仮登記仮処分

不動産を買い受けた者が、自己への所有権移転登記を確保するために、仮登記仮処分をとる事と、不動産の処分禁止の仮処分をとるのとでは、どのような差異が生じるのでしょうか。不動産の買主は、売主に対し所有権移転登記請求権を有しますが、売主がこれに応じないときは売主を相手として所有権移転登記手続を求める訴えを提起し、勝訴判決が確定すると単独で登記の申請ができます。しかし、登記をするまでに売主が当核不動産を第三者に譲渡してさきに登記をすると、買主は売主に対する所有権移転登記請求権を失ってしまうか、あるいは、買主の取得する所有権は、売主の譲渡後の設定にかかる第三者の他物権を負担したものとなってしまいます。そこでこの危険を除去防止するための方法としては、買主のため所有権移転登記の順位をすみやかに確保する方法と、買主の第三者に対する譲渡抵当権設定その他の法的処分を一切禁止し、その禁止に反した売主の処分は、買主に対する関係で無効なものとする方法とが考えられます。前者の方法は仮登記仮処分によってとることができ、後者の方法はいわゆる処分禁止の仮処分によってとることができます。

スポンサーリンク

お金を借りる!

仮登記は本登記をするのに必要な形式的または実体的要件の具備しない場合に、将来の本登記の順位を保全するためにする登記であって、これにもとづいて本登記を経由すると仮登記後になされた第三者のための登記は本登記を経た仮登記権者に劣後し、対抗できないことになります。そこで仮登記にもとづく本登記の申請を受理した登記官は、職権で仮登記後の登記を抹消するのです。不動産登記法二条によれば、仮登記をなしうるのは実体的な権利変動はすでに生じているが、登記申請に必要な手続上の案件が具備していない場合と、当事者間に実体的な権利変動はまだ生じていないが、権利変動を生じさせる請求権がすでに発生している場合、もしくは将来請求権が生じるべき場合です。そして、一般に一号仮登記を物権保全の仮登記、二号仮登記を債権的請求権保全の仮登記として区別しますが、実定法上は、破産法五五条一項において、両者が別異の取扱いをうけるほかには、特に異なった取扱いをうけず、しかも、一般に一号仮登記と二号仮登記とは相互に流用しうるものとされているので、両者の区別はさして重要ではありません。しかし、仮登記も一種の登記なので、その申請は、登記一般の原則に従って、仮登記権利者と仮登記義務者との共同申請によるのが原則です。例外として、仮登記義務者の承諾書か、仮登記権利者が仮登記仮処分命令の正本を添付すると、仮登記権利者だけで単独で申請することが許されます。
仮登記仮処分は、仮登記義務者の協力または承諾が得られないときに、仮登記権利者がその仮登記の目的である不動産の所在地を管轄する地方裁判所に対して、仮登記原因を疎明してその申請をすることができます。仮登記原因とは、不登法二条一号または二号所定の場合にあたることを示す具体的事実をいいます。
本問の場合には、すでに物権変動が生じているが手続上の要件が備わらない場合といえるから、この場合に買主が疎明すべき仮登記原因は、一号仮登記原因としての、売買の事実および登記申請に必要な手続上の要件が具備しない事実です。
仮登記仮処分は、目的不動産について争いが存しなくても求めることができるので、非訟事件の性格を有するといってよく、その審理の手続は簡易迅速なことを要求されるため、非訟事件手続法の規定を準用すべきです。そこで裁判所は同法一三条の審問および同法一四条の証人、鑑定人の訊問もできます。その場合には、仮登記義務者に反対尋問の機会を与えることもできます。疎明方法については、同法一○条が民訴法の規定を準用するので、疎明にかわる保証金の供託および真実宣誓も認められます。しかし、損害担保のための保証金の供託は、理論上、仮登記仮処分によって仮登記義務者が、直接損害をうけることもないので、その適用ないし準用の余地はありません。ただ、実務の手続では、仮登記原因を疎明する資料として、人証あるいは疎明の代用としての保証金の供託または真実宣誓が認められることは、ほとんどないといってよく、実体関係を立証できる登記義務者名義の確実な書証がない申請は、疎明不十分として却下されています。
本問の場合も、売買契約について公正証書があれば問題はありません。私署証書である処分証書によるときは、補強証拠として当事者の印鑑証明か、銀行取引契約上の届出印鑑の証明書の添付が要求されます。売買がなされた旨の陳述書や、報告書だけでは疎明が十分でないとされることが多くなっています。このように、仮登記原因の疎明につき、証明に近いような厳しい疎明資料が必要とされるのは、ひとたび仮登記仮処分命令が発せられると、仮登記義務者としては、一切の不服申立ができず、一旦、仮登記仮処分命令によってなされた仮登記を抹消するには、訴訟を提起するほかはなく、それが誤って発せられた場合に被る不利益が大きいからです。
申請を却下した決定に対しては、即時抗告ができます。その手続には非訟事件手続法が準用されるので、さらに同法二五条により民訴法の抗告に関する視定が準用されます。したがって、抗告期間は告知をうけた日から一週間であり、原裁判所による再度の考案も許されます。
仮登記仮処分命令にもとづき、仮登記がなされても、仮登記義務者の処分行為は、法律上はなんら制限をうけませんが、その本登記順位保全の効力により、事実上は、それがかなり制限されます。しかも、仮登記仮処分は、その費用としては、登記のための登録免許税を納付すればたります。これに対して、処分禁止の仮処分では、仮処分によって生じる債務者の損害を担保するために、通例として、不動産の価額の一割から一割五分程度の保証をたてさせられ、さらに登記のための登録免許税を納付しなければなりません。それにもかかわらず、本問のような場合に、仮登記がなされることなく、処分禁止の仮処分がなされることが少なくありません。その理由は、第一に仮登記仮処分では、すでに説明したとおり、仮登記原因の疎明が証明に近いほどに厳しく要求されるので、その申請が認容されることが、処分禁止の仮処分の場合に比して難しいことと、第二に処分禁止の仮処分にも、判例によって順位保全の効力があることが認められるようになったのに対して、他方では所有権に関する仮登記仮処分命令を得て仮登記を経ていても、その仮登記にもとづいて本登記をする場合には、登記上の利害関係人の承諾書またはこれにかわる裁判の謄本を添付して登記申請しなければなりません。関係上、本登記についての承諾を求めなければならない登記上の利害関係人の発生、増加、変動を防止するため仮登記のほかに、さらに処分禁止の仮処分をしておく必要のある場合があること、第三に、処分禁止の仮処分をしておくと、その登記の後になされた第三者名義の登記の抹消につき、登記実務の取扱い上後述のように、簡便な方法が認められていることのためです。
処分禁止の仮処分は、仮処分裁判所が仮処分債務者に対し、その所有する不動産につき譲渡、抵当権、質権の設定その他一切の処分行為を禁止する命令を発し、かつ登記簿にその禁止を記入させるものです。一般に、係争物に関する仮処分としてなされます。
処分禁止の仮処分は、本来は、その後における仮処分債務者の処分だけを禁止するものであって、すでになされた処分の効力を左右する効力はありません。仮処分債務者が仮処分をうける前に、すでになしてしまった処分を原因として仮処分の後に第三者のための登記がなされてしまえば、登記を新たな処分とみない以上、第三者の方が仮処分債権者に優先することになります。したがって、仮処分債権者がこのような第三者に優先されないようにするためには、別に仮登記をしておく必要がありました。事実、大審院判例は処分禁止の仮処分の効力につき、おおむねこのような立場をとっていました。すなわち、仮処分債務者のした仮処分登記後の処分行為または登記は、勝訴判決を得た仮処分債権者に対抗できないとしていました。ところが、最高裁判所は仮処分登記前の処分行為にもとづき、仮処分登記後になされた登記も、仮処分後の処分にあたるものとし、登記を得た第三者は勝訴判決を得た仮処分債権者に対抗できないという立場をとるにいたったので、処分禁止の仮処分には一種の順位保全的効力が認められる結果となりました。したがって、処分禁止の仮処分をしておけば、仮処分登記前の仮処分債務者の処分を原因とする第三者のための登記がなされても、仮処分債権者がその登記請求権を失うということはなくなり、仮登記をしておく必要はなくなくなりましたた。

お金を借りる!

保全処分/ 保全訴訟手続/ 保全処分と本案訴訟/ 家事審判事項の保全処分/ 仮登記仮処分/ 被差押債権の特定/ 借地権の仮差押え/ 株主権の仮差押え/ 返還請求権の仮差押え/ 土地の一部を処分禁止仮処分/ 共同相続人と仮処分/ 抵当権設定請求権保全の仮登記/ 強制執行と競売を停止する仮処分/ 仮登記担保権実行保全/ 商号使用禁止仮処分/ 株式名義書換禁止の仮処分/ 解雇の効力を争う仮処分/ 配転命令停止の仮処分/ 離婚をめぐる仮処分/ 保全処分の審理の方式/ 口頭弁論を開かない審理/ 疎明代用保証制度/ 一般的差押命令と制限的差押命令/ 仮差押解放金額/ 裁判所の自由裁量の限界/ 任意の履行に期待する仮処分/ 仮処分命令と解放金額/ 不作為命令の公示/ 占有移転禁止仮処分/ 意思表示を命じる仮処分/ 断行仮処分と本案判決/ 仮処分の接触/ 保全訴訟の裁判と即判力/