押収者から所有権放棄書、あるいは、被害者に返して下さい、などの処分意見を徴するのが通常であり、また刑訴法上も、押収物が賍物であり、被害者に還付すべき理由が明らかなときは、被害者に還付しなければならないことになっているので、刑事事件手続によって被害の回復をうる場合も多く、反面、被押収者たる被疑者が還付請求権を有する場合はかなりかぎられます。なお、この種の差押命令にあっても、引渡命令が発せられる場合があり、これは第三債務着に対する債務名義ではなく、引き渡すか否かは第三債務者の判析に委ねられるところではありますが、押収物を保管する者としては、当該押取物が仮差神債務者たる被押取者に還付すべき物かどうか、捜査または、公訴遂行もしくは没収の裁判執行などのため押収を継続する必要があるかを検討し、この段階で被押収者に還付できる物であるならぱ、保管上の事故を少なくするためにもこれを執行官に引き渡すことによって、還付をすますべきです。

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