借地権の仮差押え

借地格に対する仮差押えは、認められるのでしょうか。借地権者が借地上に建物を所有している場合と、更地の借地権である場合とで、差異は生じるでしょうか。強制執行においては、譲渡性を有する権利でなけれぱ、その目的物としての適格性を欠き、差押えまたは仮差押えをすることがでぎないのが原則です。譲渡性を有しない権利は、強制執行によってこれを換価しえず、したがって強制執行の目的を達することができないからです。建物所有を目的とする土地の賃借権は、建物保護に関する法律や借地法によって厚く保護される関係上、都会地において相当な価格で、場所によっては、当該土地所有権の価格よりも高額に売買される事例が多く、このように価値ある財産権として取引の対象となっているため、これに伴って金銭債権者が自己の債務者の有する借地権を、その責任財産視する傾向が強まり、近年借地権に対する仮差押申立事件が増加しつつあるように思われます。しかし、賃借権は、賃貸人の承諾を得なければ、これを他に譲渡することができません。しかも賃貸人が承諾の意思表示をするか否かはまったくその任意です。したがって、借地権に対する仮差押えについては、その申請当時賃貸人の承諾を得ている場合には問題がありませんが、承諾を得ていない場合にも、仮差押命令を発しうるかどうか、またこれを積極に解した場合その仮差押えはどのような方法によるべきかが問題となります。

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判例では、古くはこの問題については、消極説の立場をとり、賃借権は、申請当時賃貸人の承諾がないかぎり、これを差し押えることはできない、としていました。その論拠は、つまるところ、この種の財産権の差押えは、最終的には換価命令かまたは譲渡命令に移行することによって、強制執行の目的を遂げるものであるため、その譲渡性が明確でない借地権は、結局強制執行の目的物としての適格性を欠くというところにあるものと思われます。
しかし、判例はその後積極説に転じ、福岡高決昭和二九年九月一七日が、賃借権に対する仮差押は、賃貸人がその移転を許していない場合でも、仮差押の裁判をなす際、将来賃借権の換価による譲渡について確実に賃貸人の承諾を得ることが認められる特殊の事惰が存する場合には、これを仮差押え得ると解するを相当とする。と判示しました。この決定の論拠は、その判文上からもうかがわれるとおり、仮差押えの申立ての際には、即時の譲渡性を有しない権利であっても、強制執行の換価のとぎまでに、譲渡性を具備することが確実と認められるものは、その換価の前提としての仮差押えが許されてしかるべきではないか、という点にあるように思われます。そしてこの決定以降は消極説をとる裁判例は見当りません。のみならず、東京地決昭和四七年一二月二七日では、借地権が借地権価格という経済的価値をもち、客観的財産権として把握されるに至っている現在においては、借地権の移転についての賃貸人の承諾がある程度期待しうる場合には、借地権を差押えることは許されるものと解するのが相当である旨判示しました。この見解は、前記福岡高決はもとより、譲渡の承諾が相当程度期待できるものについても、差押えを認めるべきであろうとする説よりも仮差押えをしうる場合を広く認める考え方といえます。
ところが、東京地決昭和四八年五月三一日は、借地権に対する仮差押えの可否につき、仮差押申請当時、仮令え借地権に譲渡性が具備されていなくとも、借地権には強制執行手続における換価のときまでに譲渡性が付与される可能性が相当高度に存するものと推定すべきであり、この推定を覆すに足りる特段の事情のない限り、仮差押を認めるべきである。と判示しました。この決定は、かなり詳細に借地権の仮差押えに関する問題点をとりあげて説示しており、参考となる点が多く、その理由の概要は次のとおりです。まず、賃借権についての譲渡性の具備は、賃貸人の承諾の意思表示を条件とし、賃貸人が承諾するか否かは、まったくその任意であるため、未だ譲渡性の付与されていない賃借権について仮差押の申立てがあった場合、特設の事情が認められない限りは、換価のときまでに譲渡性が付与される相当高度の可能性があるとはとうてい言い得ないが、建物所有を目的とする賃借権の譲渡については、それが当該借地上に有する借地人所有建物の任意譲渡、競売または公売による所有権移転に伴って行なわれるときは、借地法九条ノ二または三所定の要件の存在する限り、賃貸人の承諾に代る許可の裁判がなされ得るのであって、借地権は、この裁判がなされることによっても、また譲渡性が付与されます。この意味において借地権は、その目的土地上に借地人所有の建物が存する場合は、一般の賃借権よりも相当高度の譲渡性を有することが明らかであるとして、さらに今や取引社会において借地権は一般に相当高度の譲渡性を有することもあわせて考えると、借地権については、仮差押の申立の際にその譲渡性が具備されていなくとも、換価のときまでに、譲渡性が付与される可能性は相当高度に存するものと推定するのが相当であり、従ってこの推定を覆すに足りる特段の事情が認められない限りは、その申立ては、これを許容するのが相当であるとしています。この決定は、借地権には譲渡性が相当高度に存するものと事実上推定すべきであるとし、承諾を得られる可能性の立証責任を仮差押債権者から免除した点において、これを仮差押えしうる場合を広く認めようとするものですが、前記のように、今日の社会において、借地権が相当高度の譲渡性を有し高価な財産権として評価され、債務者の責任財産としてみられる傾向が一般化されつつあること、借地権の被仮差押適格を厳格に解するときには、それによって仮差押えを免れた債務者が、後日債権者不知の間に他にこれを処分してしまうことは、当然起こりうるべきことであって、かくては債権者が債務者の責任財産に対し追及しうる機会を不当に逸することになるため、判旨は相当であるというべきです。
借地権は土地利用権であり、その性質は賃貸人たる第三債務者からみれば、借地人たる債務者に土地の使用、収益をなさしむべき義務であるため、借地権の仮差押えの執行は、民訴法七四八条本文、六二五条一項、五九八条によるべきであり、同法七五○条三項を準用する余地はありません。もっとも借地権の仮差押命令の内容は、借地人たる債務者に賃借権の処分の禁止を命じるだけでたり、賃借人たる第三債務者に対してはなんらの禁止命令を発する必要はないと解すべきです。例えば民訴法五九八条一項に第三債務者に対する禁止条項があるからとして、賃貸人に対し債務者に土地を使用させてはならないと命じるのは賃借権の性質上不当であり、また従来第三債務者に対して、債務者のなす借地権の譲渡につき承諾を与えてはならない旨命ずる例がみられますが、賃貸人は借地権の譲渡を承諸するか否かについて完全な自由を有するのであって、債権者がそれを拘束することはでぎないはずであるため、かかることを命じるのは行き過ぎです。のみならず裁判所は仮差押命令中に第三債務者を表示し、これを第三債務者に送達すべきであり、これによって仮差押えは効力を生じ、以後債務者が当該賃借権を第三者に譲渡しても、債権者に対抗することができないため、第三債務者に対する禁止条項はまったく不要であるというべきです。

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