否認権の裁判外の行使

破産管財人と受益者との裁判外の和解により、否認権が行使されたのと同様の効果を定めることは可能か、そして和解の効力は裁判上の否認権の行使の効力と同等なのかという問題があります。否認権は企業倒産法の基本理念の一つである企業財産の充実、散逸防止、取戻のための重要な制度です。破産管財人に専属する権利ですが、旧商法第三編破産九九○条は当然無効とする、九九一条一項と九九六条は異議を述ふることを得と規定していたので、裁判上の行使を要するか否かにつき争いがあったのですが、現行破産法七六条は否認権は訴又は抗弁に依り破産管財人之を行ふと規定してこの争いを解決しました。しかし否認権の行使の主目的が散逸した財産を取り戻して財団を充実させることにあるのであるため、訴えや抗弁という裁判においてのみ行使しなければならないとすることは手続の硬直化と無用の時間を要する結果となります。旧商法時代から今日にいたるまで、実務では裁判外において事実上の否認権行使と同様の結果を実現させており、判例も通説もこれを認めています。

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否認権は、破産者が破産宣告前にその財産についてなした破産債権者を害すべき本来有効な行為の効力を破産財団との関係で無効とし、それによって散逸した財産を破産財団のため原状に回復させる破産法上の権利です。会社更生法上の否認権はほぽ同一趣旨の制度ですが、和議法上の否認権は債務者が和議手続開始申請後和議認可決定確定までの間に通常の行為に属しない行為または和議管財人の異議があるにかかわらず行った行為についてはその行為の相手方が悪意の場合にかぎって和議債権者が訴えや抗弁によらずとも行使でき、和議債務者との関係でその効力を否定して財産を取り戻す制度であって異なる制度です。この否認権は、一旦有効に成立した行為を破産財団に対する関係で無効とし、行為の相手方より当該財産を取得した転得者に対しても及ぶ強力な権利であるところから、地位の不安定をさけ、また取引の安全、行使の確実性、明確慎重性のため、裁判所の判断を通じて否認権の在費を確定させるため訴又は抗弁によるものとしたのです。
否認権が前記のような意義と根拠を有する以上は、訴え、抗弁、再抗弁など裁判上で主張され、かつ裁判所における判決、請求認諾と放棄、訴訟上の和解によって否認権の存在を確定させないかぎり、否認権の本来の効果を生じさせることはできないことになります。したがって調停、起訴前の和解、和解契約などで否認権行使と同一の結果をもたらしても、それは否認権行使の効果ではなく、すなわち、当該行為の効力を無効とし破産財団を原状に回復する効力も、破産財団の原状回復のための金銭支払請求権発生の効力も生じず、それぞれの手続きや契約の効力によるのです。否認権行使の効力は、その行使をする旨の意思表示が訴状、答弁書、準備書面などにより相手方に到達したときや、その行使が裁判で確定したときとみるべきではなく、その行使の意思表示到達のときに不確定的に生じ、判決確定と同時に意思表示到達時に遡って確定的効力を生じるものとみるべきであるため、訴えが取り下げられると香認権行使の効果は生じなかったことになります。また、否認権を行使して訴訟中に裁判外の和解契約も締結したが訴えが取り下げられず当該判決が確定すれば否認権行使の効果も確定し当該判決の既判力の標準時である事実審の口頭弁論終結後の和解契約であれば、否認権行使の効果を変更でくます。
破産管財人と受益者との裁判外の和解により否認権が行使されたと同様の効果を定めることは可能か、その和解の効力は裁判上の否認権行使の効力と同じかという問題では、前記解説のとおり、否認権は破産管財人が訴えまたは抗弁によってのみ行使しうるものであるため、否認権行使の効果を生じさせるためには、訴えまたは抗弁し再抗弁によらなげればならないことになります。破産管財人が裁判外で否認権を行使する旨の意思表示をなし、その相手方たる受益者または転得者がこれを認めて否認されるべき行為を原状に回復する和解契約を締結し、または調停、起訴前の和解によりこれを行うことはもちろん有効ですが、いずれも、和解契約、調停、起訴前の和解の効果による原状回復であって、否認権の裁判上の行使の効果である物権的工力と積極的効力によるものではありません。したがって、これらの裁判外の否認権行使の場合においては、当該行為が裁判上否認された場合に受益者が原状回復行為をなせば受益者の権利は当然復活するという効果や時効中断の効果などは生じず、受益者が破産者に対して有する債権についての連帯保証債権、物上担保権などは主たる債権が消滅して復活しないためにその行使はなしえない結果となるのです。裁判外の和解契約などの内容として破産債権を復活させることは、破産管財人と受益者間にのみ効力を有する限度で可能ですが、連帯保証人や物上保証人に対してはその効力を主張できません。

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否認権/ 不動産売却の否認/ 処分行為の部分的否認/ 救済融資のための担保権設定否認/ 他人の債務保障と無償行為の否認/ 転得者に対する否認/ 手形の買戻の否認/ 不作為の否認/ 否認権行使の時的制約/ 否認の訴えの性質/ 否認権の裁判外の行使/