手形の買戻の否認

支払停止後の手形に対する支払は、破産法七二条の否認の対象となりますが、破産法七三条一項は、例外として、破産者より手形の支払を受けた者が、それを否認されることにより支払を受けなかったことになるならば、債務者の一人または数人に対する手形上の権利を失うことになる場合は、その支払を否認できない旨定めています。ここに債務者の一人または数人に対する手形上の権利とは、手形所持人の前者に対する遡求権を意味しますが、この規定の趣旨は、通常手形所持人が、手形の支払を拒絶された場合には、一定の期間内に支払拒絶証書を作成しておかないと、前者に対する遡求権を失うところ、手形の支払がなされる場合には、拒絶証書が作成されないので、その後に手形の支払がなんの制限もなく否認されると、手形所持人は、受領した金員を破産財団に返還しなければならなくなる一方、前者に対する遡求権は、拒絶証書がすでに期間経過のため作成できないがゆえに行使できなくなり、そのため手形の支払を受けなかったときよりも不利益な地位にたたされるというはなはだ不合理な結果になり、また、通常の否認と比べ権衡を失するところ、このような事態は、手形取引の安全を害することになるので、例外として、否認の対象からはずしたものだと説明されています。

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手形所持人は満期になれば、支払のため手形の呈示をしないと、前者に対する遡求権を失い、呈示をすると手形責務者からの支払を拒絶することができず、仮に受領を拒絶しても支払拒絶許書を作成することはできない結果遡求権を失うことになります。そして、支払を受領しても、それが否認されると、受領金員を返還しなければならないうえに遡求権も失うことになり、手形所持人は、つねに手形上の権利の実質的価値の重要部分を失うという不合理なことになります。そこで手形所持人が、債務者の破産になりうべき状況において手形の支払を受けた場合には、破産債権者の利益に反してでも手形所持人を保護すべき合理的、必然的な理由があるとし、したがって、手形支払の否認を排除する方向をとらざるをえなくなるところ、七三条一項は、このような手形所持人のおかれる遡求権喪失を前提とする越旨であると解するのです。
手形の買戻請求権の法律的性質については、見解がわかれるところですが、破産法上の否認との関係では、手形の買戻が、七三条一項の適用ないしは、類推適用があるか否かという点が問題となります。しかしながら、七三条一項の趣旨が前記のとおりである以上、規定は手形金を受領しなければならないことと遡求権の喪失との間に因果関係がある場合にかぎって適用さるぺきであって、例えば満期前になされた手形の支払や、手形金に対する代物弁済、あるいは支払拒絶証書作成後または拒絶証書作成期間経過後になされた手形の支払などの場合は、手形所持人はその受領を拒絶することができ、あるいはすでに遡求権を保全できたか、反対に失っている場合であるから同条の適用はありえないことになります。
支払停止後の手形の買戻が否認さるべきものとしても、その後破産者が振出人から手形の支払を受けていた場合はどうなるかというと、つまり、手形買戻のため出捐が、その後の支払によって補充された場合にも依然として七二条が通用され否認されるのかという問題です。この点について 判例では、約束手形の裏書人たる破産会社が被裏書人から、その手形を買い戻してその代金を支払ったにとどまるときには、破産法七二条の否認権の行使を免れないことはもとよりですが、買い戻した手形について、その手形金額が破産会社に対し現実に支払われた場合には、その買戻のため要した代金とその手形金の支払を受けたことによる入金とを差引計算し、破産財団に属する財産について価値の滅少を来さない限り、手形金の買戻代金の支払については、破産法七二条による否認権の行使は許されないと解するのが相当です。手形買戻の際の代金の弁済とその手形金の弁済受領とを各別に考察せずして、これを破産財団に属する財産の価値の変動の点より総合的に考察するのが妥当だからであると判示しています。これは、先の昭和三七年の判決を前提として、手形買戻につき、否認できない例外を認めたものです。
否認の対象となるには、その行為が破産債権者の利益を害すること、つまり破産債権者の共同担保である破産財団を滅少させ債権の平等な満足を不能あるいは不充分ならしめるものであることが必要なところ、手形を買い戻した後に振出人から手形金の支払を受けている場合には、破産財団の滅少はなく、この要件を欠くものとみられるので、判旨は妥当であり、学説もこれに従っています。ただし判旨にある代金の弁済と手形金の受領を綜号的に考察するとは後日の支払が必ず予定されているという手形の特殊性に着目していっているのであって、それを超えていわゆる借入金による弁済のような場合まで否認できないとしている趣旨ではないと解すぺきであり、学説も限定的に解しています。
否認を免れるためには、手形金が現実に支払われていることを要するか、あるいは支払が確実であることが証明されればよいかについて、見解がわかれていますが、破産財団からみれば、現実に支払われた場合と単に債権として存在する場合とでは価値に差があると思われ、また支払が確実な旨の立証は容易ではないことを考えあわせると前者の見解が妥当です。

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