株主権の仮差押え

株券がまだ発行されていないうちに、その株主権あるいは株券交付請求権に対する仮差押えをすることができるでしょうか。実務上、有体動産仮差押えの場合を除き不動産差押え、債権仮差押申請にあたっては、目的物を特定表示していますが、この意義に関し、判例、通説の立場からは、これらの財産については、発令裁判所が同時に執行裁判所であることから、債権者が迅速な執行を期侍して申請が認められることを予想して執行機関としての執行裁判所に執行の申立てをなしているものと理解されています。したがって、株券発行前の株式につき仮差押えができるか、できるとしてどのような方法によるかは、もっぱら執行機関としての執行裁判所が検討すべきことになります。本来、仮差押制度は、金銭債権者が、将来、債務名義を得て債務者の財産を差し押え換価し、債権の満足をうることを期待して、あらかじめその財産権の処分を禁止し、その交換価値を保全するものであるため、仮差押えの対象となりうるのは、金銭的価値があり、かつ換価可能な譲渡性のあるものでなければならず、また、仮差押えの執行手続についても、原則として強制執行の規定が準用されます。

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株式は、株式会社に対して有する社員たる地位をいい、この株主たる地位にもとづいて会社に対して有する自益権、共益権の総和ないしその基礎にある会社との法律関係が株主権であって株券は、この株主権を表章する有価証券として、執行法上の有体動産とされます。株主権は、会社の成立または新株の発行によって成立しますが、有効な株券となる時期については、交付時説、発行時説、作成時説などがあります。会社において株券を作成し発行を準備している場合には、この作成時説によれば、有効な株券が成立していて会社がこれを占有している関係になりますが、判例の立場である交付時説あるいは発行時説によると、作成された文書は、いまだ株券としての効力を生じない株券の形式を備えた紙片にすぎないことになります。この点、交付時説もしくは発行時説の立場から、この紙片に対する引渡請求権を差し押え、執行宮がその占有移転をうけることによって、これを株主が交付を受けたことと同視し、有効な株券が成立するとみる見解がありますが、後叙のような疑問があります。なお、昭和四一年の改正で、株券不所持の制度が新設され、株主が株券の所持を欲しない旨の申出をした場合には、会社は、株券を作成して銀行または信託会社に寄託することが認められることになりましたが、この制度のもとにあっては、寄託の時に株券の発行があったものと解されます。
株券がすでに発行されている場合には、その株券が記名式であると無記名式であるとを問わず、有体動産として民訴決七五○条一項にもとづき準用される五六六条以下の定めにより、執行官が占有を取得して差し押えることになる会社が有効な殊券の提出を拒む場合、もしくは株主の株券不所持の申出によって会社が株券を銀行等に寄託している場合で銀行等が任意に株券を提出しない場合には、民訴法六一四条、六一五条によって株主の会社に対する株券返還請求権を差し押えることになります。
商法では、株式の自由譲渡性も認めていますが、その一方で、譲渡方法を殊券の交付に限定するとともに、株券発行前の株式の譲渡は、会社に対し効力を生じないと規定し、しかもこの規定は、会社に対する関係では譲渡が無効であって会社側からも有効と認めえない趣旨と解されています。したがって、会社に株券発行の意思のないときには、株式譲渡の途が事実上、閉ざれてしまい、株主の投下資本の回収を制約することになります。そこで、商法二○四条二項の立法趣旨との関連において、株券発行前の株式の本質をどう理解すべきか問題となります。
物的会社の社員としての地位を意味する株式は、本来個人的色彩がなくかつ財産上の価値を有するきわめて譲渡に親しむ性質を有するうえに、人的会社の退社権がない株式会社にあっては、投下資本回収の手段を保障するため、株式の譲渡性は、株式会社制度のうちの経済的本質をなすものであるため、商法二○四条二項の解釈については、発券事務の円滑確保のための規定と解し、会社が故意または遇失によって一般的発行を行なうに通常必要とされる相当な期間を経過し、なおかつ会社が具体的に株券を発行せず不当に譲渡の自由を制限している場合には、二○四条二項の適用はなく、株主は、株式譲渡の効力を会社に対し主張しうると解すべきです。この点、最高裁は昭和四七年の大法廷判決で、株券発行前の株式譲渡を無効としていた厳格説にたつ判例を変更しました。この大法廷判決は、株券の発行を不当に遅滞したうえ、信義則に照らし譲渡の効力を否定することが相当でない状況にある場合について、意思表示のみによる株式譲渡の方法、その効力を認めたものであって、発券前譲渡の効力の有無についての判断は、きわめて慎重ではありますが、結局、株券の交付による譲渡が期待しえない場合における株式の譲渡換価の可能性を肯認したことになり、差押方法の検討にあたっても、換価に際し株券の取得を絶対的前提とする必要がなくなった点など関連をもつことになります。

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