保全処分と本案訴訟

民事訴訟法の規定する仮差押、仮処分の制度は、将来の強制執行に備えて、終局的に権利関係が確定されるまでの間、債務者の現状を保全するものです。したがって、一方を保全処分とすれば、他方には当然、強制執行を予定されている権利を終局的に確定する手続が予定されます。仮差押、仮処分によって保全されるこの権利を終局的に確定する手続が本案訴訟です。このように、仮差押、仮処分は、つねに他方に本案訴訟の存在を前提としています。これを保全処分の付随性といい、また仮差押、仮処分は前述の目的から、仮差押、仮処分債権者の保護のために、本案訴訟が終結し、現実に権利関係が確定するまでの仮の法形成にすぎません。これを保全処分の暫定性といいます。保全処分の付随性という観点から、保全処分と本案訴訟を結びつけて考えると、二つの問題が考えられます。ひとつは、保全処分に対する本案訴訟の内容、つまり本案訴訟といいうるためにはどのような手続たるを要するか、およびこれに関連して、本案訴訟の提起可能性、提起時期という問題があります。もうひとつは、本案訴訟に対する関係での保全処分の内容、つまり仮処分の本案化の問題です。これらの問題は、ときに付随性の希薄化とも呼ばれ、特に仮処分の本案化については、様々議論があります。

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仮差押、仮処分は、本案訴訟提起後はもとより、提起前にもこれをすることができます。しかし、付随性、あるいは仮差押、仮処分が原則として債権者の申請のみにより命じられるため、債務者をいわれなき苦痛から解放するために、仮差押、仮処分が先行する場合には、債務者は裁判所に、債権者に対する本案訴訟提起命令を申請することができます。したがって、ここで本案訴訟の内容というときは、どのような手続を開始すれば、起訴命令を遵守したことになるのかという問題も含んでいます。
通常、保全処分に対する本案訴訟の内容とされるものは、被保全権利を審理判断する判決手続です。しかし被保全権利に関する審判手続がこれに限定されないことは、いわゆる特殊保全処分の例をみれば明らかです。例えばある種の家事審判事項について、これを本案とする保全処分が許されるかという問題があります。保全処分に対する関係で、本案訴訟といいうるものは、第一に訴えです。通常は給付の訴えあるいは形成の訴えですが、確認の訴えでも、例えば会社従業員地位確認の訴えなどの場合には、仮の地位を定める仮処分を考えることができます。係争物に関する仮処分の場合には争いもありますが、期限に至らないため給付請求はできませんが、請求権の存在は確定しておく必要があるとか、仮処分が先行してそれによって生じた浮動状態を解消する場合などには、確認の訴えでも可能とされます。
第二に、訴えに準じるものとして、督促手続、仲裁手続なども、終局的に被保全権利の確定を目的とする手続といえるため、本案の起訴といえます。家事審判手続には前述したような争いもありますが、例えば財産分与請求権の将来における強制執行を保全するために保全処分を行なう必要がある場合も否定できないため、これも本案訴訟のなかに含めてよく、これに対して、和解申立てや公正証書、調停手続などは、いずれも被保全権利を終局的に確定するとはいえないため、これらを本案の訴えと同視することはできません。
本案訴訟の起訴命令に付せられた期間についは、付随性の一つの現れとして、本案訴訟に先行する保全処分と本案訴訟のつながりを保つとともに、債務者の救済をもはかろうとするものであることは既述のとおりです。つまり、起訴命令に定められた期間内に債権者が本案訴訟を提起しないときは、当該保全処分の取消を申し立てることができます。この場合、定められた期間を経過した後に本案訴訟が提起された場合の効力をめぐって争いがありますが、期間を経過しても、取消手続訴訟の事実審の口頭弁論終結までは訴え提起が猶予されると解するのが判例です。

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