保全処分

権利関係や事実状態が不確定であり、これを将来の裁判による終局的確定まで放置すると、確定した権利の実現が困難になったり、回復することのできない状態になっていて権利の確定が無意味になることがあります。このような将来の危険を未然に防ぐために、国家権力、裁判によって現在の法律関係、事実状態を保全し、あるいは法律関係、事実状態を仮に確定し保持するための処分を、広い意味で保全処分といいます。現行法は、自力救済、権利の私的強制による実現を認めていません。そこで、将来における権利実現を確保することも私人には許さず、国家がこれに代わって義務者を強制することにしています。現行法では、様々な領域で、様々な保全処分を認めています。そのうち、通常、狭い意味で保全処分と呼ばれるのが、民事訴訟法第六編第四章に規定される仮差押及び仮処分です。

スポンサーリンク

お金を借りる!

現行法上の狭義の保全処分、仮差押、仮処分は、強制執行に仕随し、これを保全する手続です。いうまでもなく、強制執行を行なうためには、債務名義の取得、履行期の到来などの要件を必要とします。債務名義の取得は主として判決手続により、また履行期の到来の場合にも、権利関係が確定して現実に強制執行を行ないうるにいたるまでには一定の時日を要します。ところが、債務者のなかには、権利関係が不確定であるこの間を利用して、債権の引当となる財産を第三者に処分してしまったり、明渡しを求められている家に第三者を入居させてしまったりすることがあります。あるいは、解雇の効力を争う労働者のように、判決による権利の確定までその地位を不安定なままにしておくことのできない者もあります。これらの場合に備えて、債権者の危険を予防、除去するための制度が、仮差押、仮処分です。
仮差押えは強制執行の対象となりうる債権には、金銭債権と非金銭債権があり、非金銭債権のなかにも、損害賠償請求権に化体して代償的に満足しうるものもあります。このうち純然たる金銭債権および金銭債権に化体しうる非金銭債権の将来における強制執行を保全するためには、その引当となる財産が処分、隠匿などによって債務者の手を離れないようにしておけばよく、仮差押えというのは、この目的のために、将来強制執行の対象となるぺき財産をあらかじめ差し押えて、その処分権を剥奪しておくものです。仮差押えが許される要件は、一定の被保全権利の存在、保全の理由の二つです。被保全権利というのは、このような金銭債権もしくは金銭債権に化体しうる債権である条件、期限などの付されたものであってもかまいませんが、強制執行の対象となりうるものでなければなりません。保全の理由というのは、前述のように債務者が債権の引当となる財産を第三者に処分してしまうおそれなどがこれになります。これらの要件を備えたときは原則として仮差押えが許されますが、例外的にそれが否定されている場合もあります。つまり債権者がすでに物的担保を有していたり、直ちに強制執行を行ないうる場合などがそうです。
金銭債権は仮差押えによって保全できますが、非金銭債権はこれによることができません。これらの債権の将来の強制執行を保全するためには、引渡し、明渡しの対象になっている当の財産を現在の債務者の下に留めて現状を維持しておけばよく、この目的を有する制度が仮処分で、強制執行の対象たる財産そのものに関するところから、係争物に関する仮処分と呼ばれます。通常は対象となる財産の移転、処分を禁じることを内容としています。係争物に関する仮処分の要件も、被保全権利の存在と保全の必要ですが、被保全権利が金銭債権以外の債権である点で仮差押えと異なっています。仮処分には、もう一つの種類があり、前述の解雇の効力を争っている労働者の地位のように、現状を維持するだけでは権利の保全にならない場合があります。このような場合には、不安定な地位を仮に暫定的に確定しておくことが必要となります。これが、仮の地位を定める仮処分と呼ばれるものです。この仮処分は、たとえ暫定的とはいえ、権利者のために権利関係を実現してしまうものであるため、被保全権利と保全の必要という二つの要件のうち、後者が特に重視されています。係争物に関する仮処分と仮の地位を定める仮処分との違いは、一般的には、前者が現状を維待する保全措置であるのに対して、後者は暫定的にではあれ被保全権利を実現する点にあるといえます。しかし不動産の処分禁止の仮処分のように、見方によってはいずれの仮処分でもあるというものもあります。そこで、面者の差異を、前者は訴訟事件、後者は非訟事件とする点に求めようとする見解がありますが、保全処分はいずれも保全権能自体に根拠があり、差異は保全の態様が申請によって異なるにすぎないとの批判もあります。

お金を借りる!

保全処分/ 保全訴訟手続/ 保全処分と本案訴訟/ 家事審判事項の保全処分/ 仮登記仮処分/ 被差押債権の特定/ 借地権の仮差押え/ 株主権の仮差押え/ 返還請求権の仮差押え/ 土地の一部を処分禁止仮処分/ 共同相続人と仮処分/ 抵当権設定請求権保全の仮登記/ 強制執行と競売を停止する仮処分/ 仮登記担保権実行保全/ 商号使用禁止仮処分/ 株式名義書換禁止の仮処分/ 解雇の効力を争う仮処分/ 配転命令停止の仮処分/ 離婚をめぐる仮処分/ 保全処分の審理の方式/ 口頭弁論を開かない審理/ 疎明代用保証制度/ 一般的差押命令と制限的差押命令/ 仮差押解放金額/ 裁判所の自由裁量の限界/ 任意の履行に期待する仮処分/ 仮処分命令と解放金額/ 不作為命令の公示/ 占有移転禁止仮処分/ 意思表示を命じる仮処分/ 断行仮処分と本案判決/ 仮処分の接触/ 保全訴訟の裁判と即判力/