弁済代位権放棄の特約

保証人の出捐によって主債務者が免責をうけたときには、原則として、主債務に対する求償権が発生します。この求償権を担保するため、民法五○○条は、債権者の有した権利が、求債の範囲内で、法律上当然に保証人に移転する旨を定めています。しかし、このような保証人の法定代位権の存在が、債権者、主債務者間の取引関係に不都合を生じると意識される場合が少なくありません。特にこの取引関係が、いわゆる継続的取引関係であるときには、そうなります。そこで、例えば銀行取引約定書ひな型には、保証案項として、次のような定めがあります。保証人が保証債務を履行した場合、代位によって貴行から取得した権利は、本人と貴行との取引継続中は、貴行の同意がなければこれを行使いたしません。もし貴行の請求があれば、その権利または順位を貴行に無償で譲渡いたします。と、銀行側の説明によれば、この特約は、一部代位に関す る民法五○二条の不都合を回避するための措置なのです。つまり保証人は債務の一部を弁済したことにより、銀行と無関係に代位した権利、例えば抵当権を実行できる、と定めるのが民法五○二条なのであり、保証人がその挙に出れば、そこで銀行取引は終了せざるを得ないこととなるために、貴行の同意がなければ、これを行使いたしません。と特約する必要があります。

スポンサーリンク

お金を借りる!

民法五○二条によれば、例えば1000万円の抵当権付債権について、保証人が銀行に500万円弁済し、抵当権を実行したところ、800万円で競落されたとすれば、銀行と保証人はそれぞれ400万円ずつ取ることとなり、銀行は900万円しか回収できないのに、保証人の出費は実際上100万円で済む結果となります。銀行からすれば、かような結果は不合理と思われ、かくて、銀行の請求あり次第保証人は、その権利または順位を貴行に無償で譲渡いたします。との保証人条項が設けられることとなります。
判例によれば、債務を弁済したのち、法定代位者が代位した権利を放棄することは、代位者の自由である、とされます。放棄しても第三者になんらの影響をも与えないからです。この論理を押し進めてゆけば、保証人が、あらかじめ、保証契約や他の約束で代位権一般を放棄したり、債権者に権利を譲渡したりすることも、契約自由の原則からみて自由である、という結論に導きます。また、ここで引き合いに出した銀行取引の実情をみるとき、銀行側の言い分は、もっともと思われます。つまり銀行取引における保証人は、いわゆる根保証人であって、一定の取引関係から取引先が銀行に対して負担する債務を、一定機関内にわたって、一定限度まで保証するのであるために、取引継続中の一時点での債務を弁済しても、理論的にはせいぜい一部代位を生じるにすぎず、その際に保証人が代位によって取得した担保権を実行するとすれば、取引関係を存続させてゆくことが、きわめて困難となります。このようにみてくると、前記特約は非常に合理的な要求に出るものといえます。
契約自由の原則を大上段にふりかぶるならば、代位権放棄の特約は、いかなる場合においても、有効とみられます。つまり、保証人が、そのような特約によって不利益を被るのは嫌だと思えば、保証人になることを拒めばよい、ということになります。しかし、場合によっては、保証人が嫌でも、嫌だと言えば債務者が金を借りられずに倒産するかもしれない、という事情があれば、しぶしぶこれに応じなければならないことも考えられます。他方、銀行の側にしても、一部代位のときの対策として放棄の特約をさせるのであるために、保証人が債務の全額を弁済した場合には、この特約を楯にとる必要はほとんど存在しないと考えられます。銀行の債権が完全に満足をうけたときには、代位した権利の行使は、保証人の自由になしうるところである、というのが銀行実務における大勢といえます。とすれば、放棄の特約は、これなくしては合理的な取引の存続を望めないことを理由としてなされる、といえます。したがって、合理的理由のない場合には、特約の効力をそのまま維持すべきではありません。このようにみてくると、極端な不利益を一方的に、債権者が保証人に押しつけたときは、保証契約そのものが無効とされます。また、それほどひどくないときでも、信義用違反とか権利の濫用ということで、銀行取引において、仮に銀行がその債権のほとんど完全な満足をうけたにかかわらず、特約を楯に保証人に代位権放棄を要求したような場合が、これに該当するか、特約がそのまま生きないこともあり得ます。

お金を借りる!

主債務の時効消滅/ 主債務者の取消権の援用/ 保証人の求償権/ 共同保証の求償関係/ 物上保証人に対する代位/ 請求権確保の方法/ 弁済代位権放棄の特約/ 信用保証協会の保証/ 支払承諾/ 代理貸付と保証責任/