否認権行使の時的制約

否認権は、破産宣告時から二年、あるいは否認権の対象たるべき行為がなされた時から二○年の間に行使しなければ時効にり消滅するとされています。これは否認される行為であっても、これを長期にわたって否認されるかされないかの不安定な状態に放置しておくことは、取引の安定ひいては法律関係の安定を阻害することになるからです。民法上の詐害行為取消権がやはり、債権者が取消の原因を覚知した時から二年間あるいは行為の時より二○年間という制限を付しているのと軌を同じくしますが、破産手続きという特殊な手続としての制約からその画一的処理のため、管財人が行為の相手方を覚知した時から算定せずに、宣告時から二年とした点が、詐害行為取消権と異なります。

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破産法第八五条は、その期間につき時効により消滅する旨規定しますが、否認権がその行使により逸出財産を破産財団へ復帰せしめるという効果を有するところから、形成権たる実質を帯有するものといえ、また、そうであればこそ、時効中断という目的のみをもってなす否認権行使の機会を考えることも実益に乏しいところから、実質的にはこれを除斥期間と解することができます。これを除斥期間と解すれば、援用は必要なく、時効中断の余地も考えられないことになります。この点につき会社更生法では、破産法における以上の議論をふまえて破産法第八五条の時効に因りての文言を採用せず会社更生手続開始決定から二年、行為時から二○年間を除斥期間としています。
破産法上の否認制度が認められる理由は総債権者への平等弁済を破産手続が目的としているところから、かかる平等弁清の原則に違背しあるいは他の債権者を詐害する意思をもってなされた弁済または財産移転の効力を否定し、破産財団を可能な限り増殖し総債権者の利益を保護するということです。したがって、その意味においては、破産管財人は、否認の原因が有する限りにおいて、より積極的に否認権を行使すべき義務を負うことになります。これに対して、破産手続きと異なり会社更生手続は、企業の維持、再建を目的としており、更生管財人は、かかる目的との関係をふまえて、例えば取引先あるいは金融機関との取引の継続を重視し、否認権行使を差し控えなければならない場合をも考える必要があります。そこで、その意味では更生手続上の否認権は、経営者的地位にたつ更生管財人の裁量により、否認権行使による利益と更生手続全体との配分、ことに更生計画案を迅速に樹立すべき要請との均衝、否認権行使後の権利実現の可能性の度合などを考慮して必要にしてかつ適当な限度で、行使されるべきであるということになります。かくして、破産法上の否認権と会社更生法上の否認権の以上のような実質的差違を前提とすれば、会社更生手続が先行する場合の取扱いとして、先行手続で否認権が仕使されていなければ後行手続たる破産手続ではできる限り否認権行使の余地を確保すべぎであり、したがって、破産法第八五条の二年の期間には、更生手続の期間は算入すぺぎではなく、後行の破産宣告期日から二年の期間が新たに算定されるべきです。
なお、先行する会社更生手続の前にすでに破産手続が係属している場合、つまり破産宣告、会社更生手続開始にともなう破産手続中止、更生計画認可による破産手続の失効、会社更生手続廃止、職権による破産宣告という場合にも、実質的にはやはり先行破産の続行であるために先行の破産宣告のときから二年を計算すべぎですが、会社更生手続の機関は算入すぺきではありません。
先行の会社更生手続において否認権が行使されていた場合としては、否認訴訟がいまだ係属している場合と、先行の否認訴訟とは別個に後行の破産手続きにおいて新たに否認権行使の手続が介しされる場合とを考えることができます。前者については、当然に先行手続における否認権行使期間の効力は承継されます。後者の場合においては、管財人の否認権行使の態度が継続していると認められる場合において先行手続における期間の効力をまったく消滅させるのは通当でないとの配慮から、裁判外の催告による時効中断の趣旨を類推して完行手続の終了後六か月以内に否認権を行使すれば、先行手続における期間遵守の効力は維持されると解する見解があります。

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