保全訴訟手続

仮差押、仮処分の手続は、将来の強制執行を保全するために、これに付随する手続です。しかし、これらの手続をみると、申請にもとづいて仮差押、仮処分命令を発する手続と、この命令を執行する手続とに分けて考えることができます。前者の手続を保全訴訟手続、後者を保全執行手続と呼びます。保全命令の申請の許否を判断する手続が保全訴訟手続と呼ばれ、申請の許否を実体的に判断する手続であるため、通常の民事訴訟における判決手続に対比して考えることができます。その結果、ここには原則として強制執行に関する規定は適用されず、特に規定がなければ、その性質に反しないかぎりで判決手続に関する規定が適用、準用されます。例えば、訴えの併合、口頭弁論、裁判の形式、効力、訴訟手続の中断、中止、証拠、上訴、再審などの規定です。ただ、簡易、迅速を要する手続という点から、証明の代わりに疎明や保証でよいというような若干の相違点はあります。

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保全訴訟手続は判決手続に対比されることから、ここでの審判の対象はなにかが問題とされます。保全訴訟の訴訟物は、かつては本案請求権に付随する担保請求権、保全請求権などと考えられたこともありましたが、いずれも克服され、現在では、保全訴訟は形成訴訟であるため、訴訟物は保全状態の形成を求める形成権であるとする見解、元来請求権には自己保全の権能が含まれており、このうち裁判上で債務者に対して主張される実体的保全権能が訴訟物であるとする見解、保全訴訟における紛争は被保全権利の保全についての紛争であるため、被保全権利の存在と保全の必要が両者相まって訴訟物を構成するとの見解、仮差押えもしくは仮処分による保全を必要ならしめる状態におかれた実体権が訴訟物であるとする見解が有力であるほか、保全訴訟は通常の形成訴訟と異なり、形成の規準が実定決規に規定されておらず実質は非訟事件であるため訴訟物なる観念をいれる余地はないとする見解も主張されています。
仮差押訴訟の管轄は被差押物の所在地の地方裁判所または本案の管轄裁判所に専属的に認められます。仮差押えの申請は、仮差押命令の申請、被保全権利、仮差押えの理由たる事実などを書面に記載して、あるいは口頭で申立てて行ないます。その際、仮差押えの目的物を特定した場合の効力について争いがありますが、仮差押訴訟手続は一般的仮差押機能を確定するものであり、目的物は執行の段階で特定されるものであるため、裁判所はこれに拘束されず、申立てで限定された物以外にも執行しうると解されます。審理は口頭弁論を開かずにしてもかまいません。通常は債権者のみの審尋あるいは書面審理のみによります。口頭弁論を開く場合には、弁論主義の支配に服します。そして、仮差押えの要件については証明でなく疎明でたります。それは審理の迅速と債権者の保護を容易にすることが目的だからです。なお、当事者の真実たる旨の宣誓、保証金の供託をもって疎明に代えることもできます。裁判は、口頭弁論を開いた場合は終局判決で、その他の場合は決定でします。申請が適法で、仮差押えの要件を充足するときは、仮差押命令が発せられます。ここには、仮差押えを許す宣言のほか、仮差押解放金額、場合によっては立保証の命令も掲げられます。
仮差押申請却下、仮差押命令の裁判には不服申立てが評されます。仮差押命令に債務者が上訴、異議申立てをしても執行は停止しません。そこで、この場合に強制執行停止に関する規定を準用、類推できるかという問題があります。学説では、これを認めると保全訴訟を認めた意味がなくなるとする否定説と満足的仮処分の場合のみ認める制限肯定説、常に認める肯定説とが対立しています。判例は、満足的仮処分で回復不能の損害を生じるおそれのあるものについては準用を肯定する立場をとっています。
仮差押えは終局的な法律関係確定のための暫定的手続であるため、債権者は、当然に本案の手続を別個に提起しなければなりません。保全処分の申請が本案訴訟提起前である場合には、債務者の申立てによって、債権者に対する本案訴訟提起命令を発することができます。そして、債権者が定められた期間内に本案訴訟を提起しないときは、債務者は仮差押命令の取消を求めることができます。仮差押命令は、また事情の変更によっても取消を求めることができます。被保全権利が消滅したり、債務者が資力を得たり、一定の保証をたてたり、債権者が債務名義を得たりした場合には、保全処分を必要とする理由がなくなるからです。
仮処分訴訟も、管轄、申請などは仮差押訴訟に準じて考えることができます。審理は、原則として口頭弁論を開くことになっていますが、実際には開かないのが原則です。この場合に、相手方や第三者を審尋しうるかについて争いがあります。しかし、双方審尋を口頭弁論以外の方法で行なうことは、仮処分の緊急性、密行性の必要性を考慮しても、憲決上疑義があるといわれています。証明に代え、疎明でたりることは仮差押えの場合と同様です。
裁判、不服申立ても仮差押えの場合と同様です。ただ、仮処分申請を決定で却下された場合には、通常抗告ではなく、即時抗告によるべきであるとの見解もあります。仮処分の場合には、当然に解放金額を命令中に掲げる必要はありません。しかし被保全権利を金銭的補償で満足しうることや債務者に異常な損害を与える等、いわゆる特別の事情が予見される場合には、解放金額を掲げることができるというのが判例です。
仮処分命令の取消は、仮差押えの場合と同じく、本案の起訴命令に定められた期間を債権者が徒過した場合とこの特別の事情の存在する場合に申し立てることができます。

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