主債務者の取消権の援用

主債務者のなした法律行為が無効な場合には、その保証契約も無効であって、保証人は保証債務を履行する必要がなく責任を免れます。それでは、主債務者の法律行為に取消原因ある場合、つまり買主が売主から騙され、あるいは強迫されて売買契約を緒結し、売買に詐欺、強迫によるという取消原因がある場合、あるいは、未成年者が親権者の同意をえずに、金銭を借受け、その貸借が行為無能力者の行為で取消原因がある場合には、それら代金債務や借金債務を保証した者は、主債務者の行為に関する取消権を援用することができか、取消原因の存することを保証人が知らずに、債務者に不利な債務を保証したという場合にはどうなるかという問題につき、学説では保証人が取消原因のあることを知らずに保証した場合に、保証人による取消権の援用を単純に否定するものもありますが、その多くは援用を肯定しています。あるいは、援用を肯定しないまでも、保証債務の履行はこれを拒絶することができ、程度の差こそあれ、保証人の責任を軽滅せしめています。

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商法八一条二項には、合名会社が会社債権者に対して、相殺権、取消権、解除権を有する場合には、その社員は、会社債務の履行を拒むことができると定めています。しかし、民法には保証人による取消権に関する直接の適用法規はなく、ただ民決四四九条が、保証人は、主債務者のなした法律行為に取消原因のあることを知って保証した場合には、主債務から独立した別の債務を負担したことになると定めるにとどまります。もっとも、この現定は、取消原因が行為無能力者の行為ということではなく、債権者の詐欺、強追ということにある場合は適用されず、それとは別な構成になる、と解されています。
取消権援用否定説では、保証債務は主債務に干渉することができないからとするものもありますが、保証人は、民法一二○条所定の承継人に該当しないがゆえに、援用は否定されるとするものがあります。承継人とは、法律が取消権を与えて保護する法律上の地位の移転とともに権利の移転をうけるもののことをいいますが、保証人はそのような権利の移転をうけるものではないとか、承継人は、主債務者に代って責任を負うものであるが、保証人は、主債務に従たる債務を負うにとどまり責任を負わないなどの理由によります。
取消権援用肯定説では、保証人は主債務の履行の責を負い、主債務者が履行の責を負わないときは、保証人もその履行の責に任じなくともよいので、その面からみると、特定承継人ということができ、民法一二○条所定の承継人に該当するとし、あるいは、民法一二二条によると、主債務の迫認の効力は、保証人の取消権に及ばないとするために、主債務が追認されない場合はなおさらであるとし、あるいは、保証人が弁済した後に、主債務者が主債務を取消し求償を免れる措置をとると、保証人が債権者に不当利得の返還請求をなしうるとしても、債権者が無資力な場合その請求は実効性をもたないということを援用肯定の理由とします。
相対的援用肯定説では、保証人が法律行為を取消したとしても、主債務者はそれとは無縁に取消原因ある法律行為を追認しうるとし、債権者と主債務者間、債権者と保証人間を相対的に取扱います。このように解するのは、主債務者がその債務を取り消すか追認するかによって保証債務の効力が左右されるのを防ぐためです。保証人が主債務者の取消権を相対的に援用できるとするのは、主債務者の一般債権者が、主債務者の取消権を援用できることとの均衡からいっても当然いえることであるとされています。
暫定的援用肯定説では、相対的援用肯定説のように、保証債務の効力が主債務者の出方によって左右されるという点に注目するのでなく、むしろ、保証人がその債務を履行した場合に、主債務者が主債務を取消したとか、あるいは、保証人が主儀務を取消し、保証債務の効力を消滅させた場合に、主債務者が追認をしたとかの場合に注日し、矛盾の可能性ではなく現実に発生する矛盾に注目し、それを未然に防ぐため、主債務者が取消ないし追認の意思表示をなすまでの間暫定的に、保証人による取消権の援用を認めるものです。
暫定的履行拒絶容認説では、保証人が、暫定的援用肯定説のように、取消権という観念にも拘泥することなく、主債務者が取消しないし追認をなすまでの間暫定的に保証債務の履行を拒絶することができるとする説であって、かかる見解では、ドイツ民法七七○条一項の定めるところですが、それによれば、他人の権利への関与ということを避けうることになるとして賛成されています。
永久的滅却的抗弁権説では、保証債務は、主債務の成立に暇疵がないことを前提として認められるもので、瑕疵があるような場合は、むしろ、保証人に永久的抗弁権を認めるべきあるとされます。もっとも、取消原因ある法律行為が取消されるか否かは、主債務者の主観的考量にかかわるのであるために、当然かつ永久的にかかる抗弁権を認めるのは疑問とされるむきもあります。
設問に関する判例には、準禁治産者が保佐人の同意をえずに金銭を借り受けた場合、貸主が借金債務の連帯保証人の財産を差押えたため、連帯保証人がその差押に対して請求異議の訴えを起し、控訴審で敗訴したので、保証債務の附従性を理由に、連帯保証人は主債務者の取消権を援用しうるために、金銭貸借を取消すと述ベ、上告しましたが、上告審では、連帯保証人が民法一二○条所定の承継人ではないこと、保証債務を消滅する範囲で保証人に主債務者の取消権を認める規定がないこと、それに、取消権の行使を連帯保証人に認めないとしても保証債務の附従性に反することはないとし上告を棄却したものがあります。

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